中国歴史ドラマ「隋煬帝」

 全25回。2007年作。DVDの紹介はこちらにありますが、下記のようなパッケージ。



 まるで「聖闘士星矢」のような煬帝帝(聖闘士星矢は読んだことが無いので、違っていたら申し訳ないのですが、イメージは合って いる気がします)。こりゃ武侠モノかとも思ったのですが、とりあえずレアそうなので買ってみました。

  ところが、表紙のパッケージとは大違いで、中身は比較的まとも。パッケージ表紙の、煬帝の上下左右にいる女剣士や二枚目剣士な ど、影も形も出てこない、 NHK大河ドラマによくありそうな感じの歴史ものでした。どうしてあんなパッケージングにしたのだろう。印刷の過程で画像を間違 えてしまったとしか思えな い。

 内容は、NHK大河ドラマ風に、煬帝の誕生からはじまって、青年時代、皇帝即位、没落、と比較的時代をはしょることなく、順を 追っ て描かれるものの、史実は結構省略されている。ドラマは、政治情勢よりも、親族の人間関係を中心に展開。前半は、仲が良すぎて父 帝と皇后にしかられるくら いの4人兄妹の子供時代が強調されています。後半は、兄を罠に嵌めて皇太子の座を奪った楊広を、兄妹が憎むようになり、事実上処 刑された兄の子供達の復讐 が中心に描かれています。その間には一応、成長するにあたって野心に目覚めて苦悩する楊広の姿も描かれています。



  左は、絵画に出てくるようなイメージの、即位当初の煬帝。まだやる気満々、精力的な感じ。漠然と抱いていたイメージに近い煬帝像 だったように思えます。下 は、末期、大勢の貴妃たちに囲まれ、だんだん政務もいい加減になってゆく煬帝。前半は、個々の家臣たちが描かれていましたが、後 半は、半分くらい貴妃達の 話という感じになり、群臣たちは、ただの背景に後退してしまっていました。

 




 

  右は、最終回。鬼気迫る煬帝。反乱軍がすでに宮中に侵入し、現実感を損失したかのように振舞う煬帝。下は、強制徴用されたの に、最後まで煬帝をかばって、宇文化及に殺された貴妃の上にくず折れる煬帝。

 

  下は、廃太子楊勇の長男、楊儼が、父親の復讐というよりも、宮中に奪われた妻を取り戻しにきたところ、宇文化及に殺された妻をみ つけ、すべて終わったと、 風をあおいで川辺に立ち尽くす場面。ありがちなシーンながら、絵になっている感じがします。妻が最後まで煬帝をかばったと知らず に終わってよかった なぁ。。。

  


  武侠っぽい場面がまったく無かったわけではなく、一時は歴史劇を逸脱しそうになったりしてました。唐朝開祖李淵の娘李英玉が武侠 の剣士で、夜中黒装束で単 身宮中に押し入り、数十人もの護衛はおろか、最後は煬帝とまで立ち回りを演じた時は、どうなることかとはらはらしましたが、意外 にこの辺の複線は発展せず に、なんとなく立ち消え。弟李世民は、小またの切れ上がったような姉と違い風采の上がらぬ背が高いだけのでくの坊という感じ。李 密なんて、なんのために出 てきたの?おいしい複線になるはずなのに。まぁ、複線を膨らましたら、25話で終わらなくなるので、これはこれでよかったのか も。
 
 と いうわけで、優れた歴史劇は、対象とする時代について、起承転結の形をとりながら、次の時代の主役となる勢力や、新しい時代の胎 動もチラリとにおわして終 わるものだと思っているのですが、本作は、煬帝とその親族・関係者以外一切興味なし、ドラマの終わりとともに、歴史も終わり、と いう感じで終わっていま す。楊儼や、義兄弟の庄虎も、このあと時代の主役になるような気配は一切なく、「このまま世を隠れて生きます」というような雰囲 気が濃厚に漂っていまし た。
 
 煬帝と親族中心に描かれすぎたために、他の登場人物がみな脇に退いてしまい、ご都合主義的に、場面場面の役回りをこなすためだ け に登場している、という劇展開にあって、唯一奥行きのある、生きた描かれ方をしていたような印象があったのが、軍人でありながら 途中で義軍のリーダーに転 じた庄虎。登場していないときも、「俺は自立的に生きてるぜ」という印象を与え、精彩を放っていました。李密や李世民など、あと 数人この手の人物が登場し ていたら、もっとインパクトのあるドラマになったのではないでしょうか。

 宮廷劇中心なので、合戦シーンもほとんどなし。南朝征服出征場面でも、宮殿の中庭で、壮行式を行う隋軍団が、縦横10列、合計 100人くらいの兵士しかいなかったのには、校庭で体操をする中学校のように見えてしまい、少し侘しかったです。

 全体としては、NHK大河ドラマの凡作レベルという感じの作品でした。そこそこ面白いけど、この時代に興味がある人向けかも。

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