2016/May/14 created
2018/May/05 last updated

スペイン歴史ドラマ『Carlos, rey emperador(カルロス、王たり、皇帝たり)(王にして皇帝)』(2015-16年)
(邦題『カルロス〜聖なる帝国の覇者〜』)

 2015年9月から2016年1月にスペインの国営放送局TVEで放映された、 スペイン黄金期の国王カルロス1世(神聖ローマ皇帝カール五世)の半生(1517-1558年)を描いた全17話の 大河ドラマ。平均1話75分、全17話。本作、TVEの公式サイト(こ ちら)で全話スペイン語(カスティーリャ語)の字幕付きで視聴することができます。また、登場人物紹介 も、こちらの公 式サイトにあります。なので、本作がどういう作品なのか、については、公式ページをご覧いただければほ とんどわかります(※2018年3月チャンネル銀河で、『カルロス〜 聖なる帝国の覇者〜』とのタイトルで放映)

 まず、主人公のカルロスです。どうです、当時の肖像画とよく似ていますね。絶妙な配役です。



 というのは嘘で、上左の画像は本作に登場するヘンリー8世です。以下が本作に登場するカルロスです。左端は弟のフェルナン ド(神聖ローマ皇帝フェルディナンド一世)で、その右が、30代頃のカルロス、その右は10代のカルロス、右端は30代以降 死去(58歳)までのカルロスです。



 あくまで私の印象ですが、全然カルロスという感じがしませんでした。特に野生的 なヘン リー8世が出ているうちはずっと違和感がついて廻りました。史実の活躍ぶりからすると、どうにも本ドラマのカルロスは線が細すぎるんですよね。でも案外こ んな感じだったのかも知れませんが。。。晩年のカルロスはじめ兄弟姉妹全員、50代なのに30代 にしか見えず、単に美男美女俳優をそろえただけなんじゃないの、美男美女が美しすぎる衣装を来て歩き回っているだけ でなんかいまひとつだと思っていたのですが、見終わってみると、そんなに悪くもなかったように思えてしまうところが 不思議です。フェルナンド役の方は、『SHERLOCK』のベネディクト・カンバーバッチに顔立ちが似ている方でし た。

 ちなみに上の肖像画を書いている場面が十二話で登場しています。



 もうひとりだけ先に紹介しておきたい人物がいます。カルロスのライバルフランソワ1世です。



 ちょっとこの画像ではわかりにくいかも知れませんが、リアルルパン三世という感じです。口の曲がり方といい、ニヒ ルな皮肉屋でプレイボーイなところといい、そっくりです。

 今回の記事は、テレビ局サイトで視聴可能であり、公式登場人物紹介サイトもあるので、本記事では、以下の4点につ いて記載したいと思います。

 【1】各話の概要
 【2】 登場人物紹介の補足
 【3】画面ショットなど
 【4】感想など

 本作にご興味を持った方は、公式サイトで視聴可能ですが、特定の事件などの回だけ選んで視聴したい方のため、各話の概要を 記載します。また、公式サイトの登場人物紹介は、デザインも機能も優れていますが、クリックしても詳細記事が存在しない人物 や、掲載されていない重要人物ががいたり、掲載画像が写真か絵なのか判然とせず、誰だかわかりにくい部分もあるため、一部の 人物を画面ショット入りで紹介します。最後に、その他取得した画面ショットの紹介や、ドラマの感想やつっこみや本作で知った 豆知識などの雑文を書いてみたいと思います。


【1】各話の概要

 各話の題名とトピック、対象年代は以下の通り。本作は、スペイン王宮、フランス王宮、ローマ法王庁、イングランド王宮、 ネーデルラント総督府(ドラマではフランドル)、ポルトガル王宮、新大陸のスペイン植民地が数分おきに交互に登場し、平行し て話が進むので大変忙しい展開です。以下では、あらすじではなく、特定の事件の回だけを視聴したい方の参考のために、各話の 年代とトピックだけを記載しています。基本的にスペイン中心に記載していますが、フランス王宮と新大陸はスペイン並みに毎回 頻繁に登場しています。
 1517-30年(1−11話)まではほぼ1話1年くらいのペースですが、1531-1558年(12-17話)は1話5 年くらいのペースです。

