イラン歴史ドラマ「天への梯子」(3)15-21話(ティムール朝時代)


   2008年イラン製作。ティムール朝時代の学者ジャムシード・カーシャーニーの生涯を描 く。前回の続き

  本作の見所のひとつは、イラン人女性のアクション・シーンです。アクション作品ではないので、二回しか出て来ず、日本のチャンバ ラでも中国武侠でもなく、 普通の剣戟ですが、イラン女性のアクションということで見応えありました。イラン映画というと、国外では芸術作品・社会派作品・ 政治色の強い作品ばかりが 知られていますが、普通の庶民的娯楽作品も作られています。久しぶりに現代もののイラン娯楽作品を見てみたくなりました。

 今回は最終回迄。「天への梯子」とは天文台や、天(世界)の原理を明らかにする天文学や数学等科学系学問のことを示していま す。


第十五話

 ジャムシードの妻ヴィースは大分回復してきた。息子マスウードと一緒に夕食を作りジャムシードの帰宅を待つ笑顔の二人。暖炉の 開口部の形が特徴的。が、そこに悲劇が襲う。

 ダルヴィーシュ(托鉢僧)教団によって、ジャムシードの家に数匹のコブラが投げ込まれる。ヴィースは子供を守る為必死で踏み潰 すが、退治した直後卒倒してしまう。その夜ヴィースは死去する。

  葬儀。泣き崩れるジャムシードと兄モイー、息子マスウード。密かに葬列を見るアイ・バヌー。郊外の墓地で墓穴を掘っているとこ ろ、数名の町衆が妨害する。 ジャムシードに反感を持っている町人らしい。葬儀にやってきたスルタンの命令で兵隊を使って埋葬を防いでいた人々を追い払う。こ れで埋葬は行われたが、同 行していた宰相からこの一件が王妃に漏れ、宮廷に戻ったスルタンは王妃・宰相・隊長達から抗議を受ける。この時スルタンが座って いた中庭の椅子の横には香 炉が置かれていて、ちゃんと湯気も出ている。

 マドラサ(学校)で大勢の学生を前にジャムシードが講義しているところに、元盗賊団首領で今は修行者(ムハンマド・ハーフィー という名前らしい)が訪ねてくる。以下はマドラサ。


  最初ジャムシードは彼が誰だかわからずに、教室の最後尾に立つこの人物と議論するが、しばらくして気づく。二人でスルタンに会い に行く。この人物は元々は ティムール朝にとて反体制活動をしていたので、ジャムシードは過去の罪を許し、サマルカンドのマドラサで講義を許可するよううに 嘆願した模様。ウルグ・ベ クは戸惑い気味、宰相と隊長は不満顔。宰相は王妃に注進に上がる。


第十六話

 市場の水飲み場で殺団の首領ウスマンにジャムシード暗殺を急かされるアイ・バヌー。首領は、お前がやらなければ俺がやるという ようなことを仄めかした様子。不審気な顔つきになるアイ・バヌー。

  天文台の建設が進む。夜、首領ウスマンはじめ3名の教団員が、建設現場のジャムシードの掘っ立て小屋に忍び込むみ、寝台を刺す が、寝ていたのは毛布だっ た。アイ・バヌーが知らせたようだ。翌朝、アイ・バヌーとジャムシードは河原に立っている。過去を水に流すことになったようだ。

 その後 天文台建設地で地鎮祭(のような儀式)が行われ ジャムシードはスルタンに本を贈呈する。建設地に鍬を入れるスルタン(今までの 工事は何だったのだろ う)。一気に工事が進みだす。いつの間にやらアイ・バヌーが側で手伝っている。しばらく工事現場のカットが続いて天文台が完成す るのだった。

 この天文台は土台部分の遺跡が残っているので、復元CGもある程度は根拠があっての形なのだろう。この頃のジャムシードとモ イーは、白髪・白髭となっている。
 左は天文台の観測装置。この部分の遺跡が残っているらしい。右は天文台の屋上。

 これは17話の映像だが、天文台の屋上の構造がわかる映像。上左の弧の形を描く観測装置の階段は、そのまま屋上まで達してい る。下左の屋上に突き出ている部分は、観測装置の屋根の部分にあたる(煙突のような構造となっている)。

 左下は、観測装置の階段を上から見下ろしたところ。弧を描く階段の上を、観測装置を移動させることで、90度の角度で、観測角 度を調節できる仕組み。

 天文台の外周部分は、左下のように、吹き抜けの空間となっていて、作業員の執務空間となっている。また、観測装置の中央部分 (階段の底にあたる部分)の二階には渡り廊下がある。

  托鉢教団の秘密会合。引き続きジャムシードの暗殺を計画している。翌日教団員は町で民衆を扇動し、煽動された民衆と学生達(?) との間で騒乱となる。煽動 された民衆と教団員は、夜になって天文台にデモに押し寄せる。この件は宰相から直ちにスルタンに報告され、スルタンを悩ますの だった。モイとジャムシード は押し寄せた民衆と交渉するが議論は平行線。スルタンの兵が介入して漸く治まるのだった。


 ところが、スルタンの苦悩をよそに更なる設計図をスルタンに提出するジャムシードは、民衆の騒乱などまったく意に介していない ようである。



第十七話 

 何年か経った。天文台にイタリア使節が訪ねてきている。そしてなんと、アイ・バヌーが通訳しているのだった。息子マスウードも 青年となっていて同席している。左がイタリア人使節ジョルダーノ。右がその家族(妻、息子、娘)。

