ドラマ「シンデレラの醜い姉の告白」(17世紀オランダ)

  Gregory Maguires作「Confessions of an Ugly Stepsister」のテレビ ドラマ作品。2002年カナダ・ルクセンブルク製作。

題名を訳すと、正確には「醜い継姉妹の告白」となり、「シンデレラ」という用語は入ってはいないのですが、「醜い継姉妹の告白」 だけだと何の話かわから ず、童話のシンデレラがベースのお話なので、「シンデレラ」を題名訳に入れました。更に「継姉妹」は冗長なので、取り敢えず題名 を「シンデレラの醜い姉の 告白」としてみました。

 この話は、歴史ドラマというわけではないのですが、17世紀中頃のオランダのハールレム(ハーレム)市を舞台と した、歴史作品の体裁をとっており、1637年のチューリップバブル事件も登場します。もともとが童話シンデレラを、姉の視点で 描き、更に捻って17世紀 のオランダに移していることから、時代考証を適当にしてしまうと、とめどなく荒唐無稽な作品となってしまうからか、風俗考証はか なりしっかりしているよう に見えます。といっても私はこのあたりの風俗に詳しいわけではなく、フェルメールを描いた映画「真珠の耳飾りの少女」とかと比べ ても、遜色なく視聴でき た、ということなのですが。
 
 この作品は、IMdbの評点では6.7点で、高くもなく低くもないのですが、私は結構楽しめました。気楽 に楽しめる娯楽作品となっていると思います。本作は、dvdが出ていないようなのが残念です。既にネットに4年以上前からあがっ ていて、結構な視聴者がい るのに削除される感じも無いので、もうdvdは出ないのかも知れません。私は、dvdが発売されたら是非購入したいと思っていま す。なんというか、テレビ の午後の時間帯の、穴埋め用に安く版権を購入した作品を全く期待せずに暇つぶしに見たら、意外に面白かったということが誰しもあ るかと思うのですが、 これはそんな種類の作品だと思います。


  1637年イングランド。森に住んでいた薬師のフィッシャー家母娘は、村人から魔女とされ、深夜松明をもった村人達に襲撃され、 取るものもとりあえず逃げ 出す。1週間後、母娘は、母マルグレーデが幼い頃過ごしたオランダのハールレム市の港に逃げおおせるのだった。これが、ハールレ ムの港町についた時の母 娘。左から、母親マルグレーデ、次女アリス、長女ルー。ルーは知恵遅れというわけではないのだけど、どんくさく老けて見えるの で、うっかりすると、母親よ りも年長に見える。母マルグレーデはエネルギッシュなパワフルおばさんなので、若々しく見える。一見三姉妹に見える三人組。

  アリスは結構な美女なのだけど、それを誇ることもなく、ほぼ一目惚れした弟子画家のカスパーをこっそり見る時の自信なげな表情が いい。この番組でのアリス の性格がよく出ていると思えるショット。これを見てもわかるように、アリスの容貌は醜くくありません。そして性格も悪くはありま せん。姉のルーは、まあ容 貌はいまいちだけど(どうやらこの不美人顔も演技のようで、気を抜いていると美人に見えてしまう)、彼女も素直です。というわけ で、原作の中身は知らない のですが、このドラマの方は、悪人は登場せず、人間の「深層心理の醜さ」を描いた作品かと期待すると、あまりの毒のなさに期待外 れになりますが、安心して 見ていられる作品となっています。題名の”Ugly”には、「醜い筈の」というニュアンスが込められていると考えた方がよさそ う。

  姉妹は、イングランドでずっと森で暮らしていたという設定のようで(父親がイングランド人)、ハールレムに到着した朝、都会とい うものを初めて目にして 「教会が広場の中にある!」と驚く。母に、「じっとしているんだよ。市場の商品に触ったりしちゃだめだよ」と注意されたにもかか らわずルーは早速果物屋の 籠をひっくり返して商人に激怒されるが、その時通りがかって親切にしてくれたのが、カスパー。不安なところで親切にされたことも あり、どうやらアリスはこ の時にカスパーにこころもち一目惚れした感じ。