第一話"El extranjero"(外国人)
 1517年秋、ビルバオ西約150km地点にある、どこの町からも離れた寒村タゾネスの浜辺にこっそりカルロスと姉エレオ ノーラと家臣が上陸するところから開始。フランドル地方生まれで一度もスペインに入ったことのないカルロス姉弟と家臣達がス ペイン政界では外国人支配と見なされる。スペイン貴族達はスペイン育ちの弟フェルナンドを支持していてなかなか都に入れず、 フェルナンド側との交渉が続く。フェルナンドと都バリャドリッド南郊モハドスの地で行き合うまでが描かれる。

第二話 "La rapiña"(略奪)
 1517年冬から1518年。フェルナンドはフランドルに向かうが、カルロスは現地家臣になかなか受け入れられず、祖父の 後妻であるスペイン女王ジェルメーヌはフランス南部出身で、外国人の立場でカルロスと心情を共有し、男女の関係を持つ。心配 したネーデルランド総督で叔母のマルガリータが腹心ガッティナーラをスペインに送り込む。

第三話"O César o nada"(皇帝か、さもなくば無か)
 1519年、皇帝マクシミリアン1世が死去し、皇位認定に関し各国での駆け引きが描かれる。新大陸ではコルテスが本国や現 地総督の命令を無視してキューバのスペイン植民地から大陸本土に渡り、アステカ遠征を開始する。アステカ王国の映像が登場す る。

第四話"El imperio a subasta"(競売さる帝国)
 1519年。すさまじい買収合戦となった皇帝選挙の様子が描かれる。金、領土、官職などあらゆるものが取引の材料とされ る。このドラマは、ほぼ毎回クライマックスというものがなく、割とだらだら史実を追っているだけという印象が強いが、この回 は盛り上がって面白かった回。フランドル総督マルガレータは存在感があり迫力があった。皇帝選挙で傭兵を投入し、カルロスの 皇帝が決定される。

第五話"Un reino en llamas"(炎上する王国)
 1520年。スペインでは、カルロス支配に反対する貴族達が反乱を起こし(コムネロスの乱)、コルテスはアステカ王国を一 度は征服するが、現地反乱軍により首都テノチティトランは炎上し、王は部下に撲殺される。

第六話 "La herejía y la guerra"(異端との戦争)
 1521年。イタリア戦争前半とコムネロスの反乱後半(ただし戦闘場面はなし。幹部が会議をしている場面しか出ない)、お よび、ルターが開始した宗教改革への対応(ヴォルムス議会)などが描かれる。コムネロス反乱首謀者の公開処刑で終わり。

第七話"El arduo camino hacia la victoria"(勝利への険しい道のり)
 1522-24年。イタリア戦争後半。フランソワ1世が捕虜になったところで終わり(これも戦闘場面があるわけではなく、 負傷して逃げてきたフランソワが民家の納屋に逃げ込むところが出てくるだけ)。

第八話"La prisión de un Rey"(虜囚の王)
 1525-6年。フランソワ1世はヴァリャドリッドに軟禁され、フランス王宮と解放交渉が重ねられ、講和条約が締結され る。狩猟中のフランソワとカルロスの姉レオノーラが出会って惹かれあい、帰国前にカスティーリャ王宮でフランソワとレオノー ラの結婚式が行なわれる。一方ポルトガル王女イサベラとカルロスの縁談も進んでいて、イサベラはカスティーリャに入国する が、カルロスはフランスとの交渉で忙しくなかなか会いに行かなが、この回のラストで漸く二人が落ち合う。

第九話"Una larga luna de miel"(長い新婚旅行)
 1526-28年。カルロスとイサベラは、セヴィリアで結婚式を挙げた後、アルハンブラ宮殿に長期滞在する。この間、ハン ガリーはモハーチの戦いでオスマン帝国に征服され(映像は一切なく、敗戦とブダ陥落がカルロスの弟フェルナンドに伝えられる 場面だけ)、戦死したハンガリー王ラヨシュ2世の夫でありカルロスの妹であるマリアがこの回初めて登場し、以降頻繁に登場す るようになる。イサベラはフェリペ二世とマリアを生み、イタリア戦争でブルボン公シャルル3世が戦死する(ここも戦闘場面は なし)。
 
