23/Jun/2018

インドにおける映画『スターウォーズ』の浸透度


 インドは基本的にヒンドゥー映画圏とドラヴィダ映画圏に分れ、ヒンドゥー映画圏の方は、かなり アメリカナイズされてきている印象があります。その実態を調査することは簡単ではないと思うのですが、ひとつの指標として、映画 『スター・ウォーズ』シリーズの浸透度を調べてみました。

1.売上

売上げ集計サイトBoxoffice Mojoに掲載されている数値を引用してみます(1ドル100円換算)。

EP4 新しい希望 データなし (BoxOffice) (米国4億6099万$、海外3億1400万$、合計7億7539万$)

EP5 帝国の逆襲 データなし(BoxOffice) (米国2億9047万$、海外2億47.90万$、合計5億3837万$)

EP6 ジェダイの帰還 データなし(BoxOffice) (米国3億930万$、海外1億6580万$、合計4億7510万$)

EP1 ファントムメナス 53万8513ドル(BoxOffice) (約5400万円)(米国4億7454万$、海外5億5250万$、合計10億2704万$)

EP2 クローンの襲撃 61万7073ドル(BoxOffice) (約6100万円)(米国3億1067万$、海外3億3872万$、合計6億4939万$)

EP3 シスの復讐 74万7344ドル(BoxOffice) (約7500万円)(米国3億8027万$、海外4億6848万$、合計8億4875万$)

EP7 フォースの覚醒 451万7344ドル(BoxOffice) (約4億5千万円)(米国9億3662万$、海外1131.5万$、合計20億6822万$)

ローグワン 114万3293ドル(BoxOffice) (約1億1400円)(米国5億3217万$、海外5億2387$、合計10億5605万$)

EP8 最後のジェダイ 246万2280ドル(BoxOffice) (約2億4600円)(米国6億2180万$、海外7億1238万$、合計13億3253万$)


EP4−6の頃は、海外収入の各国内訳データがBoxOfficeにはありませんが、インドが外資に経済を開放する前の時期です から、スターウォーズの公開自体、インドではされていなかったのかも知れません。EP1以降のインドでの売上を見ると、10億円 に達していません。売上金額的に見ると、インドではスターウォーズはぜんぜん浸透していない感じがします。

2.入場者数

インドの映画チケット代は100-150 ルピー程度2016 年12月のレート1ドル=68ルピーとして1.5-2ドル程度)とのことなので(チケット代はこちらも参 照)、チケット代1人2ドルすると、EP7で225万人、EP8で123万人が視聴した計算です。米国の平均チケッ ト代は約8.65 ドルとのことですから、米国人は、単純計算で延べ1億828万人が視聴したことになります(約人口の1/3)。イン ド人は、2016年では、13億2400万人(出 典)とのことなので、約0.17%の人が視聴した計算になります。EP7の場合、日本は、売上9786万ドル(Boxoffice、 ドイツも同じ)で平均入場料は1307円(出 典)、2016年の為替レート1ドル111円で換算すると831万1211人が視聴、2016年の人口1億2274 万8000人(出 典)で割ると6.8%の視聴者率です。ドイツでは1億1135万ドルの売上に対し、平均チケット代は8.45ユー ロ、2016年当時のユーロとドルの為替レート1ユーロ1.11ドル(出 典)から計算すると、9.295ドルなので、1197万9690人が視聴した計算になります。2016年の人口 8251万人(出 典)とのことですから、14.5%が視聴したことになります。ドイツ人って結構スターウォーズ好きなんです ね。。。。。