 その夜雨の中、母娘は、泊まるところを探して町の家々の戸を叩いて歩くが、どこも冷たく 扱われる。何件目かで偶然にもカスパーの家(正確には師匠のショエンマッカーの家だけど)に出くわし、快く迎え入れられる。こう して母娘は画家の家にやっ かいになることになるのだが、アリスは画家ショエンマッカーの霊感に触れ、モデルをすることになる。一方母親は下女として働くよ うになるのだった。母親が 「なんでアタシが」みたいな感じながら、せっせと働くのが面白い。ルーは何もしないで働く母を見ているだけ。母もルーには期待し ていないからか、ルーには 何も言わず、(多分、ルーにやらせると、余計汚くなり、備品が破壊される懸念があるからだと思われる)、一方アリスには不満をぶ つ。アリスは自分だけ楽を しているようでモデルをしていても腰が座らず、夜中に母とこっそり自分の描かれた絵を見て、醜く描かれていたことにショックを受 け、翌日から下女をはじめ るのだった(醜く描かれていた理由は不明。カスパーは花の美しさを強調する為と説明するが、推測するに、アリスの心が描かれてし まったからではないかと思 われる。それは、上画像のような、上目遣いに、情けなさそうな表情をしているアリスなのだった。題名の「醜い」とはこの絵に描き 出されてしまった(とアリ スが受け止めただけで他の人達はまったくそんな風には受け取っていない)アリスの心だったのかも知れない。

  一方、シンデレラ役のカーラ・ファン・デ・メール。ハールレム市でも資産家で名家のお嬢さん。これは、ハールレムに到着した日 に、ルーが窓から退屈そうに 市場を見下ろすカーラを見たところ。ルーは、「綺麗な人ねえ」とうっとり見上げるのだが、このいかにもわがままそうな目付きが、 当初のカーラの性格なので した。とうに母親を亡くしていて、父親に可愛がられて育った為、家庭教師があまりのわがままぶりに飛び出してしまう程。


  そのメール家に、カスパーと一緒に完成した絵を届けに行った時に、アリスは、ファン・デ・メール氏から、家政婦兼娘カーラの家庭 教師兼友達(わがまま過ぎ て友達がいない)として母娘毎メール家にスカウトされるのだった。これでシンデレラの家に継母と姉がやってくる、という展開にな り、あとは遣手の母マルグ レーデがメール氏を篭絡して家を乗っ取る。。。。という展開に、一応はなるので、このあたりが、「いじめられシンデレラ」っぽい 展開になるのですが、姉と なったアリスとルーは、特にクレアをいじめるわけでは無いのでした。母マルグレーデは自分の娘の為に必死なので、確かにクレアに は冷たいけど、寧ろカーラ のわがままぶりが、普通の素直な性格になってゆくので、どっちに感情移入が出来るという感じでもなし。因みにマルグレーデのメー ル氏篭絡にあたっては、 「魔女」たる本領を発揮し、惚れ薬をワインに混ぜるのであった。媚薬なんて使わなくても、肉食系マルグレーデと草食系メール氏と では時間の問題だったよう に思えるけど。

 三人(アリス、カーラ、ルー)で、夕食中に酔っ払って大笑いしてるマルグレーデと良い感じになっているメール氏の様子を窓から 覗いているところ。

  面白くないカーラは中庭に飛び出してしまう。カーラを慰める為にアリスは目隠し鬼ごっこを提案するが、目隠しでアリス達を探す カーラの前に魔女が現れ、 カーラは姉達のいたずらだと父親に告げにゆくが、そこでマルグレーデにたしなめられる。「家政婦の分際で偉そうに」と反抗する カーラに、マルグレーデは 「あなたのお父さんと結婚することになったの。お母さんとお呼び」と告げるのだった。眼を丸くして絶句するカーラ。そして結婚 式。

この作品の特徴のひとつは、場面転換時に、その場面が静止してそのままフレスコ画に変化し、続いて転換後の次の場面のフレスコ画 が映り、それが映像とな る、という手法が用いられている点。恐らくCMのタイミングで用いられたのだろうと思われる。例えば左上は、マルグレーデとメー ル氏の結婚式の冒頭のフレ スコ画。この絵が、右の映像に変わる。街の名士達を自宅パーティに招く絶頂期のオランダの名家の繁栄ぶりがよくわかる華やかな結 婚式となっている。この頃 のメール氏はチューリップ相場に大きく投資し、取り敢えずバブルの上り坂にあり、絶好調なのだった。

 面白かったのが、アリスが絵の才能 を画家ショエンマッカーに見出され、才能を発揮してゆくところ。アリス自身は特に絵が好きなわけではないのだが、カスパーに会い たさに画家の元に通ってき て絵の練習していたが、母親の結婚式の席で、招待されてきた画家ショエンマッカーに、正式に弟子入りを勧められ、弟子入りするの だった。そのショエンマッ カーの弟子カスパー(左端)、その右ショエンマッカー、その右、メール氏、右端”魔女”。

  結婚式ではカーラは拗ねてパーティに出席せず、普段着風なドレスで裏庭でペットの鼠に餌なんかやっている。鼠をペットにする場面 はここが初登場なので、父 を取られた反発から逃避に走った行動のひとつだと思われる。一応ルーも一緒。アリスとカスパーは、パーティに誘いにゆくが、この 時、カスパーがカーラの顔 についた泥を落としてあげるのだった。そしてアリスは上から二段目画像のような悲しげで情けなさそうな表情に。不用意に女の子の 顔なんか拭いちゃいけませ んよ。まあカスパー青年は誰にでも優しいだけなんだけど。

