中世欧州歴史映画「バルバロッサ」(皇帝フリードリッヒ一世バルバロッサ))

   原題「Barbarossa」。2009年イタリア製作(2012年9月日本語版dvd発 売(邦題「バルバロッサ 帝国の野望」)。イタリアでバルバッロッサの異名をとった皇帝フリードリッヒ一世(在1152-90年)のイタリア侵攻(1156年から1176年)と、 ロンバルディア同盟との決戦を描いた作品。かなり面白そうな題材なのに、IMDbもAmazonの評価も非常に低い状況。実際見 てみても、予想した程酷く は無いものの、まあ低評価も仕方無いかな、という感じ。でも日本語版は出てもいいように思えます。本作の見所は、当然1176年 のロンバルディア同盟と皇 帝軍のレニャーノの戦いなのですが、下記はその戦いでの同盟軍の戦車。史実だとすれば、これはなかなか想像し難い映像といえ、貴 重だと思います。皇帝フ リードリッヒはほぼイメージ通りですが、冒頭1156年から、ラストの1176年まで20年が経過(34歳から54歳)している のにも関わらず、あまり容 貌が変わらないのが少し不満かも。
 

  IMDbによると、元はイタリア語版は2部構成の200分のテレビ版とあるので、CG多様の安っぽさは仕方のないところかも。し かも英語版dvd139分 と比べると、61分もカットされているので、辻褄の合わないところや、無駄な伏線と思える箇所が多い原因はそこにあるのかも。機 会があれば完全版を見て見 たいところですが、わざわざ購入してまで見たい作品ではないかも。


関連書籍の感想:図説 神聖ローマ帝国 (ふくろうの本/世界の歴史)
関連歴史再現ドラマ「バルバロッサと獅 子公
IMDbの映画情報はこちら
英語題名「Sword of war」 dvdが出ています

 最初に本作の欠点をあげておきたいと思います。

1.本物の予言者を登場させてしまった点。ピンゲンのヒルデガルドと主人公の一人、普通の娘の2人が登場するのですが、正直本筋 には何の関係も無いといえます。基本史劇なのに、「ロード・オブ・ザ・リング」志向の視聴者層を狙ってしまったのでしょうか。

2. 冒頭、主人公アルベルトが、少年時代、森で狩をする皇帝と出会い、猪を仕留めるのに失敗し、命を落としそうになった皇帝を救い、 皇帝から短剣を貰うエピ ソードが出てくるのですが、このエピソードも短剣も、後々何の伏線にもなっていません(婚約の印にフィアンセに短剣を贈るところ と、単身アルベルトが皇帝 を襲いに行ったところ、剣を見て、思い出し、見逃してくれるところ。しかし、そもそもこの襲撃場面そのものが必要だったか疑問)

3.全体的にキャラが生きていなかった。特に、女性三人(テサ、エレオノーラ、后妃ベアトリスは、正直出てこなくても映画の印象 は変わらなかったかも。特にベアトリスは、結構曲者な感じで、もう少し活躍して欲しかったところ。

4.物語途中から「フリーダム!」と叫びすぎ。「ブレイブ・ハート」の10倍くらい叫んでいたのではなかろうか。ラストはただた だうざかった。

 では画面ショット中心に簡単にあらすじをご紹介いたします。

 冒頭、狩の場面から始まるのは記載した通り。そして直ぐ「数年後ドイツのヴュルツブルク」とテロップが入り、明日に2d度目の 結婚を控えた皇帝フリードリッヒが、ビンゲンのヒルデガルト(1098-1179年)に運命を予言してもらいに行く。 「皇帝は水で死す」と予言される。そのヒルデガルト。被っているベールがちょっといい織り方だったのですが、画面ショットでは単 なる黒のベールとしか映らなかったのが残念です。

