中世ロシア映画「ヤロスラフ、千年前のロシア(邦題「バトル・キングダム 宿命の戦士たち」)

  中世キエフ公ヤロスラフ公(在1019-1054年)のキエフ大公即位前の若 き日々を描いた映画、「ヤロスラフ、千年前のロシア」(原題 Ярослав. Тысячу лет назад)。2010年ロシア製作。映画は、何年もの間におこる、いくつもの歴史的事件を描いているというわけではなく、ヤロスラフのキエフ公即位前 の、ロストフ公国に派遣されていた時の、映画が公開される1000年前の1006年の政情を描いています。「恐らくこういう 事件が起こったのだろう」と、 推測される異民族との争いや政争が描かれてはいるものの、内容的には、中世歴史ヒーロー映画の主人公を、無理矢理若き日のヤ ロスラフに持ってきた。と言う 感じです。

 一応映画冒頭で、CGで再現した地図とともに、そこそこの背景説明が入る。IMDbにも英語で背景説明が記載されているの で、これを読んでから見れば、ロシア語視聴者に対するビハインドも軽減され、ロシア史概説書などではあまり馴染みの無い時 代・地方の、当時のキエフ公国の 辺境地帯の状況に入りやすい導入部となっています。ヤロスラフの映画としては、1981年ソ連作「ヤロスラフ賢公」(紹介・感想はこちら)があるが、 これと比べると、最近の映画なので、映像は洗練されているし、衣装や建築物もリアルで、CGによる町の再現も当事のロストフ の町の空撮映像などを見せてくれます。しかし、全体としては、2007年の十字軍映画「Arn - Tempelriddaren」とロビンフッドを足して2で 割ったような作品という感じです。主人公は「ラストサムライ」のトムクルーズにも見えてしまう。

  個人的にはイマイチな印象があったので、これは日本語版が出なくてもいいかも。と、思っていたら、日本語版dvd(邦題「バ トル・キングダム 宿命の戦士 たち」)が出ました。本作を見て記事を書いたのは昨年8月のことで、dvdが出たのは10月。日本語版DVDが出たので本記 事は要らないとは思ったもの の、せっかく書いたのだから、少し内容を変更して掲載することにしました。

 辮髪の奴隷商人とか、中世に入っているとはいえ、古代装束の ロストフの人々とか、映像的に参考になる部分もあります。とはいえ歴史映画というより、中世風ヒロイック・ファンタジーがお 好きな方向けのように思えま す。背景説明と、歴史の参考になるかも知れないような画面ショットを張っておきますので、ご興味のある方は「More」をク リックしてください。


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 冒頭でCGで作成された地図アニメーションを用いて当時のキエフ公国の状況の背景説明がなされます。

  −11世紀初頭のロシア。キエフ・ルーシは多くの公国から構成されておりキエフ大公ヴラジミールの息子達によって諸公国は統 治されていた。.公子達は、家 来とともに、多くの貢納品を集め、キエフの父の元に送っていた。ロシアの北東部にある、キエフからもっとも離れたロストフに は、11歳のヤロスラフが公と して送られた。ヤロスラフは地元の貴族の後見の元に成長した。ヤロスラフが幼少の頃は、後見の貴族が統治していた。彼が成長 するに伴い、ヤロスラフは権力 を掌握し、公国を拡大し、新しい土地へと進出する。しかし、それは容易なことではなかった。 無法者達が川や道に沿った森を支配していた。彼らは奴隷交易を主な生業としていて、彼らは人々をブルガリアやハザールに売っていた。そして奴隷達は、更 に、ヴォルガ川の低地に転売されていった。

左地図がキエフ大公国全土。赤矢印の北東部分の辺境分国がヤロスラフの統治するロストフ。緑矢印が黒海のクリミア半島、青矢 印がデンマークのあるユトランド半島、黄色矢印はノルマン人の進出方向。水色矢印は北を示します。

上右地図はロストフ分国の拡大図。左地図とは、方位が若干違っている点に注意。

こういう丁寧でわかりやすい背景説明の後、カメラは地図に近づき、ロストフの町の上空が映り、更にカメラが降下してゆき、ロ ストフの町中に降りてゆく。この冒頭は映像的に非常に面白かったので、その後の展開も期待して見始めたのですが。。。。

 ロストフの町。当事のロシアの、一般的な公国の都の全体がわかるショット。CGと実写合成だと思いますが、よく様子が出て いると思います。

 カメラはそのまま、下に向かう。 

 ヤロスラフの後見人であるロストフ貴族。服装が参考になる。

 ロストフ市民の一般的な服装。中世というより、古代的。

  ヤロスラフの後見人の館。木造建築であることがわかる。

  森の無法者の女性。ロビンフッドな感じ。 話は、元々ヤロスラフの後見人を務めていたロストフの貴族と、ヤロスラフ及び森の 無法者達(キリスト教改宗前 で、古来の宗教)との三つ巴の争いが描かれ、最後はロストフの有力貴族がやられ、無法者達もキリスト教に改宗して終わる。


 森の無法者の一人、ヒロインの顔の化粧を拡大。

 森の中にある謎の施設。こういうものが本当にあったのか。あったとしたら、何に使っていたのか(映画をもう一度最初から見 直せばわかるかも知れない。見逃していたかも知れない)。この施設は他のロシア映画では見た覚えがなく、興味を惹かれる。

 映画ラストに登場した、川岸に新しい教会を建設する施工式。森の無法者達も一緒に参加するのだった。


 この時代の歴史書を読む時に参考になりそうな映像はだいたい以上という感じです。娯楽中世風ヒロイック・ファンタジー映画 としてのアクション場面盛りだくさんの娯楽作品です。  



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