イスラム歴史ドラマ「ウマル」第十一話から第十六話


  第二代正統カリフ・ウマルの半生を描く2012年サウジアラビ ア製大河ドラマ。全30話のうち第六話から第十話。一話45分全30話。youtubeのMBCアカウントに英語字幕版全30話(こ ちら)で視聴できます。どうやらこのドラマは、丁度中間点となる15話の途中までとそれ以降に二分できる感じです。 15話後半でローマ皇帝ヘラクレイオス、ペルシア皇帝ホスロー二世が登場し、メッカを支配するクライシュ族のイスラム改宗までを 描いた前半に対し、物語の特徴が大きく変わっています。前半は、イスラムの浸透を巡り、家族の軋轢や苦悩が中心の人間ドラマでし たが、後半はアラビア半島統一、ローマ、ペルシアの二大帝国との決戦と、戦闘中心に描かれ、人間ドラマの部分は、組織論的な内容 に後退してしまった感じです。もう少し細かく分けると、人間ドラマとして面白かったのは第十話までと第十六話の後半部分。そ れ以降は人 間ドラマとしては薄っぺらくなってしまった感じで、字幕があっても無くても印象は変わらないかも。


 第十一話

 ヤスリブ(メディーナ)のユダヤ教徒は、モーセの著したトーラーこそ神聖な神の預言が全て封印された最後の書籍であり、ムハマ ンドがモーセの兄 弟であり最後の預言者だと主張するとは何たることだ、と反発する。

 メディーナで最初のアザーンの声が響き渡る。朗誦するのは元奴隷のビラルである。

 ヒジュラの二年後(624年)のある日、アブー・スフヤーンのシリアからの隊商がメディナのイスラム教徒に略奪されたとの早馬 が メッ カに来る。ウマルは、ムハージュリーン(メッカからの移住者)とアンサール(メディナ人のイスラム教徒)に向かって、移住者がメッカに置いて きた財産はクライシュ族に不当に所有されたものであり、隊商の荷物は諸君らの財産である、預言者はこれらを奪取するよう にと主張している、と告げるのだった。メッカでは武器をとって攻撃に出ることになる。監禁されていたアブドッラーは、信仰 はともかく父を見捨てるようなことは出来ないと、父に願い出て足枷を解いてもらい、父とともに出撃するのだった。女性達 は口笛を吹きながら太鼓を叩いて出陣を見送る(左は財物庫の中の神の偶像。これもアフリカン・アート)。



 強硬派の有力者のうちウスマンは出陣しない。攻撃隊が出陣したところ、アブー・スフヤーンからの使者がメッカにやって来て、実 は、隊商は無 事であることを告げるが、アブー・アル・ハカムは、今後の隊商の安全を確保するためにも、バドルの地に3日間滞在し、そ こで祝宴を挙げ、クライシュ族の隊商を攻撃することの危険性をアラビア全土に見せ付けるのだ、と主張し、そのまま進軍す ることになる。バドルの地で対陣中、アブドッラーはイスラム軍へと逃亡してしまう(この部分の字幕は間違っていると思わ れる。アブドッラーの名前はヤジード、父親Suhailの名前がアブドッラー・イブン・スハイルとなっていた)。

 ウトバーはこの戦闘の無意味さを主張し、息子とともに引き返してしまう。以下はムスリム軍。左中央はアブー・バク ル。奥の天幕の中にムハンマドがいる。メッカ軍の斥候によるとイスラム軍は約300名。



 


 最初に双方3人ずつが一騎打ち。メッカ軍はUtbahと誰だか不明の二人、イスラム軍はムハンマドの兄弟ハムザ、甥ア リーともう一人が出てきて、アリーとハムザは勝利する。Utbahはほぼ相打ちで、最後にハムザに仕留められる。 Utbahが可哀想に思える場面。息子のアブドッラーはうつむいているが、周囲の人がアブドッラーにも勝鬨を上げさせるように 肩を抱いてゆする。

