古代ローマ・ポンペイ映画(2)「POMPEII_The Last Day_BBC Documentary」/ヘルクラネウム映画「AD79」


 2003年英国BBC製作の50分の短編「POMPEII_The Last Day_BBC Documentary」(アンダーバーの入る変な題名ですが、Amazonの題名がこのようになっているので、そのままにして います。また、 「Pompeii: The Last Day」という題名でもdvdが出ています )と、エルコラーノ(Ercolano)(古代名はヘルクラネウム。今は、エルコラーノ遺跡、という名称が一般的かも知れない)を扱った珍しい映画、 「Anno 79: La distruzione di Ercolano」(1962年イタリア)をご紹介します。


(1)「POMPEII_The Last Day_BBC Documentary」

  これは、噴火のあった、79年8月24日から25日明け方にかけてのほぼ24時間を、ドキュメンタリータッチで描いた再現ドラマ です。一応主要な登場人物 はいるので、後ほど簡単にご紹介しますが、登場人物のストーリは、本作においてはあまり重要ではありません。本作のもっとも重要 な特色は、当日の24時間 を、時間を追って描いている点と、現在の遺跡を、そのまま当日の再現映像に重ねている点、およびプリニウスの動静が扱われている 点にあるといえます。再現 映像としては素晴らしいものの、見ごたえとしてはいまいちなBBCの再現ドラマとしては、本作の演出は結構成功しているのではな いかと思います。

 まず、現在の遺跡を、そのまま当日の再現映像に重ねている点ですが、下記のような感じです。
 ジュリアス・プレビアス(ラテン語発音はポリビオスだと思われるが、英語ではこのように聞こえた)家の広間。再現ドラマと現在 の遺跡。


 商人の家の奴隷たち。水の入ったプールで足で何かをふんでいる。ワインではなく、洗濯をしているものと思われる。再現映像と、 遺跡。


 寝室のベッドで最後の時を迎えるジュリアス・プレビアスと妻の再現映像と遺骨。

 主要登場人物(ジュリアス・プレビアス家夫妻と妊娠中の娘ジュリアとその夫、商人とその妻と愛人の奴隷、2人組みの剣闘士)そ れぞれについて、この、遺骨と再現映像が登場します。結構インパクトのある演出でした。

  物語りは8月24日午前10時からはじまり、午後1時頃の噴火、1時半、2時、午後の半ば、5時、8時、9時15分、翌日1時、 6時、6時50分、7時 10分、と時間が表示されながら進んでいきます。主要登場人物の寸劇の部分もあるのですが、半分くらいはナレーションです。この ナレーションのお陰で色々 なことがわかります。例えば、50年ぶりの噴火であること、100万トンの灰が午後の中ごろまで降り落ちたこと、18時間のうち に100億トンの岩と灰が 降ったこと。ポンペイものの映画を見ていると、爆発が起こり、地震で建物が崩壊し、火山灰が降り積もり、直ぐにも町が壊滅したよ うに思えてしまうのです が、本作を見ると、案外時間はあったように思えます。それは逃げる時間があった、という意味ではなく、死を予期してから、死に至 るまでの時間が長かった、 ということです。これは相当辛かったものと思います。

 寸劇でも参考になった部分・興味深かった部分は多々あります。ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(いわゆる大プリニウス) が、娘に言われて窓を振り返った場面。

  早速プリニウスは救援隊を率いてポンペイに接近(夕方5時頃)するのですが、ポンペイよりも、沖合いの方が噴煙に太陽をさえぎら れ、視界が利かず、ポンペ イの南にあるスタビラエ(Stabiae)に向かい、ここで避難民を救助しようとしたこと。しかし実際ついてみると、手遅れ気味 で、スタビラエの友人宅で のんびり風呂に入ったりしているプリニウス。友人に「救援にいかないのか」と言われ、もうどうにもならないなとど言っているプリ ニウスである。最初噴火を 目にした時、プリニウスは興奮し、これは学術的にも救助の意味でも大きな価値がある、と行動を起こすのですが、机に向かって何か 書き物をしている甥の小プ リニウスは、あまり感心がなさそうで、伯父に「お前は来ないのか、いいチャンスなのに」といわれても、あっさりスルーする小プリ ニウス。おやおや。

  プレビアス家では午前1時過ぎに奴隷を解放する。しかし、我々は自由意志でここに残る、という奴隷たち。そして、その後も「ご主 人」と呼び、主人は「もう 主人と呼ぶな」と受け答えする場面が印象に残っています。また、プレビアスの家では、意外にランプが長持ちし、25日の6時頃ま で付いていたのも印象に残 りました(もちろん噴火直後、パニックになり、さっさと主人を捨てて逃げ出す奴隷の場面もありました。
 粉塵が降り積もり、1階のドアが開かなくなったのが、24日5時頃。2階から飛び降りて脱出。
 大噴火直後の1時過ぎ、粉塵が太陽を隠した時、奴隷女が寝ている主人に「It's day sun has gone」という台詞も印象に残りました。

