ルーム・セルジューク朝歴史ドラマ『ユヌス・エムレ』(TV版(2015年-))

 
 2015年6月から毎週水曜日夕方トルコのテレビ局TRT1で放映中。2016年3月現在31話。一話平均40-50分 (放映時間自体は1時間を越えるが、最初の20分くらいは前回のあらすじなので実質4-50分)。前回ご紹介した映画版(ユヌス・エムレの紹介と著作もこちらの記事を ご参照ください)を受けて製作されたと思われるテレビドラマ。映画と比べると一部保守的な感じがしなくもない部 分がありますが、史実に忠実ということなのかも知れず、私の知識では判断できないものがあります。活劇ではないので、動きが あって面白かったのは5話までで、あとは惰性で見てます(見ているというより、別の作業をしている時にBGM代わりに流し て、おおよそのあらすじを書きとめているだけなので、最早視聴といえないかも知れない)。しかし、それでもいろいろ発見が あって、そういう部分が面白いといえなくもありません。
 
 このドラマへの私の期待は、ルーム・セルジューク朝時代の景観の再現映像です。なので、最初に再現映像をまとめてご紹介 し、その後登場、人物紹介、あらすじ、の順番でご紹介していきたいと思います。

 なお、このドラマは、22話までが第一シーズン(1268年を描く)で、23話以降(1270年以降を描く)が第二 シーズンとなっています。22話で旅に出たイムレが、2年後の23話で戻っ てきて、23話から主演女優が交代し、町のセットも若干変わります。

 下の2つは、ルーム・セルジューク朝の都コンヤの再現映像。右下は、コンヤにある、青年ユヌスが学んだ学院。ここ を卒業したユヌスは、Nallihan(ナリハーン)という町の裁判官(カーディー、実質上の行政長官)に任命され 赴任する。下右画像は、実在のオスマン朝建築に似ているが、CGのようなので架空の建築物だと思われる。



 ナリハーンの町の中心部のセット。下左映像の右側に、ローマ時代の円柱を再利用した建築物が見える。町の城門の上 でも人々が談笑していて(下右)、地方の小都市ながら、そこそこ繁栄している感じ。



 下右はナリハーン村の中心部。ローマ風円柱が、もっともらしい味を出していま す。トルコ建築史の書籍では、アナトリアに到来した「トルコ民族がもたらした新しい建築物」について研究・解説して いても、その時代の景観を構成する大部分である、「従来からある建築物」については言及していないため(今のとこ ろ、言及している書籍を見たことがありません)、「当時の町の景観」についてはあまり情報が得られません。そういう 意味では、ドラマというフィクションであっても、視点の提供という意味では参考になりまし、これの根拠は?といちい ち引っかかるので、当時の生活景観を調べるモチベーションにも+になります。このドラマは主にそういうところを見続 けている、という感じでしょうか。実際、23話以降では、ローマ風円柱はなくなり、石造の柱に変わっています。深い 意味はないのかも知れませんが、もしかしたら、何か根拠があるのかも知れません。下左は隊商宿の食堂の様子(同じテ レビ局なので、『エルトゥールルの復活』のセットを流用している模様)。



 以下は、ナリハーン町のカーディーの執務室。右画像の奥の壁に、ルーム・セル ジューク朝の紋章である双頭の鷲の大きなエンブレムが掛けられている。



 ナリハーン町の中心街。



 左はナリハーン町の遠望。右は市街。市街中心部はひととおりセットが作られてい る模様で、人物の背後をかめらが追いながら、街路を巡る映像も登場します。



 町の中心広場の様子。下左画像では、建築物の上半分はレンガの上にしっくいを 塗ったような感じですが、23話以降では、近世北欧州のティンバー様式を感じさせる木骨材と白いしっくいの壁になり ます。右画像奥にローマ円柱が見えています。



