ロシア歴史映画「君主のしもべ」(2007年)


  森で哨戒中の兵士を殺害して廻る謎の黒騎士。危険な香りの漂う美女、陰謀渦巻く絢爛たるルイ 14世時代のヴェルサイユ、スペイン継承戦争中のフランスを巡る、北方戦争中のロシアとスウェーデンの秘密外交、そして北方戦争 の帰趨を決定づけた、歴史の教科書にも登場するポルタヴァの戦い。 面白そうな材料は盛りだくさんなのに、どれも消化不良に終わってしまった感じなのが残念です。各国上映時の題名にも表れていて、 ロシア、エストニア、英語 版では「君主のしもべ」、スウェーデン版では「ポルタヴァの戦い」、ブラジルでは「戦いの王」、ドイツでは「百獣の協定」などま ちまちとなっているのも、 焦点が絞りきれない作品であることを表しているように思えます。愛とロマンと友情、謎と冒険の娯楽活劇映画というキャッチコピー を目指したところが、娯楽 活劇に徹せられず、史劇と活劇の間で中途半端となってしまったという感じ。「君主のしもべ」というタイトルを取れば、娯楽活劇の 側面が強調され、「ポルタ ヴァの戦い」というタイトルを取ると、史劇の側面に焦点が当てられる、ということがそのまま各国公開時のこの作品の捕らえ方に反 映されているのではないで しょうか。なお、「君主のしもべ」よりも、「皇帝密使」というタイトルの方が語感的によさげです。しかし、ルイ14世は皇帝では ないので、「王の密使」と いう題名にせざるを得ず、しかしそうなると、本作に登場する三人の王のうち、ロシアのピーターだけが皇帝となってしまい、あちこ ちから物言いがつきそうな ので、「君主(sovereign)」という題名に落ち着いてしまったのではないかと思った次第。

 ところで、ここ数年製作された一連のロシア歴史映画は、概ね二つのグループに分類できると思います。

ひとつは、エンタティメント性の高いもの。

・「1612」 (2007年)
・「アレクサンドル・ネヴァ川の戦い」(2008年)
・「ビバ!アンナ」(2008年 TV)
・「バ トル・キングダム 宿命の戦士たち」(2010年)

もうひとつは、リアル史劇性の高いもの。

・「ツァーリ」(2007年)
・「オ ルダ」(2012年)

 本作は、前者のグループです。最近のロシア製作歴史映画には、他に「モンゴル」(2007年)「チンギス・ハーンの意思」(2009年)もありますが、これらはまだ未見です。 これらはどちらのグループに入るのでしょうね。そのうち見てみたいと思います。本作は、日本でもdvdが出てもいいように思えま す。


  まず登場人物です。右上からルイ14世。その左が主人公ブレーゼ勲爵士、その左が恋人のモンテラス夫人。左上がピーター大帝。左 下がブレーゼの宿敵ブッ シュ伯爵。その右がスウェーデン国王カール12世。その右が主人公の盟友・ロシア軍近衛隊中尉ヴォロノフ。右の二人は端役のショ ンベルク伯爵とその妹。端 役と知らずに登場人物一覧に入れてしまったもの。コマ割調整が面倒なのでそのまま入れておきました。

 主人公ブレーゼ、ブッシュ、ヴォロノフの三人が、君主の僕。

  1709年。ロシアに侵攻したスウェーデン軍を追って西ウクライナに駐留中のピーター大帝の軍営。近くの森を哨戒中の兵士が何者 かに殺害される事件が相次 ぐ。兵士達の間には悪魔の使いだとの噂が流れ不安が広まる。西欧的近代化を推進中のピーターは、そんなものはこの国の異教の名残 だと一蹴するが、部下の ヴォロノフは調査を開始する。

 一方フランスのヴェルサイユ宮殿では夜毎華やかな宴会が催され、二枚目のプレイボーイ勲爵士ブレーゼは放 蕩生活に明け暮れていた。ある夜の宴会で、ポーカーに興じる美しい女性モンテラス夫人に出会う。ポーカーは、夫人とブッシュ伯爵 との一騎打ちとなり、ブ レーゼは夫人に味方して賭け金を吊り上げ続ける。賭けは夫人の勝ちとなり、ブレーゼは早速夫人にラブレターを送り一夜を共にす る。ところが、ブッシュはイ カサマを主張し、ブレーゼとブッシュは剣で決闘することになる。