 この場面、どうにもイスラム軍側に感情移入できなかった。メッカ側の人びとはさんざんイスラ ム教徒を迫害してきたのだから、この場面は溜飲を下ろす場面なのかも知れないが、個々の人物の感情の相違や迷いが出て いるメッカ側に対し、アブドッラー以外は何の迷いも無く整然と一糸乱れずに進撃するイスラム軍が怖かった。装備も隊列も きれいに整えられ、まるでローマ軍(イスラム軍)VSゲルマン人(メッカ側)という感じ。イスラム軍は俄か作りの軍の筈 なのにローマ軍のように装備も訓練も完成している。軍事訓練している場面は無かったのに。

 徹底した悪役ハカムの討ち取られぶりはまあわからんでもないが、捕虜にしてくれ!手を上げて叫び、まったく戦意の無い ウマイヤを、かつての奴隷であるビラルが討ち取る場面も納得できない。ビラルの感情は私怨にしか見えないが、彼は「もし お前を生かしておいたら天罰が下る」という理屈のもとでウマイヤを討ち取る。

 戦闘のカタがついたところで両軍退却の号令を出すが、その中でイスラム軍に投降するメッカ側の人間が現れる。Al- Waleed ibn Al-Mugheerahなど。

 推測ですが、このバドルの戦いの部分は、国の検閲が特に強く入っているのではないかと思われます。ちょっと白けてしまったの で、第十二話はスキップしてしまったのですが、第十三話以降ではここまで露骨な演出は、私の印象の限りでは、ありませんでした。 とはいえ、やはり人間 ドラマとして面白かったのは第十話迄で、これ以降は、人間ドラマの部分はちょっと薄っぺらくなってしまった感じ。仮に、この第十話をBBCが製作していた としたら、バドルの戦いの全体主義的な描きぶりは、いかにもBBC的な 皮肉の効いた演出として納得できるものがあります。

 第10・11話で主要登場人物の多くが戦死しています。第13話以降、メッカ側の主要登場人物は、Safwan,アブー・ワフ ブ、イブン・アブー・Jahlの息子イクリマー、ハーリド、アムル・アース、アブー・スフヤーンとなります。推測ですが、第12 話では、彼らがメッカの幹部となる部分が描かれているのではないかと思います。


第十三話

 ヘジュラ暦3年(625年)、シャーワル月7日、ウフドの戦い。第十一話でメディナ・イスラム軍に敗北したメッカ軍が、ア ブー・スフヤーンの元反撃に出た戦い。

 今回メッカ軍にワシーも参加している。
 最初の一騎打ちでムスリム側からアリーが出てきてメッカ側武将と一騎打ちし、アリーが勝利。



 中央歩兵が後退し、背後に騎兵が回りこむ(上右)カンネー方式。乱戦になりワシーの槍がハムザを貫く。イスラム軍側では女性兵 士も活躍している。




 戦後、スフヤーン妻ヒンドがハムザの遺体を捜して剣で刺す。ハムザは前回ヒンドの父Utbahを殺していることから、ヒンドに とっては、父、更に兄と叔父 と息子の敵なのだった。戦後、メッカに戻ったワシーはハムザを討ち取った功労により、奴隷から解放される。解放されたワシーは自室で身なりを整えた自分の 姿を鏡に映し出す。



 そうして、身なりを整えて一門の総会に出席したワシーは、何故お前ごときが出席しているのだ、と嘲られる。同じ身分としては決 して扱われず、解放されても奴隷扱いなのは変わらない。彼は奴隷から解放されたものの、無産自由市民=日雇い労働者となったのに 過ぎな いことを知るのだった。心が荒れたワシーは、お前を買ってやるとライハーナにいうと、ライハーナは、もう遅い。あたしムスリムに なった、と告げて去ってゆく。

 以下右画像の左はアブー・スフヤーン。最初の頃と比べると大分老け顔となっている。スフヤーンの右の人物は、メディーナのユダ ヤ人部 族Nadeer族のリーダーHuyay。メディーナの他のユダヤ族を裏切ってメッカ側についている。左画像は、この頃から台頭し てくるスフヤー ンの息子の世代に相当する若手たち。右側がアムル・イブン・アル・アース(後のエジプト征服者)、左がハーリド・イブン・アル・ ワリード(後のシリア征服者)。