 アリスとルーは画家の家に展覧会(競売会)に出かけるが、ルーはいつものとお り、飾ってあった備品を落として来場者の失笑を買う。恥ずかしさのあまりアリスは、「いっつもごめんごめんって、変わり映えしな い」といつもより強めに愚 痴ったところ、珍しく傷ついたルーは一目散に家に駆け戻りペットの鼠を手にしたカーラと一緒に台所のかまど横の小部屋に籠るの だった。呆れたマルグレーデ は、アリスに「あの鼠をなんとかさせなさい」とアリスに命ずる。カーラが手にしているのは鼠です。

 この辺が、シンデレラ(カーラ)の視点から描いた場合、継母いじめとなるところなのでしょうね。

  この夜、ハールレムは良い感じに雪が積もり、市民は皆広場に集まり雪化粧を楽しんでいる。チューリップ相場が絶好調のメール氏 は、カーラやルーの悩みに無 頓着に「いい雪だよ!外に行こう!スキー、スケート、雪遊び!持って来いの雪だ!」とご機嫌で娘たちを誘いに来るのだった。ルー とカーラも広場に来て雪合 戦を楽しむが、家に戻ってみると、町の名士がメール氏を鎮痛な表情で取り囲んでいた。チューリップ市場が暴落し、メール家は一夜 にして破産したのだった。

 ここで前半終わり。

  さて、破産したメール氏は寝込んでしまう。マルグレーデがまたしても怪しげな薬を鹿の角でできた薬瓶から取り出してお湯に煎じて 病床のメール氏に持ってゆ く場面は、メール氏を毒殺して他の家に嫁ぐという話に一瞬見えなくもないが、その後、カーラに、「王子様が花嫁募集の舞踏会を開 くので行って来なさい。我 が家の維持の為に」と命じるところからすると、単なる病薬だと思われる。カーラが駄目だと知るや、今度はアリスに向かって、「王 子の舞踏会に行って来なさ い。家の為に」と命じる母なのであった。因みに舞踏会の招待状がメール家に送られてきたのは、評判となったカーラの肖像画が名士 の間に膾炙した為と思われ る。

 家財を売り払いながら食いつないでいたある日、アリスがカーラの銀製のブラシを持ちだそうとしてカーラが阻止する。「それはお 母様 の形見なの」。これがきっかけで、マルグレーデの「嫁へ行け。家の為に」に辟易していた二人は慰め合い、この場面で、カーラ自 ら、「あたし美人じゃない わ。アリスこそ美人よ。カスパーが好きなんでしょ。頑張ってみて」と自から暖炉の灰を被ってみせ、「あたし全然美人じゃないも の」と、アリスを勇気づける のだった。アリスはカスパーのところに絵を習いに行くが、相変わらず無神経なカスパーは、アリスの頬についた絵の具を拭ったりし てアリスの気持ちを刺激し つつも、もう帰らなきゃ。母が家の為に王子のところに行けと煩いの、と呟くアリスに、「いけば」と連れないのであった。またして もアリスの表情は、上二枚 目の画像に。師匠はアリスと(恐らくカスパーの潜在的なアリスへの)気持ちに気づいていて、思わず師匠を振り返ったアリスに目で 応えるのだった。師匠の目 は「カスパーは妬いてるんだよ」と語っているのだった。

  アリスが一応カスパーにアタックしたことで、カーラも王子の舞踏会に出る決心をするが、父親の旧友とマルグレーデが、資産売却を 図っていることから、マル グレーデとは犬猿の仲になってしまい、マルグレーテがカーラを「デッド・ストック」などと呼ぶ程対立化。カーラには舞踏会用ドレ スの新調(レンタルかも知 れない)をしてくれず、ルー、カーラ、アリスとカスパーは、マルグレーデが出かけている時にこっそりカーラのドレスを作り、ダン スの練習などをするが、舞 踏会の夜、出発直前にルーが失言し、母がカーラのドレスに気づいて引き破り、暖炉にくべてしまうのだった。アリス、ルー、マルグ レーデは馬車で舞踏会へと 出発。一人台所に座り込むカーラの元に魔女がやって来て「あなたのお母さんとの約束を果たしに来た」と告げるのだった。

 魔女は、「お母さんの婚姻衣装が物置の絨毯の下にある」と教え(ここまでは魔法ではない)、カーラのペットの鼠を白い靴に変え るのだった(これは魔法)。馬車が変身したところは出てこないので、単なるレンタルかも知れない。かくてカーラも舞踏会へと出発 するのだった。