第十話"El apestado"(伝染病の蔓延)
 1527-9年。冒頭でローマ略奪(サッコ・ディ・ローマ:1527年5月6日)の映像が映るので(教皇が窓から炎上する 市街を見る場面だけ)、前話末尾登場したカルロスの娘マリア誕生(1528年6月21)より以前に戻っているが、この回のメ インは、スペインとフランス間のカンブレーの和約(1529年8月3日)。この回終わり頃から、カルロスのメイクが老け顔に なる。この後第十二話に渡り要人が次々と死去し、同時に11-13話で後半の要人が登場するので、このカルロスの風貌が変 わった時から12話が物語り全体の折り返し地点といえる。

第十一話"Todos debemos ser uno"(我々は団結すべき)
 1530年。冒頭カルロスの皇帝戴冠式(1530年2月24日)。この回は、カルロスのスペイン統治を支えてきた宰相メル クリーノ・ガッティナーラ(6月5日)、叔母のフランドル総督マルガレータ(12月1日)が死去する。カルロスはフランド ルで政務を見ていて、スペインは王妃イサベラが事実上統治している。マリアがルター派に勧誘されたり、オスマン軍が国境に侵 攻してきたり(1532年とテロップが出るがこの回は基本的に1530年の話)と外患に悩まされた時期。この回から新大陸は ラス・カサス神父がメインとなり、コルテスは殆ど登場しなくなる(ドラマには死去について言及がないが、マリア・パチェーロ と第二代アルバ公も1531年に死去している)。

第十二話"Los demonios"(悪魔)
 1531-36年。冒頭でフランス王太后ルイーザ死去(1531年9月22日)。後半でヘンリー8世妃カテリーナ死去 (1536年1月7日)。1534年10月18日フランスで発生した檄 文事件などが描かれる。
 

第十三話"De amor y muerte"(愛と死)
 1535-1539年頃。今回は病気になる人が多い。フランソワ1世は病気快癒後、若干容貌が変わるが、老けメイクという 感じではなく、単に黒長髪が茶短髪になっただけという感じ。フェリペ2世も病気。王妃イサベラは末子出産後死去。葬儀がグラ ナダで行なわれているので、ずっとグラナダで政務を取っていた模様。

第十四話"Educando a Felipe"(フェリペの教育)
 1540-1545年。フェリペ二世この回から青年役となる。5歳年上のイサベル・デ・オソリオに恋をし男女の関係となる が、結局ポルトガル王女マリア・マヌエラと結婚することになる(1543年)。カルロスもバルバラ・ブロムベルクを愛人と し、ジェロニモが生まれる(1544年)。フェルナンドの息子、マクシミリアン2世もこの回から登場。プロテスタントに肩入 れしていて、父フェルナンドに殴られたりしている。フランスとの間では、休戦協定(クレピー条約)が結ばれる(1544 年)。マリア・マヌエラは出産後出血多量で死去(1545年8月12日)。最後はシュマルカルデン戦争に突入して終わり(相 変わらず戦争場面はない)。ラス・カサス神父の『インディアスの破壊に関する簡潔な報告』が提出される。

第十五話"La sucesión"(継承)
 1546-1551年頃。シュマルカルデン戦争の前半。今回このドラマで初めて少しだけ戦闘場面が登場する。1547年フ ランソワ1世が死去し、以降フランスの要人はアンリ二世とモンモランシー伯となる。フランドルで家族会議がもたれ、カルロス は今後の統治方針を決定する。曰く、フェルナンドはローマ王のままでいてもらい、フェルナンドの死後、フェリペを皇帝とし、 マクシミリアンはフェリペの後を継ぐというもの。マクシミリアンはフェリペと同年齢であるため、この取り決めに抗議するが、 フェルナンドは受け入れる。しかし、フェルナンドも、今日を境にあなたはあなたの道をいけ、私は私の道をゆく、といって去 る。

第十六話"Deseo de ser nadie"(ただの人になりたい)
 1552年頃-1556年。シュマルカルデン戦争後半。この回はそこそこ本格的な戦闘場面が出てくる。カール自らの戦闘場 面や砲撃場面もある。砲撃音で一瞬カールの耳が聞こえなくなる場面の演出がよかった。フェリペ二世はカールの叔母カテリーナ の娘メアリー・チューダーと結婚(1554年7月25日)。母フアナ死去(1555年4月12日)。カルロス、フランドルに 一族を集め、退位宣言(1555年10月25日)。ラスト、カルロスは退位し、ユスタ修道院に隠棲する。