 ウフドの戦いで敗北したメディーナ。市の南側に城砦があり、北側には、捕虜となって連れてこられて入信した奴隷ペルシア人サラ マ ンの指導により、塹壕を構築するの だった。



 上左は町の南東にあるQuraizah(コライザ)要塞。コライザは部族の名前でもあるらしい。預言者が塹壕掘りを手伝 い、大きめの石を叩き割る(奇跡を演出しているようである)。

 627年、メッカ軍が攻めてくる。塹壕戦が行なわれる。以下左が塹壕。茨のように先が削られた尖った枝が塹壕の前に配置され、 塹壕の背後に槍を持ったメディーナ・イスラム兵が控える。塹壕の手 前で攻めあぐねる相手の騎兵を、塹壕の内側から長槍で突く、という戦法。



 騎兵の突撃戦法が主体の当時のアラブ族一般からすると卑怯な戦法に、メッカ軍はあっさり退却するのだった。陣を張り持久戦をす ることにしたメッカ軍内では、コライザ要塞を寝返らせる為に、コライザ族と同じユダヤ族のナディール族のリーダーHuyayを派 遣する。



 コライザ要塞に入ったHuyayは、ムハンマドの軍は背後を無防備に君たちに晒しているのだ、メッカ軍が退却すれば、私の部族 は君らに合流し、一緒 にムハンマド軍を討つ、と言葉巧みに懐柔する。こうしてコライザ族が寝返ったことから、ムハンマド軍はメディーナに戻ってくるコライザ族 の隊商を襲撃し、商品を奪い圧力をかけるのだった。


 第十四話

 メディーナ包囲を巡り昼夜に渡って持久戦が続く。夜はどちらも寒さが辛そうである。メッカ軍はコライザ要塞に、明確に同盟を組 むよう交渉するが、ムハンマド軍はNu'man ibn Massoudをコライザ要塞に派遣し、「メッカ軍は女子供を連れているわけではない。君らはここが地元だ。彼らが引き返せば、君らは単にムハンマド と敵対するだけに終わってしまう。もし、メッカ軍と同盟するなら、保証として人質を出してもらうように」と進言する。

 いよいよ戦闘となる。塹壕越しに矢を放つ両軍。メッカ軍は歩兵に切り替え塹壕囲いを切り崩し、塹壕に兵士が担ぐ板で橋をか け、歩兵と騎兵ともにメディーナ城内に突入する。



   アリーは攻め込んできた叔父のアムルと一騎打ちを行い、勝利する。進入してきたメッカ軍は取り合えず退却する。

 この部分もなんだか。アムルというアリーの叔父は突然登場した感じだが、もし本当に叔父だとすると、叔父を殺して「アッラー・ アクバル!!」と勝鬨を上げるのはなんだかなあ。。。

 包囲に疲れてきたメッカ軍は再度コライザ要塞に、同時攻撃を仕掛けるように催促するが、コライザ側では安息日であることを理由 に参加しない。コライザ側は、「人質を出さなければ、君らは途中で引き上げかねない。そうなると我々は無用にムハンマド軍と戦う ことになってし まう。君らが途中で引き上げたりしないように、人質を出せ」と、イスラム側に入れ知恵された通りに、メッカ軍の使者に告げるのだった。メッカ軍の使者は無 言で去る。コライザ側は、「Nu'man ibn Massoudの言った通りだ」とメッカ軍への味方を見送るのだった。

 コライザ族の協力を得られなかったメッカ軍は、昼夜続く持久戦に消耗し、寒さと冷たい風にとうとう音をあげて退却してしまう。 富裕商人による物見湯算軍の弱点が露呈してしまった感じ。根性が足りない。

 戦闘が終了した夜、メディーナでは、戦死者を弔う。灯篭のようなランプが印象的。




 ドラマでは登場していないが、この後結局コライザ要塞は、メッカ軍に協力したことを理由にKaabの指摘した通り、イスラム軍 に攻撃され、占領されてしまうことになる。翌年にはKhaibar(ハイバル要塞)のナディール族もムスリムに降伏することにな る。