 これも市街の様子。


 左は市街中央広場にある水道。中央は、街道沿いにある水道。右はナリハーン町の鳥瞰。



 以下は都コンヤの鳥瞰。上右画像と同じCGを下敷きにしていることは一目瞭然な のですが、それでも、赤茶けたて道路も舗装していない地方の小都市ナリハーンと、ところどころ緑やモスクが見られる コンヤでは、それなりに違いがでています。製作者陣の一応の努力は感じられます。



 下左は、ナリハーンの学院の広間。日本と同様、土間に履物を置いて、広間に直接座っています。右下は町の広場。子 供たちが亀をいじめて遊んでいるところ。



 主要登場人物。左二枚がユヌス。ドラマ『エルトゥールルの復活』でアレッポ太守国の宰相シャハベッティンを演じた 人。ユヌスの本名は不明なようだが、このドラマではアブドゥッラー・ユヌスと呼ばれている。左端は修道僧になった 後、その右はカーディ在任中。中央は導師のタプトゥク・ババ、右端は、同僚修道僧カースマ。映画版と同じ名前で、あ まりわかりやすく表現されていないのが、多分導師の娘バチムを好きな模様。その左は、カーディの部下の警邏隊隊長ス ヴァシュ。



 左端が導師の娘バチム。結構美女に見えますが、これは最高のショットで、実際は もうちょっと普通っぽい顔立ち。22話まではSeda Tosunという女優が演じていましたが、23話からPelin Orhunerという方に代わりました。男性の前では常にヴェールで顔を隠していて、夜一人で寝ている時も頭をフードで覆っている徹底振り。まるで革命以 後のイラン映画のよう。この点映画と比べて保守的な演出となっている。その右はバチムの友人で医者ミケーレの娘(名 前はギラーと聞こえたが、違うかもしれない)、ユダヤ人なので髪を出している。その右は導師タプトゥクの妻、バチム の母親ハニム・アナ。右端は商店街の有力者アヒー・マスード。



 下段左端はユヌスの後任のカーディ・ギョメッセル。コンヤの神学校で同僚だった。その右二人は商店街の人々(左は名前不 明、右はデミルチ・バイラム=鍛冶屋)。 右端は医師のミケーレ、ユダヤ人。

 以下、あらすじです。

第一話から第五話

 要約:1268年、コンヤの神学校で学んだユヌス(30歳)は、地方小都市にカーディー(裁判官、事実上の行政長官)に命 じられて赴任、理詰めの判決を多数下す日々。町中での評判は悪い。しかしある死刑判決が誤審であると気づき、あわや執行とい うところで差し止める事件が発生。深く反省したユヌスは、過去の裁判をやり直し、その後カーディを辞任し、修道僧となるべく 神秘主義教団の門を叩く。

第六話から第十話

 神秘主義教団に入団したが、毎日下働きをさせられ、集団礼拝や導師の説教にさえ参加させてもらえず、不満を抱くユヌス。導 師に相談するが、今度は犬の餌やりまでやらされるようになり、更に不満がつのる。そんなある日、市街を巡回している、町に新 たに赴任してきたカーディ一行に出くわす。後任カーディは、コンヤの学校の同期ギョメッセルだった。

第十一話から第十五話

 ユヌスは遂に教団を抜け出し、コンヤの神学校に戻るが、校長に諭され、ナリハーンの町に戻ったユヌスは、社会の最下層であ る水売りの売り子として生計を立て始める。ダルヴィーシュ(托鉢僧)は、当時乞食同然と見られていたらしく、元同僚カーディ が町を巡回している時、恥ずかしさから思わず路地に避けてしまうユヌス。教団の運営は正規には認められていないようで、ユヌ スとの会話から存在を知ったギョメッセルは、教団を捜査し、導師を逮捕、牢獄に監禁する。しかしユヌスらの尽力により、導師 は解放される。