第十七話"Padre"(父)
 1556-58年。カルロスの引退生活とフェリペの政務が交互に描かれる。


 【2】登場人物紹介 の補足

 上左端は、、、誰だっけ。忘れてしまいました。思い出 したら書きます。その右はフランソワ一世の母、フランス王太后ル イーザ・ド・サヴォワ。子供に干渉しすぎというか、フランソワ一世マザコンなんじゃないかと思えてしま うくらい冷静に考えると若干異常な親子関係(フランソワが愛人とセックスしてる最中でも遠慮なく部屋に入って来ると いう。。。)。その右はブ ルボン公シャルル3世。フランソワ一世が、人妻であるフ ランソワーズ・ド・フォワを愛人にしたことから、ミラノ総督を解任され、フランソワーズの姉のロー トレック公がミラノ総督に就任することとなり、フランソワ1世に恨みを抱くことになる。右端はカルロス の叔母、ネーデルラント総督マ ルガレータ。物凄い貫禄の伯母さん(レオノーラ、カルロス、イサベル、マリア兄妹を養育した。ルイーザ とは幼馴染だったらしい)。本作 は、各国の動向が平行して描かれていて、頻繁に場面が変わるため、俳優が殆ど演技力を発揮できないうちに場面が変 わってしまうという欠点がある中、凄い存在感を発揮してました。

 

 上左下は、ルターを保護したザ クセン公フリードリッヒ。この人は1525年に死去していますが、本作では、甥のヨ ハン・フリードリヒと合体させたキャラとなっていて、シュマルカルデン戦争でも登場してました。見事なはまり役 でした。その右は、カルロスの皇帝選挙で暗躍したフッガー家のヤコブ・フッ ガー。その右は、フランドル時代からのカロルスの側近で初期のカルロス政権を支えた閣僚、シェー ヴル侯(ギヨーム・ド・クロア)。右端はカルロス治世の前半を支えた宰相メ ルクリーノ・ガッティナーラ

 下の左上はヘンリー8世王妃でイサベラ一世の娘・カルロスの母フアナの妹カ タリーナ(娘がイングランド女王メアリー)。その右はカルロス治世前半を支えたスペイン貴族の第二代ア ルバ公。その右は、スペイン貴族Marquesado de Deniaだが、俳優の年齢と史実の年齢が離れすぎているので、架空の人物かも知れない。あまと登場しな かった。右端は、第三代ア ルバ公(フェルナンド・アルバレス・デ・トレド。二代目の息子)。フェリペ親父とともにカルロスの治世だけでは なく、フェリペの治世も支えた重臣かつ将軍。カルロスに次いで出番が多かったのは彼かも知れない。



 上左下画像は、フェリペ二世の最初の愛人イ サベル・デ・オソリソ。5歳年上。カルロスの最初の愛人ジェ ルメーヌ・ド・フォワが12歳年上なので、年上好きは血筋なのかも。その右はカルロスの妹でハ ンガリー王ラヨシュ妃マリア。夫の戦死後独身で通し、叔母マルグレーテの後ネーデルラント総督を勤め る。兄妹の中では一番安定した性格。下中央はラ ス・カサス神父。カール・マルクスを想定した役作りとしか思えない。その右は、フランス王の右腕モ ンモランシー公。この人も、フランソワ・アンリ二代に仕え、第三代アルバ公に次いで登場回数が多かった 人物。右下は第二代イエズス会総長フ ランシスコ・ボルハ。カルロス王妃でポルトガル王女イサベルがカスティーリャ領土に入った時からイサベ ルに使え、中世騎士的愛情をイサベラに抱き続けた人物。あと強烈な印象を残したのは、カルロス即位当初の反乱(コムネロスの乱) 貴族のリーダー、フ ア ン・パディーリャの妻マ リア・パチェーコ。怪演でした。



 他に頻繁に登場する重要人物として、ヘンリー8世の重臣ト マス・ウルジー、カルロスの母女 王フアナ、カルロスの妻イ サベラ、フェリペ二世(青年役)、アンリ二世、コルテス、コルテスの妻カタリーナ・ピサロ(コルテスに 絞め殺されてびっくり)、コルテスの現地妻マ リンチェやカルロスの妹でポルトガル王ジョアン三世に嫁いだカ タリーナ、一時期登場する重要人物として、シ スネロス大司教、ローマ法王ハ ドリアヌス六世(教皇になる前は、長らくカルロスの教育係りだった)、マルティン・ルター、ポルトガル 王ジョ アン三世、フランソワ1世の最初の王 妃クラウディア、フェリペ二世妃でイングランド女王メアリーなどがいますが、彼らは公式サイトの登場人 物紹介ですぐそれとわかるので、画面ショットは省略します。