 最後に少し驚いたのは、止めを刺すがごとく、翌朝6時に起こった2度目の大爆発です。机で書き物をしながら寝てしまった小プリ ニウスが爆音と振動で飛び起き、ミセヌムにあるプリニウスの邸宅が地震で崩壊し、あわてて小プリニウスと母が避難する場面です。

 本作はなかなか良くできた再現ドラマだと思いました。実は、中国にいる時に、本作のdvdを購入していたのですが、ポンペイも のというと、スティーヴ・リーヴスの1964年版「ポンペイ最後の日」を 思い出してしまい、あまり見る気がせず、放っておいたのでした。今回も、実はネット版を見たのでした。ひょっとしたら、dvdに は英語か中国語の字幕があ るのかも知れませんが、dvdをPCで再生した場合、私の所有しているPCでは、聞き取れなかった箇所は読みきれなかった字幕な どについて、頻繁に巻き戻 しをすると、PCがハングしてしまうことがあるんですよね。なので、DVDを持っていても、画面ショットを取ったり、巻き戻しを するには、ネットの方が良 いのでした。本作も、日本語情報がネットに無く、日本語字幕版も発売されていないようなのが残念です。

 最後。海に臨んでいたポンペイ市街の映像。


IMDbの映画情報はこちら。
AmazonのDVD「POMPEII_The Last Day_BBC Documentary」はこぢら
AmazonのDVD「Pompeii - The Last Day/Colosseum - A Gladiator's Story (2004)」はこちら。
古代ローマ歴史映画一覧はこちら


(2)「Anno 79: La distruzione di Ercolano」(1962年イタリア)

 イタリア語の題名を日本語にすると、「紀元79年:エルコラーノの崩壊」ということになるのでしょうか。古代では、エルコラー ノは、ヘルクラネウムと 呼ばれていました。最近は、エルコラーノ遺跡、という呼び方が一般化しているようですが、20年くらい前までは、「ヘルクラネウ ム遺跡」の方が一般的だっ たものと思います(ヘルクラネウム遺跡だけを扱った専門書が日本語で出版されていたのを古書店で見た覚えがあります。正確な題名 は忘れてしまいました が。。。。)。で、そのヘルクラネウムを扱った映画なかと興味を持ったのでみてみたら、これが何とも。。。。

 キリスト教徒の弾圧ついで に政敵の失脚を狙う陰謀・その過程を通じてキリスト教徒側に立つようになる主人公、剣闘士との戦いと剣闘士の参加、キリスト教徒 と主人公が処刑される寸前 に大爆発が起こる、という点、普通のポンペイ映画と変わらないのですが、根本的な疑問は、「いつ、ヘラクラネウムに舞台が移った のだ?」ということなので した。もしや、最初の凱旋式と皇帝謁見の場面からして、ずっとヘラクラネウムの話だったのでは?という疑念が出てきたので、もう 一回冒頭の、主人公マーカ ス・タイベリアス(ティベリウス)の凱旋場面から見直したのだけれど、凱旋場面の次の、追われている男が、仲間に「マーカス・タ イベリアスに伝える為に ローマへ行ってくれ」と言っているので、やはり、冒頭はローマが舞台だったことがわかります。一度だけヘラクラネウムという単語 が出てきた場面があったの で、そこを見直すと、悪女のヒロイン・ディオミラからの伝令が、「ヘルクラネウムの奴隷を買おうと検討しているので、あなたのア ドバイスが欲しい」とマー カスに言っているのですが、そういえば、最初に見たときは、「アドバイス」だけで、まさか実際にヘルクラネウムに行っていたとは 思っていなかったのを思い 出したのでした。とはいえ、その後も、ローマの元老院と皇帝などがマーカスと会う場面が何度も出てくるので、つまりは、舞台はヘ ルクラネウムとローマを 行ったり来たりしていたことになる。全然気がつかなかった。で、一応筋は通っていることがわかったので、あらすじメモを見ておさ らいをしてみても、やはり この映画は、あらすじを日本語で残す時間をかけるべきなのか。と思ってしまうのでした。まあ、火山の爆発場面は実際の火山の噴火 フィルムを使っていると思 われ、結構な迫力だし、街の崩壊場面も、意外に見れます。ローマ兵士の軍装や一般人の装束は、ソード・サンダル映画全盛期のイタ リアでの製作なのだから、 これも問題ありません。とはいえ、やっぱり、「ティトス皇帝が高齢だから後継者をマーカスに」といって、皇帝からの使者が、噴火 がなければキリスト教徒と 一緒に処刑されていた筈の主人公を許す、というラストには、これを歴史映画として見れと言われても、私には無理そうなのでした。 だって噴火の時、ティトス はまだ40歳になっていないんだもの(実際演じた役者さんは高齢者だった)。まあ、それでもいくつか他の映画ではあまり見た記憶 の無い場面も多く、そこだ け解説して終わりたいと思います。
 まず冒頭、凱旋式の後、宴会で皇帝と会うマーカス将軍。真ん中に座っているのが皇帝。左がマーカス。右が悪の黒幕(の情婦で、 実際本人も陰謀家)のヒロイン、ディオミラ。