3.インドでの大ヒット映画との比較

 EP7のインドの視聴者推定数225万人がインドにおいてどういう数値なのか、評価するためにバーブバリ2の視聴数を計算して 比較してみました(出典Box Office)。インド国内売上2億1000万ドルでチケット代一人2ドルとすると、1億500万人が視聴したこと になります。これは、EP7の46倍、インド人の7.9%が視聴したと推定されます(グローバルでは2億5414万ドル(出 典)。バーフバリ2は、インド映画史上歴代2位の作品なので例外としても、インド映画歴代25位(出 典)の作品の売上が約5000万ドルなので、スターウォーズには、せめてあと5倍、1000万人くらいのインド人顧 客獲得を目指して欲しいものです。
 なお、バーフバリは、米国では約20億円、日本では1億3000万円くらいの小規模ヒットでした(インドの次にヒットしたのは 中国で11億。その次はアラブ首長国連邦で6億7000万円くらい)。
 なお、『バーフバリ2』をインド歴代1位とするものと(こ ちら)、2位とするサイト(こ ちら)がありますが、この相違は、国外における売上げの相違にあるようです。
 インド映画歴代ランキング1位の『Dangal』(2016年)は、インド国内では7700万ドル(出 典)であるのに対して、中国で2億1000万ドルと大ヒットしたため、総合計でバーフバリ2を上回って歴代一位とな るとのことです。インド国内だけだと、バーフバリ2が1位で、『Dangal』は2位。


4.インド・アマゾンのレビュー数

 インドアマゾンにおける、スターウォーズのDVD・BDのレビュー数を調べてみました(こ ちら)。インド人で英語のレビューを書いている層は、高等教育を受けた階層であり、一般人と比べて欧米文化に毒され ている度合いが高いかも知れませんが、レビュー数は多いわけではないけれどもそこそこあります。
 これで見ると、EP1やEP5など、EP1-6の単体のDVDには、レビューがほとんどありません(レビュー数5つ以下)。一 方、EP1-6のBD-BOX(Star Wars:The Complete Saga)は、レビュー数が35あります。EP4-6のBDセット(Star Wars Original Trilogy)のレビューは26、EP1-3のDVDセット(Star Wars :Prequel Triology)のレビュー数は19。これに対してEP7フォースの覚醒のレビューが74(平 均4.2点)で、最後のジェダイが16(平 均3.5点)、ローグワンが22(平 均3.9点)。つまり、インド人がスターウォーズを見始めたのは、EP7から、という印象を受けます(バーフバリ2 はレビュー数218で平均4.2点(こ ちら))。
 EP7のレビュー数74とバーフバリ2のレビュー数218の差は3倍で、50倍の開きのある推定視聴者数とはだいぶ違います。 インドAmazonに出品されているDVDにはヒンディー語等インド諸語の吹替や字幕はないようですが、一応英語の字幕がついて いるので(インドにおける外国映画は字幕なしで公開されるのが普通らしい)、字幕があれば、もう少し増えるのかも知れません。


5.インド人の所感

インド人の意見を調べてみました。Q&AサイトQuoraの記事(こ ちら)によると、

・知名度が低い
・古いシリーズを知らないので、古いシリーズを知っている人にしか関心をもたれない
・英語だから(インドでは一般的に外国映画は字幕がつかないで上映されるらしい)
・アベンジャーズの方が今のインド人には同時代的作品

というような意見が出ています。そこで、アヴェンジャーズの最新作、「インフィニティ・ウォー」の売上げを調べてみました(Box Office)。インドでは4359万ドルで、EP7の約10倍、概算視聴者数2160万人、人口比1.6%です。 この数字は、インド映画の歴代25位に迫る数字です。


6.まとめと所感

 いかにもカタカナのアメリカ文化(或いはハリウッド文化帝国主義)の象徴としてスターウォーズを軸にインドへの浸透度を測って 見ようと考えて調べ始めたのですが、アメリカ文化を語るものとしては、スターウォーズはもう時代遅れなのだ、ということがわかり ました。米国のコミックヒーローものは苦手で、バットマンや超人ハルク、X-MENシリーズの一部くらいしか見ていないのです が、『インフィニティ・ウォー』は見てみようかと思います。以前、インドのミステリー映画や歴史映画を調べた時に感じたことです が(以下の関連記事参照)、ヒンディー語映画は、かなり欧米文化に近くなってきているような気がします。

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