 【3】画面 ショットなど


 本作の映像の特徴は、新大陸と第一話の上陸場面や第十六話の戦闘場面を除けば、殆ど野外の場面がなく、殆どが王宮 内での会話に終始している点です。また、スペイン、フランス、イングランド、フランドル、ポルトガル、ローマ法王 庁、新大陸の、合計7つの舞台が短時間で切り替わりながら並行して描かれるため、役者が十分に演技を発揮できない演 出となっています。このため、見所は衣装と内装と俳優の役作り、ということになります。CGも、動画CGはなく、静 止画CGだけなので、予算の殆どは衣装と内装に使われたのではないかと推測されます。このため、衣装と内装は大変見 応えがあります。

1.衣装と内装

 しかしながら、豪華な衣装も、本当に当時の衣装を再現に留まっているのかは少々疑問です。例えば以下の画像。カル ロスの姉レオノーラの帽子がステキですが、なんか現代のデザイナーが自由にデザインしたもののように見えます。





 これは、レオノーラが嫁いだポルトガル王マヌエルの死後、マヌエルの息子ジョア ン3世との間に作ってしまった非嫡出子(史実はマヌエル死去後2ヶ月後に誕生したマ ヌエルの娘マリア)。この帽子もステキ。これは当時ありえたようにも見 えますが、耳あての部分が昆虫の眼とか仮面ライダーとかウルトラセブンに登場するピット星人とかを連想してしまうも のがあります。



 これは幼年時代のフェリペ二世。この画面ショットでは少し色合いが出ていません が、エメラルドグリーンがステキ。1分足らずしか登場しないのに凝ってます。



 まあ、しかしそれでも上の衣装は実際にありえたかも知れません。しかし、以下の カルロスの衣装はどうでしょうか。これ、昔もってたウンガロのバッグのデザインに似ていて気に入っているのですが、 こんなのが本当に当時あったのでしょうか。



 こちらは当時ありえたのかも知れませんが、非常にインパクトのあった帽子です。 ネーデルラント総督マルガリータが普段被っているものなのですが、インパクトが大きすぎて何枚も撮ってしまいまし た。





 このように、一部ファンタジックな衣装もないではありませんが、全体的には、以 下のようなルネッサンス絵画のような映像が全編に渡って展開しています(以下の左がフェルナンド、中央がカルロス、 右がガッティナーラ)。



 これはヴァリャドリッドの王宮の様子。中央奥にカルロスが座り、両側に家臣群が 座る。



 本作はこのように、内装と衣装は(全てが考証的に正しいかどうかはともかく)見 応えがあるため、巨大な画面で細部を見たい方には、DVD版がお奨めかも知れません(現在発売されているDVD版BlueRay版に も英語字幕はありません)。他にも、事実かどうかは私には判断できませんが、例えば以下のような、カルロスのもとに 越しいれするポルトガル王女イサベラが馬から下りる時(右→左画像の順番)、木製の階段を馬の脇に置き、そこに降り る時に、マントが馬体に引っかかる描写など、当時の習俗の参考になるかも知れない映像も結構登場します。



2.アステカ王国の映像

 アステカ王国を扱った映画は何本かあるようですが、コルテスの征服を扱った作品は、BBCの再現ドラマ(こ ちらに日本語版DVDが出ています)でしか見たことがないので、どういう映像となるのか興味があり、第 一話があまり面白くなかったこともあり、最初の方はどちらかというと、コルテスの征服を見たくて視聴し続けた部分が あります。まあ結局のところBBCの再現ドラマ程度の映像しか登場しなかったのですが、下の上が、テスココ湖に掛か る石橋の先に見えるアステカ王国のテノチティトラン市。

 

 こちらがアステカ王国の王宮。



 アステカ王国の映像はこの程度です。市街の様子は、現在に残るテオティワカン (2-6世紀の遺跡なので時代錯誤)の月の神殿や太陽の神殿を利用した遠望画像が一瞬登場する程度で、王宮の概観や 市街の様子は出 てきません。