 皇帝フリードリッヒ。

 ドイツのフリードリッヒの城の王廷。

  フランスのブルゴーニュ伯爵であるベアトリスは16歳くらい。式に集まった人の中には「幼女との結婚だ」とささやく人も。主人公 の鍛冶屋親子が荷馬車で荷 物を運んでいる時、ドイツ軍の検問に会い(恐らく武器を運搬していたのであろう)、兵士に切りつけ乱闘となる。怪我をした次男の アルベルトが、馬の背にう つぶせとなり、ヒロイン、テサとエレオノーラ姉妹が川で水浴びをしているところにやってくる。アルベルトと姉妹は知り合いのよう で、姉妹が看病するのであ るが、その家は、レンガ造り。姉妹の家の職業は分からなかったのですが、当時の家としてどうなのでしょうか。

  そして後、唐突に、市の長官バロッツィが姉妹の家を訪ねてくる場面で、食事中の姉妹と父の画像が出てくるのですが、その家は木 造。しかも長官(「アマデウ ス」のサリエリ役のマーリー・エイブラハム)が訪問した理由が姉のテサを嫁にくれ、という話。(もちろん父は修道院に入るからと 断る。食事中のエレオノー ラの行儀の悪さ(足を椅子に乗せている)も印象的。この時代、普通だったのかも)。

  さて、ミラノ市に皇帝から正式な、皇帝への所属を求める使者が来る。市長官バロッツィは柔軟な姿勢を見せるが、若いコンスル(執 政官)ジェラルドは、皇帝 の手紙を踏みつけにする。市長官はフリードリッヒの元に賄賂を持って出向くが、皇帝に会ってももらえず追い返される。后妃ベアト リスは、結構なキレ具合 で、皇帝ヒルデガルトの予言を伝えると、「私が后妃として別の予言をしてあげる」といい、「あんたの夢が普遍帝国なら、ミラノ人 を滅ぼせ」と唆す。その頃 ミラノ市では議会が開催され、市長官は降参するよう主張するが、執政官は徹底抗戦を主張し、こうして皇帝軍ミラノ攻めが始まるる のだった。皇帝軍は雪の峠 を越え、イタリアに向かう。そして、ヴェローナのAdige川に船橋を設置して渡河中、流木が流れてきて、船橋が崩れてしまう が、皇帝は川に入り泳いで自 ら船の紐を確保し、そして水に溺れそうになる。ここで、フリードリヒがアナトリアの河で水死した(結構有名な話)を知らない人 は、「予言が当たったか」と 思ってしまうのかも知れないし、本作で幻視が何度も出てくるのを見ていると、「史劇ではなく、ファンタジー映画なのかな。そうで あれば、ここで死ぬのもあ りかも」と思ってしまうのだが、皇帝は浮かび上がってきて助かるのだった。兵士に歓呼で迎えられる皇帝。
 そして皇帝軍はミラノに到達する。下記はそのミラノ市。

 ミラノ市を攻める皇帝軍の天幕。ミラノ市の周囲は一面野原である。これも印象に残った。当時本当に、周囲は野原だったのでしょ うか。。。

これは、攻城戦い後の、テサの葬儀場面。遥か地平線に見えている城塞が、ミラノ市らしいのですが。。。

 ミラノ市周囲堀に攻め寄せる皇帝軍

  多数の投石器から火のついた石が雨あられとミラノ市に注がれ、それは夜も続くのだった。この場面で、鍛冶屋の兄弟の一人が矢で射 殺される幻視をするエレオ ノーラ。この場面に限らず、何度かエレオノーラは幻視をするのであるが、場面転換の理由に使われているとしか思えない幻視能力な のであtった。
 夜も続く投石攻撃。この場面は、「キングダム・オブ・ヘブン」のエルサレム攻撃を彷彿とさせ、悪くはなかった。

 ミラノ側も市内から投石器で応戦。下記はミラノ市街。

 ミラノ側は(援軍支援か、ゲリラ戦か忘れてしまったが)、若者達を密かに場外に出撃させるが、捕まり、攻城兵器の表に貼り付け にされてしまう。ローマ時代だと、木造だった攻城兵器が、布張りなのが特徴的。

(その後、BBCの「Ancient Rome The Rise and Fall of An Empire」の第四話、第一次ユダヤ戦争(66-70年)の映像でも、皮布張りの攻城兵器が出ているのを見ました)