 この決闘は命を賭けるものではなく、ブレーゼが勝ち、ブッシュは頭を怪 我して寝込む程度で済んだものの、決闘を嫌う国王ルイ14世の不興を買い、王は二人を体よく宮廷から追い払うことに決める。北方 戦争中であるロシアとス ウェーデンの双方に親書を送る使者として、ロシアへはブレーゼを、スウェーデンにはブッシュを送ることにする。
 
 航路でバルト海に入り、当時のポーランド領に上陸したブレーゼは、港湾の人々にフランス宮廷風の装束を笑われ、地元風の服装に 買い換える。こういう風俗情報は大変興味深い。

  ロシア領に入ったブレーゼは、宿屋で旅行中のションベルク伯爵とその妹に出会う。酒場の二階が宿屋となっているが、地元の民衆と 同じ酒場で、貴族も飲食し ている。これまでこの手の映像に疑問を思ったことはなかったが、今回急に疑問が出てきてしまった。宿にはヴォロノフ中尉もやって くる。これがヴォロノフ中 尉とブレーゼの出会い。以下右がヴォロノフ、その左がションベルグ伯爵、その左が妹。左端の背中がブレーゼ。美人の妹に早速色目 を使うブレーゼ。懲りない 奴。ションベルク妹が帽子を取らないのも興味深い。そういうものだったのだろうか。

  翌日ブレーゼは、ションベルクの馬車に乗せてもらうことになるが、途中で盗賊の待ち伏せに合い、ションベルク兄妹は殺害される。 ブレーゼも命を落としそう になるが、ヴォロノフ中尉に助けられる。二人でロシア軍陣営に向かう途中、ヴォロノフは寄り道して、実家のある村にブレーゼを招 待する。ところが、そこに スウェーデン軍が侵攻してきて、女は犯され、村は焼き落とされ、ブレーゼの親書も奪われて、既にスウェーデン軍に合流していた ブッシュ伯爵の手に渡ってし まうのだった。

 その頃ヴェルサイユでは、ルイ14世がモンテラス夫人に親書の真意を告げるのだった。それは、戦争中の両陣営に決闘した二人を 送り込み、戦闘に巻き込まれて命を落とすことを画策したのだった。陰謀を知った婦人は財産をまとめてブレーゼの元へと旅立つ。

  スウェーデン軍に捕らえられたブレーゼとヴォロフノフは、村の生き残りの老若女性ゲリラの手で助け出される。スウェーデン軍の軍 装をまとい、陣中を突破す る時にカール12世を見かけたヴォロノフは、カールを狙撃する。こうして、ポルタヴァの戦い前にカールが負傷していたとの史実が 説明されるのだった。

  ネタバレを避けるというよりも、書くのが面倒なのではしょりますが、

・ロシア兵士を狙う黒騎士の正体は?
・モンテラスはルイ14世の陰謀を阻止できるのか?
・果たしてルイ14世の陰謀はこれだけなのか?ロシアとスウェーデンの決戦という一大イベントに、ルイ14世の陰謀はどう絡んで くるのか?
・ブレーゼとブッシュの宿命の対決は?
・ロシアの将軍アレクサンドル・メーンシコフが登場しているが、この後どのように絡んでくるのか。

 などなど、様々な複線や要素がポルタヴァの戦いに向けてどのように収斂されてゆくのか、面白そうな展開だったのですが、複線は ちゃんと回収されてはいるものの、いまいちな消化不良な感じでポルタヴァの戦いとなるのでした。

  ポルタヴァの戦いの場面はそこそこ見応えがありましたが、双方合わせても数万程度の軍隊にしか見えなかったのが残念。普通の映画 だと、数万に見える戦争場 面はなかなかのもので十分だと思うのですが、ポルタヴァの戦いは、双方十数万の大軍が激突した大規模な戦闘だったそうなので、そ れを知った上で見ると、い まいちに見えてしまうのでした。贅沢な感想だと思うのですが。

 そのポルタヴァの戦いの場面。ロシア軍陣営から、行進してくるスウェーデン軍を眺めたところ。

 スウェーデン軍。左画像の担架で指揮を取っているのがカール12世。鮮やかなブルーに黄の縁取りの軍装が印象的。

 ロシア軍。緑と赤の軍装が、青と黄のスウェーデン軍と対照的。左画像左がピーター。その右がアレクサンドル・メーンシコフ。右 画像の望遠鏡を覗いている人物はピーター。幾つかの映画で、戦場で望遠鏡を覗くピーターが登場しているが、彼にはこの姿が良く似 合う。


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