3.その他レアな映像

3−1.リスボンの映像

 前近代のポルトガルの歴史映画を見たことがなく、中近世のリスボンの再現映像に興味があります。以前、ヴァスコ・ ダ・ガマを扱ったインド映画『秘剣ウルミ』や、16世紀の劇作家ロペ・デ・ヴェガを扱った映画『Lope』に一瞬遠望が登場したくらいだったので、今回期待してい たのですが、以下のような遠望(とそれと同等の映像)がいくつか一瞬登場しただけでした。残念です。


 
3−2.オスマン帝国

 第七話の最後の付近でオスマン朝が1分くらい登場しました。スレイマン大帝です。

  

 残念だったのは、1520年に即位したばかりのスレイマンが、「大帝(マグニフィコ)」と呼ばれていたことで した。マグニフィコと呼ばれるようになったのは、もっと後だと思うのですが。。。。

3−3.サッコ・ディ・ローマ(ローマ略奪)事件の映像

 カルロスに汚名が着せられている、ローマ破壊事件がどのように描かれるのか興味がありましたが、ほぼスルーで した。以下はローマの遠望なのですが、



 下のような炎上するローマ市街の映像が一瞬登場しただけでした。まあ、野外場面 が殆どないドラマなのだから仕方がないのかも知れませんが。。。



3−4.その他画像

 どこだったか忘れてしまいましたが、第三話で登場した町の映像です。こういう中世の町の再現映像とか、王宮の概観 の再現映像を沢山見たかったのですが、殆ど出てこなかったのが残念です。下の映像は大変珍しい映像です。特に都の筈 のヴァリャドリッド王宮の映像は全然なし。一方、史跡がそのまま残っているからか、アルハンブラ宮殿は、概観がよく 登場していました。



 これは神聖ローマ皇帝選挙の場面。実際どういう風に選挙していたのか、かねがね 疑問に思っていたのですが、このドラマでは7選定侯全員が集まって投票している場面がでてきました。本当にこんな感 じだったのでしょうか。私は、代理人とかを立てて選挙していたのだと思い込んでいたので、少し意外でした。しかし、 凄まじいまでの金権選挙で無駄に票の値段が上昇したわりに、最後は百名程の傭兵を雇って選挙場所を包囲して脅すと、 選定侯達があっさり屈してしまうところは違和感がありました。それなら最初から傭兵使って脅せば安く済んだのに。と 思えてしまう場面でした。



 この時のボヘミア王ラヨシュ2世は14歳だった筈なので、彼本人が出席していた かどうか見たかったのですが、映像には出てこなかったのが残念です。

 結構心に残った映像がこれ。イングランド女王メアリーが、本国に帰国するフェリ ペ二世の馬車を見送りながら、走り出し追いかける場面。多くの英国映画では、英国国教会側の視点で描いているので、 メア リーの描かれぶりは酷いのですが、本作では、プロテスタントの国であり、スペイン王家の血統であることから半ば外国人扱いされ、味方の少ない環境に一人残 される心細さが良く出ていました。カトリック国の作るドラマだから、メアリー に同情的な演出になるのは当然なのですが、とにかくこのドラマのメアリーは可哀想でした。



 
【4】感想など

 1.全体的な印象

 ひとことで言えばロイヤル・ファミリーものです。全体的には、殆どが室内劇でほぼ登場人物の会話だけで構成されて います。このため見所は役作りと衣装、内装だということは既に記載したとおりです。7つの舞台が並行 して描かれるため、場面転換が頻繁で、歴史の流れを追うだけの演出となっている感じもします。俳優陣も、場面転換が頻繁すぎて、演技や、描く人物像に深み が出せなかった印象を受けます。
 民衆は、カルロスと結 婚したイサベラがセヴィリア市に入城するとき、市民に歓迎される場面で登場するぐらい、一般兵士も、第十六話の戦争 場面で登場するくらいで、あまりに王家、王宮の使用人と高官ばかりしか登場しないので、途中で、「実は、これは遠い 未来の、人類が滅亡に瀕している時代を中世的に描いたSFなのではないか」(アレクセイ・ゲルマンの『神々のたそが れ』みたいな)などと思ってしまったくらいです。遠い未来、人類は殆ど滅亡し、ヨーロッパの人口は数万人程度に減っ てしまい、「本作の登場人物くらいだけしか人類は存在していない社会を描いているのではないか」と思ってしまうくら い、王家周辺と高官以外の人物は殆ど登場しません。王家周辺と高官しか登場しない、という映像が不自然に思えず、気 にならない人は、面白く見れるかも知れません。