 メッカ。ある朝広場でハーリドとアムル・イブン・アル・アースが会話している。アムルは、この騒乱から身を引く、アラブもコラ イシュもムハンマドのいづれにも関わりたくない。決着がつくまでどこかに移住してやり過ごす。とハーリドに告げる。いかにも日和 見策謀家アムル・アース面目躍如な場面。まあ、彼も大分消耗している様子ではあったけど。アムルは、奴隷と家門数十名を連れて メッカを後 にするのだった。情報がクライシュ族集会に流れ、前回メディーナ包囲戦の頃から目立ち始めた若手Ikrimah ibn Abu Jahlがアムル批判。スフヤーンも、「(最終的に)勝った方につくんだろう」とアムルの性格を見抜いている。

 ヒジュラ暦6年(628年)、ムハンマドはメッカ入城を決める。メディーナから、武装解除した、インドの行者のようなムスリ ム達が行進し、フダイビーヤの地にキャンプを張る。ここでメッカとの間に何度か使者のやりとりがなされ、ムスリムの、メッカの神 の聖なる家(カーバ神殿のこと)への訪問の条件について交渉が行なわれる。最後にSuhil ibn AmrとMihriz ibn Hafsがムハンマドのもとに交渉に出向き、休戦協定が結ばれる(フダイビーヤ休戦の和約)。アリーが書名された条約を読み上げる。

 10年間の休戦、許可なくクライシュ族の者がムスリムに合流することの禁止(強制送還される)、逆にムハンマドのもとからクラ イシュへ逃亡する者は返還されない、今年はメッカ入城は行なわず、来年になってから三日間の限定で実施する。コライシュは町を離 れ、その間にムスリムは非武装 でメッカに入城する、

との取り決めが行なわれた。


 
 左が休戦協定文書。当事者及び証人となる他部族代表者の印章が押されている。ムスリム側は、アブー・バクル、ウマル、サアド・ アビー・ワッカース、ムハンマド・イブン・マスラマ、アリーが署名し、ムハンマドは署名していない。フダイビーヤにきているムス リム 達数千名は、全員インドの行者のような装束。上右画像中央のウマルはソクラテスに見える。

 条約に元ずき、アブー・ジャンダルはメッカに連れ戻されることに決まるのだった。



第十五話

 フダイビーヤの休戦協定により、Suhilが強引に息子ジャンダルを連れ戻そうとする。偶像崇拝に戻るのは嫌だと懇願するジャ ンダル。保護者の承認がない者はメッカに戻すことになったのだった。ところが、アブドッラーとジャンダル兄弟は友人達に解放され る。ヤスリ ブで失望して戻ってくるがよい。つまり、メッカ側は、ムスリム側に逃亡したがる青年たちを鎖で繋いで監禁していたが、わざと逃がすのだった。ムスリム側が 条約を守るかどうか試 すためである。

 何人かがメディーナに辿りつくが、メッカに送り返されてしまう。しかし結局逃亡者たちは戻らずに、砂漠で メディーナのムスリムとともに、ゲリラ隊を組織して街道でメッカへの隊商を襲撃するようになる。隊商を襲い、クライシュとはまだ 戦闘中なのだから、この略奪を行なうものである、避けたければクライシュとは手を切れ、と隊商達に圧力をかけるのだった。この事 態にア ブー・スフヤーンは、休戦協定など守られていないではないかと激怒。Suhailに、空条約など結んできおって何とかせい!と詰 め寄る。進退窮したSuhailは、息子のジャンダルを解放する。こうしてクライシュは休戦協定を緩めたので、メディナにいける ものが移住することになり、アブー・ジャンダルもメディーナに移住するのだった。

 迫害が終了したことで、アビシニアに移住していたムスリムも帰国することにする。アビシニア王は帰国の船などを提供す る。アムル・アースはアビシニアに逃亡していた。アビシニア王はアムルに対し、ムハンマドは、ファラオに抗したモーセのようだ、 と語る。情勢の変化を知り、アムルもまた帰国することにしたのだった。