  攻城兵器を燃やしたりできないようにするために、人質としているのだろうと思われる。そこで、ミラノ市側は、やむなく全員を射殺 すのだった。しかしその 後、攻城兵器を燃やさずに、皇帝軍も城攻めをせず、夜に、ミラノ側の兵が遺体を回収しにゆくのだった。良くわからない展開である (この後、アルベルトが既 述の、単独で皇帝を暗殺しにゆく場面が出てくる)。
 最後は、市長官バロッツィが裏切り、開城し、皇帝軍をミラノ市に迎え入れ、市民全員シシリー に移住するよう宣告される。ミラノ旗はおろされ、皇帝により火をつけられる。そしてミラノ市民に宣告するのだった。日没までに市 を退去するよう。ミラノは 地図から消されるのだ、と。

 舞台はローマに移り、ベアトリスの皇后戴冠場面となる。下記はローマ。

 皇后戴冠は1167年のことで、ミラノ市破壊(1162年)後4年が経過していることがわかる。



 一方アルベルトは、北イタリア各市を説得して周り、反皇帝同盟「死の団体」(The company of death)」を組織するのだった。以下は、どこの市かわからないが、どこかの市の庁舎。

 そして何故かここで、アルベルトとエレオノーラの結婚式が挿入されるのだった。ゲリラなんだから当たり前なのでわざわざ画面 ショットを取るまでも無かったのだが、野原で草冠をつけた質素な結婚式。

  またその一方、皇帝軍の配下となった市長官バロッツィは、兵士とともにある修道院に美女徴発に来る。そうして、テサを見つけてし まう。修道院の塔の上に駆 け上がって逃げるテサ。市長官は「愛している」と止めようとするが、テサはそのまま後背に飛び降りてしまう。そしてそれを、エレ オノーラが幻視するのだっ た。

 テサの葬儀の席で市長官に切りつけたエレオノーラは、魔女として逮捕され牢獄に入れられてしまう。噂を聞いた后妃ベアトリスが 面会 に来るが、この部分も良く判らなかった。ベアトリスは幾つか質問した後、「魔女!」と叫んで後ずさりするだけ。魔女を味方につけ ようとか、予言をさせよう とか、そういうことでは無かったようである。下記はベアトリス。曲者めいた感じが良かったのですが、あまり弾けずに終わってし まったのが残念。

 そしてエレオノーラは魔女なので、火あぶりの刑になる(ここで、処刑されるエレオノーラが覆面されているのがミソ)。処刑人の 被っている仮面が見もの。これも中世映画としては珍しい例。

 そして1176年5月29日。レニャーノの戦いの日。野原で決戦が行われる。
 皇帝軍は、まあこんな感じ。騎兵中心。

 ロンバルディア軍は、騎兵はまあまあ皇帝軍並の装備だが、兜や鎧が皆ばらばらなのが、ゲリラ軍っぽい。そして冒頭でもご紹介し た問題の戦車。

 CGでの空撮場面もあり、まあまあな戦闘場面でしたが、ありありとCGとわかるのが残念。
  ロンバルディア軍は圧勝し、皇帝軍側で参戦した市長官を、アルベルトが、「兄弟を、妻を殺したなぁぁぁ」と、じわじわと殺すとこ ろが良かった。戦いが終わ り、皇帝軍は戦場を引き上げる。戦場に残った同盟軍は、疲れ果てて戦場にへたり込む。そして何故か、甲冑姿で倒れている兵士が生 きていることがわかり、仮 面を取ると、なんとそれは、処刑された筈のエレオノーラだった。。。。。。。アルベルトとエレオノーラを前に、「フリーダム!」 の大合唱。

 最後にエンディング音楽が流れながらテロップが出る。

 皇帝の画像が出て、
 「14年後、彼は十字軍へゆき、アナトリアの春の夜、Salef川の水を歩いて渡り、前に言われたように、彼は水の中で死ん だ」(フリードリッヒが溺死した川はこれ

続いてアルベルトの画像が出て、
 「アルベルト・da・Giassanoは、エレオノーラとともに長く生き、七人の子供を設けた。「死の団体」は解散となり、ロ ンバルディア同盟の町々は自由を勝ち取った」

〜Fine〜
BACK