 あまり悪辣な陰謀家とかが登場していない点ももの足りませんでした。第一話冒頭のレオノーラは、結構傲慢そうな感 じで、陰険な陰謀家になって物語を引っ掻き回しそうな予感があり楽しみにしていましたが、全然そうはなりませんでし た。NHKの大河ドラマ『武田信玄』に登場した小川真由美演じた八重みたいなのが登場すると面白いのですが、そうい う娯楽性は目指すところではなかったようです。生真面目なドラマという感じです。あと、残酷な場面はなく、アダルト な場面もほぼありません。

 このドラマを飛ばさず全編視聴したのは、カルロスという人物のアイデンティティのあり方に関する描きぶりを見た かったこと と、私には、カルロスの活動範囲が広すぎるため、新大陸征服、宗教改革と宗教内戦、オスマン戦争、イタリア征服、外 国人であるハプスブルク家のスペイン統治のあり方、などなど同時代の筈の多様な事項がどうにも同時代的な出来事とし て統一的整合的に理 解できない面があり、これらを統合的に理解する参考になるかも知れないと思って視聴したので、この点では参考になり ました。


2.このドラマ独自と思われる部分(または、史実性が確認できなかった部分)

2−1.女王フアナは狂ったことになっていない

 フアナが一時的に錯乱したのは、ずっと一緒に暮らしていた娘のカテリーナを取り上げられた時期だけで、カタリーナ が戻ってきてから以降、死去するまで正常な人物として描かれていた。

2−2.レオノーラがジョアン3世の子供を生んでいた点と虜囚中のフランソワと結婚式を挙げていた点

 カルロスの考えた政略結婚で、姉レオノーラは、年の離れた老年のポルトガル王マヌエル1世に嫁がされるが、マルエ ル死後、先妻の息 子ジョアンとできてしまい、女児を出産したことになっている。その後またしてもカルロスの政略結婚のためにスペイン に戻されたレオノーラは捕虜になってスペインの王宮に軟禁中のフランソワと恋に落ちて、スペインの王宮(ヴァリャド リッドだと思われる)でフランソワ1世と結婚式を挙げている点(以下がその場面。左がフランソワ1世、中央がレオ ノーラ、ひとり置いて右端がカルロス)(※追記 その後、江村洋著『カール五世−中 世ヨーロッパ最後の栄光』(1992年、東京書籍)の当該部分を参照し、虜囚中のフランソワとレオノー ラの結婚が史実であることをと確認しました)。

 

2−3.イベリア半島北岸にトルコの海賊が出没している点

 第一話冒頭でカルロス一行がアストゥリアス地方の海岸に上陸した時、地元の住民にトルコ人海賊と間違わられ、村人 達に石を投げつけられる。ムーア人(イスラム教徒)ならわかるのですが、「トルコ人」がイベリア半島北岸まで海賊に 出ていたのでしょうか?

3−3.通訳なしの会話

  ドラマなのだから当然なのですが、各国登場人物全員通訳なしで会話していました。ラテン語だという可能性もあり そうですが、外交文書ならともかく、各国王家の人々は、口語でここまで流暢にラテン語を操れたのでしょうか?(ラテ ン語ではなく、フランス語だったのかも知れません。この頃のイングランド王宮でも、まだフランス語が公用語だったの かも知れません)

3.本作で知った雑知識

3−1.トルコという発音
 「トルコ」という発音は日本語独自の発音だと思っていましたが、カスティーリャ語では、「トルコ」という発音だっ たこと。

3−2.カスティーリャ語でフランドルのことを「フラメンコ」と発音する
 舞踊のフラメンコとは関係がないらしいのですが、驚きでした。他にも発音の点で間際らしいところが多々あり、例え ば英語のメアリー、フランス語のマリー、スペイン語のマリアはどれもマリアなので、会話に登場する人物が、いちいち  「どのマリア?どのイサベラ?(エリザベス1世もイサベラ、カルロス王妃もイサベラ、カルロス祖母もイサベラ、妹 もイサベラ)」などと考えなくてはならなかったのが少し面倒でした。

3−3.ブルゴーニュ公としてフランス王の家臣でありながら、スペイン王、神聖ローマ皇帝になった点

 第一話で、フランソワ1世が、「フランスの家臣にしてスペイン王とは!」と何度も口にしていたのですが、フランス家臣ブル ゴーニュ公の身分のまま、スペイン王(正確にはアラゴンとカスティーリャの王)に即位していたとは知りませんでした。

