古代イラン人の名前として知られているのは、ダレイオスやクセルクセス、シャープールやホスローといった王族の名前です。一般 人の名前にはどのようなものがあるのでしょうか? これについては、シャープール1世(在241-272年)の碑文ナクシェ・ロスタム碑文に、王族含めた役人の名前が役職とともに延々と記されてい ます。この役人の名前は、一般の人びとの名前と考えてもいいのではないか、と考え、碑文から抽出し、以下に並べてみました。アル ダワーンやヴァラシュ、ゴンドファル、セレウコスなど、パルティア人の名前も見えています。一方後期ササン朝王に多く登場するホ スローやヤズダギルドが見えていないなど、前期ササン朝時代の特徴が出ているように思えます。 ところで、縄田鉄男教授退官記念論文集刊行会編の言語文化論叢『縄田鉄男教授退官記念論文集』 という書籍に、『名前の意味するもの−イラン人名学事始め−』(上岡弘二、吉枝聡子)という論考があり、現代イラン共和国の男女 の人名ベスト30の調査と解説があり、現代イランの人名の傾向を知ることができます。これによると、現代イラン人男性のほとんど はアラビア語起源のイスラーム関連名で、イラン起源の名前も、『シャーナーメ』などに登場する、中世になってからメジャーとなっ た神話系の名前や国王の名前で、古代イランで一般人が利用した名前は現在には引き継がれていないようです。一方、女性名の場合 は、ナーヒード(古代の女神アナーヒター)、ミートラー(古代の太陽神ミトラ)などがベスト30に入っていて、女性名について は、古代イランの名前が、現在も多く引き継がれているようです。 以下、ナグシェ・ロスタム碑文に登場する人名一覧です。 【1】王族の男性の名前(11種類) バフラーム、シャープール、ホルミズド・アルダシール、ナルセフ、ペーローズ、パーパク、 アルダシール、Hamazasp、Valash、ササン、Shapur bidakhsh 【2】王族の女性の名前(6種類) Khoranzim Aduranahid Dinak Shapurdukhtak Rodak 【3】女性の名前(8種類) Narsehdukht Ćašmak Mirdut( Myrrod) Rud-dukhtak Varazdukht [Gorazdukht] Stahyrad Shapurdukhtak Hormizddukhtak 【4】男性の名前(90種類) Abdagash Abursam Abursam Rakhsh Abursam-Shapur アルダシール Andegan Anošak Ardashir bidakhsh Ardashir Karen Ardashir Varaz Ardashir Suren Arshtat Mihran Artaban Asporik バフラーム Bandak Barrak bidakhsh バグダッド Chashmak Chihrak Dehin Varaz Diran Farrak Frīk Geliman Gok Karen Gondofarr Abgan Gurik(Vardik) Kerdir Ardavan Kerdir(キルディール) Khoranzim Khudik Khumafrat Khur Kiduk Kirdisro bidakhsh ホルミズド Hormizdak Manzik Mard Mihr-khwast Baresigan Mihrak Mihrkhwast Mihrožan マーディン ナルセフ Nashbad Naduk Odabakht Pabish パーパク Papak Vaspurigan Pasfard Pazihr Vaspurigan Pohrik ペーローズ Peroz Karen Rastak Pažihr Sagbus ササン Sasan Ornekan Sasan Suren セレウコス Shanbit Shahimust シャープール Sritoy Tir-mihr Tiyanik トサール(Tosar) Vahunam Valash Vartragnipat Vardbad (Gulbad) Vardan Vardapad (Gulbad) Varzin Vinnar Vifar Vifard Virod Yazdbad Yoymard Zayen Zik Zik Zabrigan Zurvandad 以上 |