 ここから物語は後半に入る。映画「ザ・メッセンジャー」の冒頭でも登場した、”世界の王たち”へムハンマドの書簡を携えた使者 が出発し、ローマ、ペルシア、エチオピア(アビシニア)それぞれへ向かう使者が別々の方向に分かれる、多分イスラム教史上にとっ ては有名な場面。確か「ザ・メッセンジャー」では使者は三人だったと思うのですが、ここでは4人となっています(多分四人目はイ エメンに向かったものと思われる。当時のイエメンはペルシア帝国総督が駐在していたものの、現地王が傀儡として統治していた。こ のイエメン改宗を巡る映画「Setareh Soheil」という作品もあ ります)。



 最初のペルシア王国への使者が、都クテシフォンの城門に向かってゆくところ。私はサーサーン朝ペルシアに強く関心を持っている ので、都の建築物の詳細がわかるように画面を拡大しています。中央城門の左奥に見えている灰色の宮殿が、白亜宮、現在イラクのバ グダッド東南にキスラーのイー ワーンと呼ばれる遺跡として残っている宮殿建築物の復元。17世紀のムガル帝国建築のような感じに復元されてしまっています。城 門右手後方に見られる山のようなものは、ジグラットだと思われます。クテシフォンについては、情景を描写した史料が殆ど残ってい ないので仕方がないとはいえ、ササン朝時代のクテシフォンにジグラットを登場させるのは無理がありそうに思えます。



 第一話でのダマスカスの復元映像は、説得力がある感じでしたが、こちらはイマイチな感じです。話が進むと、もう少しクテシフォ ン内部の映像が登場しますが、城門と白亜宮付近だけなのも残念。がっかりするような映像ではあっても、出してくれるだけありがた いことです。下は王宮とホスロー二世(在591-628年)。



 今迄映画やドラマで見たホスロー二世映像の中では一番立派に描かれていました。私の 印象では、宗教色の強いイスラム国のドラマや映画での非ムスリム君主は、外見を非常に貶めて描く特徴があるように思えま す。イデオロギー色の強い作品ではどこの国でも同じようなところがありますが。。。私の知る中で一番酷いのは609年に ジーカールの戦いを描いた大河ドラマ「ジーカール」に登場したホスロー二世。このドラマでのホスロー二世はあまりに酷い ので、まともな映像の作品を見るまでは紹介しないと決めていたのですが、 今回まともなホスロー二世像を見ることができたので、そのうちヘラクレイオスなどの映像と合わせて、「イスラム圏ドラマでの異教徒の描かれ方」という記事 でも書いてみたいと思っています。

 ところで、英語字幕では、ホスロー二世は皇帝とも大王とも王とも呼ばれず、「ペルシアのリーダー」と呼ばれているのが 印象に残りました。ムハンマドの使者の読み上げる”世界の王”への書状は、同じ文面だと思い込んでいたのですが、(少な くとも)本ドラマ(の英語字幕)では、異なった内容 となっています。ホスローには居丈高に、イスラムに改宗しろ、との内容で、激怒したホスローは手紙を投げつけるのです が、一方、キリスト教徒で、メッカの迫害から避難してきていたムスリムを保護してくれていたアビシニア王に対しては、ム ハンマ ドがモーセ、イエスやマリアとどのような関係にあるかを長々と述べた後、ムハンマドのcounsel(普通に解釈すれば 助言)を受け入れるように、との非常に穏やかな内容となっています。アビシニア王も、改宗を迫られたとは受け取らなかっ たのではないかと思われ、せっかく庇護してやったのに、居丈高に改宗を迫るとは何事か!みたいな展開をも予想していたの ですが、王は、使者に向かって穏やかに頷いて終わるのだった。

 ローマ帝国の使者が皇帝に面会する場面の前のところで、商いでパレスチナのガザ(右下)を訪れていたアブー・スフヤーンがロー マ兵士に連行される(理由は後でわかる)。続いてムハンマドの使者の一人が赴いたアレキサンドリア(右下)が登場する。



 左下がアレキサンドリアの王宮。クレオパトラ映画に登場するようなヘレニズム風と なっています。ムハンマドの使者の口上では、ローマ総督は、「エジプトのリーダー Muqawqis」と呼ばれています(下右中央奥の人物)。




  続いて以下のような大都市が登場する。テロップには الفحـس とあるように読めるのだけど、意味がわかりません。コンスタンティノープルのことだと 思うのですが、ソフィア大聖堂が見えないので違うのかも。