3−4.アラゴン王フェルナンド、カスティーリャ王カルロス という選択肢もありえたのかも

 この番組では、イサベル1世在世中にカルロス のスペイン王位継承が決定していたものの、イサベルの夫フェルナンド2世が孫でカルロスの弟フェルナンドをスペインで育てて帝王教育したのにも関わらず、 死去の前に、カルロス継承の通りにせよ としたことで、すっかりスペイン王位を継承するつもりでいたフェルナンドとカルロスの間で一時は内戦になりそうな雰囲気があったこと。史実かどうかは不明 ですが、その後のカルロス統治時代に、王も側近もフランドル出身の外国人に統治されることになったことや、カスティーリャと アラゴンがまだ別の国という意識が普通だったことを鑑みれば、アラゴン王フェルナンド、カスティーリャ王カルロスというよう な結果にもなりかねなかったのではないか、とも思わせられる点に興味深いものがありました。

3−5.コルテスが大学中退のインテリだった点

 コンキスタドールというと、征服欲に燃えた無学で粗野なあらくれ男、というイメージがあったのですが、本作に登場するコル テスはだいぶイメージが違うので調べてみたところ、サラマンカ大学に2年程在籍し、法律を学んでいたこと、卒業後公証人など をして蓄えた法律知識と経験が、アステカ王国への違法侵略を正当化する知見となった、ということを知りました。

3−6.カルロスと姉妹隠棲の地が5kmしか離れていない点

 本ドラマで知った史実で一番印象に残ったのは、カルロスと姉のレオノーラ、妹のマリアが隠棲した場所が、たったの5kmし か離れていない、ということを知ったことです。三人は、カルロスの退位後一緒に同じ船でフランドルを発ちスペイン入りしてい ます。レオノーラとマリアは、マドリードの西約120kmにあるハ ランディージャ・デ・ラ・ベラ村の修道院に隠棲し、カルロスは、ハランディージャ・デ・ラ・ベラの南西5kmに あるユ ステ修道院に隠棲します。



 スペイン育ちの弟フェルナンドと妹カテリーナがそれぞれ外国(フェルナンドはオーストリア、カテリーナはポルトガル)で人 生を終え、フランドル育ちのレオノーラとカルロス、マリアがスペインで 人生を終える、ということの意味を考えてしまいました。
 フェルナンドとカテリーナとカルロスは、王位を継承する子供のいる国に住み続けた、ということなのだと思いますが、それぞ れフランス王妃、ハンガリー王妃であったレオノーラとマリアには子供が無いこともあり、一緒に育ったカルロスの近くに身を寄 せた、ということなのかも知れません(もう一人の妹イサベラ(デンマーク王妃)は登場しなかった)。もっとも、このドラマで は、レオノーラは、 カルロスの考えた政略結婚に振り回されたことから、カルロスには愛憎入り混じった感情を持っていて、スペインに戻ったのはポ ルトガルにいる娘マリアに会いたかったから、と解釈することもできる展開です。妹マリアに至っては、フランドルで育った後ハ ンガリー王ラヨシュに嫁ぎ、ラヨシュの死後25年間ネーデルラント総督を勤めていたことから引退するまでスペインに一度も 入ったことがなく、ポルトガル王妃である末妹カテリーナとは、1556年の引退後に初めて会う、というぐらいスペインに縁の 無かった人なので、こういう人がなぜレオノーラやカルロスの近くで隠棲することにしたのか、と考えると、やはり幼年時代を一 緒に過ごした家族だったから、ということなのかも知れません。本作は、映画『ゴッドファーザー』のように、家族をテーマとし て前面に出した作品ではありませんが、ドラマの演出というよりも、史実自体に、カルロス兄弟姉妹にとっての家族というものを 考えさせられるものがありました。

 この三人は、死去日が近いことにも因縁を感じます(実は疫病の流行とか、飢饉などが理由で、近所に住んでいた三人がほぼ同 時期に死去したということなのかも知れませんが)。

レオノーラ  1558年2月25日
カール五世  1558年9月21日
マリア     1558年10月17日

IMDb の映画紹介はこちら
公 式サイトはこちら

中世近世欧州歴史映画一覧へ戻る