第十六話から第二十話

 郊外に馬で出かけたユヌスは暴れ馬から振り落とされ、昏睡状態になる。通りがかった農民に発見され、医者のミケーレの元に 担ぎ込まれるが一週間昏睡状態が続く。孤独に年老いた自分が若い頃の自分を回顧する夢を見てうなされ続ける。回復したユヌス は正式に教団員として認められるが、水売りとしての生活は続く。町では子供たちがダルビーシュが来た!と散ってゆくような社 会身分として描かれている。

 第六話以降から、教団団員カースマの挙動が怪しく、ユヌス不在中にユヌスの部屋に忍び込んで何かを探したり、町でユヌスを 尾行するなど、怪しい行いが多数登場するが、目的が良くわからない。バチムもユヌスを警戒している様子で、なかなかこの三者 の間の感情がわからないが、全体的には、カースマとユヌスはバチムに好意を持っていて、バチムも段々にユヌスを気に掛けるよ うになってきているようである。

第二十話から第二十五話

ユヌス、修業の旅に出ることを決心し、導師に伝える。理由はよくわからないが、カースマの讒言とかに怒っていたので、そうし たことも理由のひとつかも知れない。それを聞きたバチムはショックを受け直接ユヌスに確認する。今まで殆ど好意や感情を見せ なかったバチムがいつの間にかユヌスに惹かれていたことがようやくわかる。それを振り払って旅に出るところで第22話は終了 し、23話では1年後、1270年、ユヌスが町に戻ってきたところから始まる。ユヌスは今回、郊外でイスマイルという孤児の 少年と農家の下働きをして暮らすようになる。カーディは、権威主義的なアルグン・ベイに変わっている(下中央)。その右は警 邏隊隊長サル・アーで、この人も第一シーズンのスヴァシュから交代している。左端は、アルグンの妻でバチメの友人ザヒデ。怪 しげな占い師の元にバチム を案内したりしてよくわからない存在。なんとなく腹黒そう。その右がバチム。23話から演じる女優がSeda TosunからPelin Orhunerに変更となっている。美女度があがった。しかも、Seda Tosunが演じている時は、スカーフで顔を覆って絶対に顔を出さなかったが、Pelin Orhunerになってからは、顔を隠す場面が減った。右端は24話から登場した人物で、名前、役どころは不明。アルグン・ベイが会うのを嫌がるくらいだ から、そこそこ地位がありそう(シャーヒン・ベイという名前かも知れないが、どうしても確定できないので、暫定的にシャーヒ ン・ベイとしておく。もしかしたら、ルグンの前妻の子かも知れない)。



 以下は23話以降の町の様子。市街の家が白壁木骨材のテインバー様式となり、だいぶ印象が変わった。このセットは、ドラマ 『エルトゥールルの復活:』第二シーズンでも登場している。

 

 カースマはアルグン・ベイの元を訪れ、その夜アルグン・ベイと警邏隊がユヌスが暮らしている農家の離れを襲撃し、ユヌスを 井戸の底に落とす。カースマは、ユヌスを殺害することまでは望んでいなかったようで、二三日後、イスマイル少年と導師に助け られたユヌスは導師の家でバチムに看病される。治ったユヌスはアルグン・ベイを訪ねる。驚愕するアルグン・ベイ。

第二十六話から三十話

 取り合えずアルグン・ベイとユヌスの間の誤解も解けて、ユヌスは、アルグンの相談役のような地位に納まる。シャーヒン・ベ イに公金横領の嫌疑をかけられたようだが、嫌疑を晴らし、さらにシャーヒンがしかけた陰謀もあばき、すっかりアルグン・ベイ の補佐官のような地位に納まる。一方、バチメとの間は全然進展せず、バチメの態度がだいぶ積極的になってきたのにも関わら ず、ユヌスの方が避けるようになり、一方、アルグンの歳の離れた妻ザヒデは、ユヌスとバチメのよそよそしい関係に気づき、何 を目的としてか、揺さぶりをかけて来る。。。。(以下はザヒデが常用している馬車。本当にこんな感じだったのか、そのうち調 べてみたいと思います)。



 こちらは、郊外の農村。集村として描かれています。

 

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