  いくら元首政時代とはいえ、こんな風に皇帝と同じ椅子に座ることができたのでしょうか。。。。興味深い映像です。あとマーカスの ギリシア髭も気になりま す。知識階層へのギリシア髭の流行って、ハドリアヌス時代以降ではなかったでしたっけ。更に、ギリシア人や、ギリシア髭を生やし たギリシアかぶれの将軍な んて、ティトスの時代にいたのでしょうか。。。。。まあでもこれも興味深い映像です。

 こちらはヘラクラネウム(と判明した)剣闘士練習場。色々な映画で剣闘士練習機材を見てきましたが、この棘のついた鉄球くぐり はあまり見た覚えがありません。これも貴重な映像なのかも。

  だんだん見てゆくと、最初の凱旋式では結構な数の群集と兵士がいたのに、それ以外は、市内をゆく皇帝の籠を見送る市民の数すら 100人程度しかいなかった りして、「これは本当に酷い低予算なのかも」と思い始めてしまったのですが、一応元老院だか皇帝の宮殿だか、そこそこ立派な建物 が登場していて、なんか一 安心。

  この映画で(少し)面白かったのは、上記のような、小太りの中年の貴婦人がなにげに活躍するところ。マーカスが捕らえられてか ら、配下の兵士は、護送され るマーカスを救出しようと襲撃し、撃退され、ローマ市内を逃亡するのですが、この貴婦人は、怪我をした若い兵士がイケメンだった ので拾ってきて介抱し、更 に馬車で逃亡の手助けまでするのでした。こういうキャラもあまり見たことが無いので貴重かも。

 そして、お約束なのかも知れませんが、途中から無意味に上半身裸になり、剣闘士スタイルになるマーカスとその部下たち。いくら ゲリラとはいえ、わざわざそんな格好をする必要がどこにあるのだろうか?

  キリスト教徒処刑場面。延々と続く十字架の列は印象的です。しかし、この時、部下(年齢的にはマーカスより上。50歳くらい)の 隻眼のレピドゥス将軍の右 手の縄が外れていて、将軍はわざわざ右手で十字架をつかんで、縄が切れていないふりをしてるんですよね。。。。まあ、これが伏線 となって、大噴火が起こっ た時、混乱に乗じて逃げ出し、仲間を救うことができたわけですが、噴火がなかったら、どうするつもりだったのだろうか。そのまま 火あぶりの刑になってしま うつもりだったのだろうか。下記は粉塵が落下し、地震で崩壊する町並み。画像が小さいのでわかりにくいかも知れませんが、火の粉 が降り注ぐ映像は、なかな か良くできていると思いました。


 で、全体的な感想としては、英語版は、dvdはおろか、vhsすら販売されている気配もなく(イタリア語版はDVDが出ている。15.95ドル)、Wikiの記事でも、
「Anno 79: la distruzione di Ercolano è un film del 1962, diretto da Gianfranco Parolini.」
と いうイタリア語の一行しか無く(英語の記事も無い)、IMDbのユーザーコメントくらいしか詳細な英語のあらずじ紹介が無いよう な映画としては、余程の好 事家以外はお金を出してまで見ようとは思わないと思われ、このまま忘れ去られてしまうくらいであれば、英語版がネットにあがり続 けていてもいいのではない かと思うのでした。なんか、IMDbに詳細なあらすじを書いた方も、情報がネット上に無く、忘れ去られてしまうのを儚なんで、詳 細なあらずじを記載したの ではないか、と思えるのでした。

IMDbの映画紹介はこちら。あらすじも、こちらをご覧ください(マーカスが皇帝 の甥という設定とか、映画に出てきた気がしないので(どうでもよさそうな宴会場面の皇帝との雑談は聞き流しているところも多かっ たので、そこで出てきたのかもしれませんが)、何かの資料から起こしたのかも知れません。
古代ローマ歴史映画一覧はこちら

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