 皇帝はヘラクレイオスは、ムハンマドの使者がもたらした書状について、裏づけ情報を収集するためにアブー・スフヤーン をガザから連行したのだった。ヘラクレイオスはビザンティン支配者と(英語字幕では)呼ばれていた。




 皇帝は、アブー・スフヤーンの背後にムハンマドからの使者を立たせ、内容についてスフヤーンに問いかける。双方の話に矛盾があ れば、嘘を言って いることになる、というわけ。鵜呑みにしないところがなかなか賢い。でも容貌はイマイチに描かれている。皇帝はスフヤーンに重ね て質問する。以前にもこのようなことを主張する者はいたのか?彼に従う者はどのような者たちなのか?社会的弱者なのか?従う者は 増えているのか?減っている のか?改宗後、元に戻る者はいるのか?彼らと戦ったのか?彼は何を主張しているのか?

 ひととおり回答を聞いた皇帝は、ムハンマドは王を僭称しているのではなく、社会的弱者が参加し、離脱する者もなく、従う者が増 え続けてい て、偶像崇拝を否定し、唯一神を主張している。これはいままで出てきた預言者のケースに相当し、しかも我らの宗教と同じ立ち位置 にある。と断ずる。


 (フダイビーヤの)休戦協定は有名無実化しているものの、メッカでは、協定の通り、3日間限定でイスラム教徒が入城し、カーバ 神殿の廻りを巡礼する。
 

 メッカの非ムスリムの人びとは郊外に退去して、丘からそれを見詰めるのだった。

 一人物思いにふけるハーリドが登場して終わる。彼はムハンマドのペルシア、ローマ、イエメン、エチオピア征服計画を 知り、野心を掻き立てられている様子である。



第十六話

 悩めるハーリド・イブン・アル・ワリードのもとにムハンマドから、心を見透かしたようにイスラムへ参加するよう誘う手紙が来 る。君はイスラムに偉大な利益をもたらすことができる、優遇しよう、と書いてあるのが凄い。郊外で戻ってきたアムル・アースと出 会う。ワリードはアムルに、イスラムに改宗すると告白する。アムルも、私もそのために戻ってきたのだ、と告げる。

 メッカ近郊のAl-Wateerの水場でBakr族による虐殺事件発生。襲われたのはKhuza'ahの男達。Bakr族はク ライシュとフダイビーヤの休戦協定時に同盟条約を結んでいる関係から、一件はクライシュ族の問題に発展する。一族集会で、一体バ クル族 は何てことをしたんだと激怒するスフヤーン。

 一方のKhuza'ah族はムハンマドのところに同盟を求めに行く。スフヤーンはアブー・バクルにとりなしを求めて会いにく るが、アブー・バクルにもウマルにも拒否される。最後はアリーに会いに行く。手ぶらでは帰れんのだ。と哀願するスフヤーン。しか しアリーは、そういうことはムハンマドと話せ、とつれない。
 
 メッカに戻ったスフヤーンは、皆に講和しようと提案するが、Suhailに、それこそアラブ諸族が雪崩をうってムハンマド側に つくぞと弱気な姿勢を責められる。家に戻ったスフヤーンは、妻のヒンドにも、あんたも年取ったわねと詰られる。ヒンドは、ムハン マ ドと戦うことをやめるのなら、あんたは最低の夫だ、と罵る。が、スフヤーンは次の場面でアッバースを通じてムハンマドに 信仰告白し、改宗してしまう。その信条を疑うウマルに、アブー・バクルは、心のうちはわからない。その表面で判断するしかないの だ、という。

 メッカの広場で、我が一族の傘下に入れば安全だと宣言するスフヤーンに妻は公衆の前で罵る。



 ムハマンドの最大の敵だったのに、彼は死ぬのが怖くなったのか、と疑問を呈するイクリマに、Suhailは、「彼は変わったわ け ではない。彼は実業家だ。戦争でも平和でも常に最大限の利益と最小限の損失を考えるのだ」と解説する。