  さて、舞踏会では、良家の娘達が順番に王子に挨拶する。アリスは絵を学んでいるということで王子の興味を惹くものの、仮面をつけ て登場した、アラゴンから 来た孤児という触れ込みのカーラに一目惚れしてしまい、ダンスを踊る。その時母マルグレーデは、酔い潰れて柱もたれて居眠りして いるのだった。マルグレー デが目覚めそうになったのでカーラは王子と別室に行き、王子に素顔を見せるのだった。

  一方、広間の隣では、画家達の絵が展示され、画家達も招待されている。師匠ショエンマッカー、弟子カスパーも招待されていて、ア リスと踊るカスパーはやっ ぱ心配だったのだなあ、ということがわかる。ルーは、王子に挨拶もせずにふらふらしていたようだが、絵画が展示されている部屋で カーラの肖像画を見て、 「この絵は皆を不幸にする」と(その場面は無かったが、どうやら)火をつけてしまう(もともとこの絵が評判となり、メール家に舞 踏会の招待状が来たことか ら、母が家計の為に娘を舞踏会に出すことを決めた経緯がある)。家事騒ぎで広間は大混乱になり時計が午前零時を打つ。大混乱の最 中、カーラは靴を残したま ま自宅に戻るのだった。

 少し遅れても撮ってきた母娘は、カーラにお茶と夜食を用意させながら、「王子の心はスペイン人の娘がさらっていったわ」と報告 し、マルグレーデは、「もうこうなったらあんたの資産を取り崩すしか無いわね」とカーラに言いおいて夜食をもって寝室に消えるの だった。

  翌朝。突然王子とカスパーがメール家にやってくる。カスパーは、王子が画才のあるアリスに興味を持ってしまったので、「それは嘘 です。アリスの姉妹の方な のです」と出鱈目を主張したので王子が確かめに来てしまったのだった。そしてルーが登場し、王子は唖然とするのだった。ルーは本 当にいい味出してました。

  カスパーは、舞踏会に来たアラゴン女性の残した靴を取り出して、アリスとルーに履かせる。王子はカーラの素顔を見ているのだか ら、顔を見ればわかると思う のだが。もし、ルーの足に合ってしまったら王子は一体どうするつもりだったのだろうか。と疑問もわくがどちらの足にも合わない。 この時、ルーの手に火傷の 跡があるのを見つけ、ルーが昨夜の火災の原因だと知れてしまう。ルーは「みんなが幸せだった時に戻りたかったの」と訴えるのだっ た。「この家には他に娘は いないのか」と詰め寄る王子に、マルグレーデはカーラを呼びにゆく(映像は無かったのだが、恐らくルーの告白が少しは母の心境の 変化に影響を与えたと思わ れる)。マルグレーテはカーラにいう。「あなたの姉妹があなたに親切にしたことを思い出して」と。王子の前に登場したカーラは 王、その靴を履く前に王子に 質問があるという。

 「もし、その靴に合う女性が見つかった場合、王子は、その女性だけではなく、その父と、その姉と、そしてその母を、その女性と 同じように親切に扱ってくださいますか」

 隣で聞いていたマルグレーデが少しばかり眼を剥く。いい場面だった。そして王子は自らカーラに靴を履かせるのだった。こうして 二組のカップルが誕生し、奥から病床の父も出てきて、大団円となって終わるのだった。

 〜The end〜

  魔法使いが登場する必然性は殆どなく、靴は鼠でなくても良かったように思えるのですが、”絶対カーラにしか合わない靴”というこ とでは、魔法の靴である必 要があったのかも知れません。ところで、私も子供の頃には童話を読んでいる筈なのですが、本作を見ていて、私は白雪姫と眠れる森 の美女とシンデレラの筋を ごっちゃにしていることがわかり、図書館に行ってシンデレラを読んできました。ペロー版とグリム版の違いも今更ながらわかった次 第。

Wikiの原作紹介に よると、マルグレーデは、カーラの母親を毒殺して後釜の座を手にし、カスパーは同性愛者である、とアリスに吹き込んで別れさせ、 最後は悲劇で終わるとのこ と。作品のイメージ全体からして異なるようです。本作でもカスパーはハンサムで優しく良い人だけど物足りないので、ゲイと言われ れば納得してしまうのもわ からないではない。王子はじめ、映画に登場した主要男性陣は、女性陣に比べると、あっさりめ。マルグレーデの個性が目立って強す ぎるというのもあるけれ ど。メール氏の投資仲間の面々の中には強欲でギラギラしてそうな人もいたけど、主要男性陣の中で一番頼りになりそうなのは、老人 のショエンマッカー先生な のだった。

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