 イスラム軍のメッカ入城。メッカのひとびとは皆屋内に閉じこもる。Suhail、アブー・ワフブ、イクリマたち数名が町の入り 口で 戦闘する。彼らはムスリム数名を切り倒したところでさっさと逃げるが、つい最近までメッカ側の有力者だったハーリドが今やムスリムの司令官然となっている のを睨み付けて去るのだった。入城したイスラム教徒たちは広場にある全ての偶像を破壊する。ビラルはカーバ神殿の上にあがり、ア ザーンを唱える。

 家に戻ったスフヤーンは、全て終わったと悲嘆に暮れる妻ヒンドに告げる。今日、ムハンマドは人びとに告げた。これまでの敵対は 問 わず、忠誠を誓う者は全て兄弟として敬われると。明日は女性の誓いを受ける日だとスフヤーンは妻に告げる。私は彼の叔父ハムザを 殺したのに?私を復讐を忘れて受け入れられるの?あなたの胸 のうちには先祖の宗教は残ってないの?
 スフヤーンは答える。残っていない。それらは我々に利益とならなかったから、こういう結果になってしまったのだ。そうはいって も ちっとやそっとて新しいものが心を満たすわけではない。すごしてきた日々は、残された日々よりも長く、それらに対する心の中 の 格闘は今後も続くだろう。私の人生はメッカとともにあり、これまでの日々の影をそこにみて、これまでそうであったように人生を見 るのだろう、と語る(下はスフヤーン家内に飾られている偶像)。





 
 17話から20話は、早回しで、ざっと何が描かれているかを把握する程度でSkipしてしまいました。17話でムハンマドが死 去し、18−19話では、アラビア半島各地でイスラームを放棄する叛乱勃発し、 その鎮圧戦争(リッダ(背教)戦争)が描かれています。このあたりは、ハーリド・イブン・アル・ワリードが大活躍する部分なので すが、以前 別のドラマ(「クアッカー・イブン・アムル・アル・タミーミー」(2011年カタール)や、「ハリード・イブン・ アル・ワリード」(2006年))でリッダ戦の詳細を視聴したことがあるので後回しにすることにしました。そのうち視聴したらあ らすじを記載したいと思い ます。それにして も、ハリード・イブン・ アル・ワリードは、英語版Wikiだと大変な長文で、彼の行なった征服戦争の地図やら戦陣図やらが沢山アップされ、日本語版Wikiの長さからは想像でき ないほどの人気ぶりであることが伺われます。私はあまり戦争や英雄には興味が無いのですが、それでもハーリドには興味を持ってし まうくらいですから、きっ と英語版Wikiのハーリドの記事を書いている人たちは、日本で言えば、三国志の武将並みの入れ込みようなのではないかと思う次 第(英語版Wikiのハーリドの記事が 78000バイトもあり、諸葛孔明が47000バイトであることを見ても、ハーリドの人気ぶりが伺われます)。因みにハーリド は、私が見た中では本作の ハーリドが一番かっこよく、権謀術数に無縁な武人ぶりが良く出ている感じがします。2006年のドラマの方が二枚目な役者さん で、ヒーローという意味では こちらの人の方がかっこよかった気がしますが、イメージとしてはティーン向けヒーローという感じ。2011年のドラマでは、ク アッカーに次ぐ副主人公の役 柄ながら、「神の剣」と言われた武将としては、若干腺が細い感じでした。まあクアッカーのドラマは主役のクアッカー以外あまり かっこいい人は登場していなかった のですけれども、本作のハーリドはなかなかバランス良い描かれぶりに思えました。

第十七話

ワシー改宗
後半ムハンマド死去。後継者会議。

第十八話 リッダ戦1

アリーが剣を抜く姿は様式美さえ感じる。歌舞伎で見得をきるところのような感じ。

第十九話 リッダ戦2
このあたりから指揮官ハーリドに。丸坊主の髯がハーリド。

第二十話 リッダ戦3
ヤマーマの戦い
後半のムサイリマ戦でフンダイファ兄弟、アブドゥッラーその他数名戦死。ウマルの兄弟ザイドも死んだらしい。

この後の回でイクリマー、Suhailがイスラム軍に参加していることから、彼らも17-20話のどこかで改宗していると考えら れる。
 
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