  ジョルダーノ一家は天文台を案内される。手振りで説明するジャムシード。続いてサマルカンドの市場を案内されるジョルダーノ一 家。が、市場で密かにダル ヴィーシュ(托鉢僧)教団指導者ウスマンが一行を見ているのにアイ・バヌーは気づく(ウルグ・ベクの治世で反乱を起こしたらしい 教団があるらしく、この教 団のことなのかも知れない)。

 続いて宮廷で挨拶するジョルダーノ一家。ウルグ・ベクの馬鹿息子アブドゥッラティーフが娘ビエナに目をつける。馬鹿息子に見詰 められて目を伏せるビエナ。ジョルダーノは本と砂時計をウルグ・ベクに進呈する。

 はるばるやってきた遠い国の使節に王妃も機嫌がいい。宰相と隊長はいつもの不機嫌そうな顔。

 話は変わって、宮殿の中庭で、隊長(漸く名前判明。アッバース)と馬鹿息子が剣の試合をしている。

 王妃が観戦している。隊長の強さは圧倒的で、王子はコテンパンにやられて、最後は倒れて胸の上を踏みつけられるが、王妃は特に 不満そうではない。流石に馬鹿息子を客観視できないわけではなさそう。

 その頃ウルグ・ベクは、ジョルダーノとともに天文台を訪れ、天文台に関するコメントを聞くのだった。通訳のアイ・バヌーが正直 過ぎなのだが、ジョルダーノは厳しいことも言ったようで、ウルグ・ベクの顔が蒼ざめる。

  宰相となにやら相談している王妃。宰相が民衆からなにやら意見を聞いている。宰相の背後の幕の反対側には王妃がいて、民衆と意見 をやり取りしているが、内 容はジャムシードに関する話。なんだろう。反ジャムシード民衆運動の煽動だろうか。続く場面では、市場で反ジャムシードのアジ演 説をする人々が出てくるの で、前の場面で王妃と幕越しに会話していた民衆達だと思われる。しかしその演説にケチをつける人も出てきて喧嘩になるが、、ウラ マー(法学者)のような人 が出てきて仲裁し、今度はそのウラマーが演説を始める(右下が広場で演説を聞き入る民衆。左は宮廷の廊下)。

 天文台にもデモの民衆が押しかけている。そこに下右のような赤い服装の一団がやってくる(下左は、天文台の屋上からデモの民衆 を見下ろすジャムシードとアイ・バヌー)。

  天文台に乗り込んできた彼らは、何やらジャムシードと議論するが、ジャムシードが取り合わないので憤然として去る。。。。。一体 彼らは何者だったのだろう か(会話にはイーラーン、ジャハーン(世界)、ザミーン(国)などの言葉が登場していたので、イランの団体だと推測される)。

 その後のある日。天文台の屋上にはウルグと宰相、ジュルダーノ一家がいて、遠く、天文台に向かってくるデモの民衆を眺めてい る。この日は日食の日で、ウルグ・ベクたちは観測に来たらしい。観測器を覗くウルグ・ベク。

 天文台の外では、赤服の一団が、火の回りを踊り、祈っている。ゾロアスター教徒かしら?となると、先に天文台を訪れた場面は、 異端的思想を持つジャムシードを勧誘に来たということなのかも知れない。

 サマルカンドの広場で空を見上げていた人々は、太陽が月の影に入った瞬間、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑うのだった。


第十八話
 
 太陽が月の影に入る頃、ウルグ・ベク一行は天文台の屋上に出て、並べてあるタライの水に映る日食を見る。こういうやり方があっ たのか。左は赤服の団体。

  日食後、宮廷では宴会となるが、ジャムシードは妻の墓に赴く。宴会では火の輪くぐりや、火の玉お手玉、火吹き芸などが催される。 遅れてジャムシードも入っ てくる。ウルグ・ベクがジャムシードになにやら声をかけ皆拍手。珍しく謙遜している風なジャムシード。いつもは尊大な感じが多い ので、そういう態度が、異 端的思想以上に宮廷の人々や市井の人々の反感を買っているのではなかろうか。普段からこの時のような態度であれば、もっと違った 結末を迎えただろうに。

 宴では、イタリア人ジョルダーノ一家が自国の演劇形式(コメディア)で内容はモンゴル族を題材とした劇を披露する(衣装もモン ゴル風)。アイ・バヌーが通訳。

 またしても娘ビエナ(上左から二番目)を見つめる馬鹿息子。よく見ようと席まで代わる。ジャムシードの息子マフムードもビエナ に惹かれているようで、あからさまなアブドゥッラティーフの態度に腹立ち宴席を外してしまう。

 日食計算の褒美のガウンをもらうジャムシード。これに対してジャムシードは天体観測器をウルグ・ベクに献呈する。これは以前設 計図をウルグに見せていたものだ(十六話)。ウルグ・ベクは好奇心旺盛で駆け寄るが、宰相と王妃は不満そうで王妃は席を立って出 て行ってしまう。

  民衆の不満分子の会議に托鉢教団の首領ウスマンがやってきて金を渡す。

  アイ・バヌーにイタリア語を習うウルグ・ベク。アイ・バヌーを見るウルグの目が若干気になっていたが、どうやら学習欲だけではな さそうだ。図書館で語学授 業中に王妃が入ってくるがこれは牽制だと思われる。更に、お礼と称してウルグ・ベクは自分が首にかけていた首飾りをアイ・バヌー に贈るのだった。

  市場ではまたもジャムシード糾弾のアジ演説が行われる。それを聞くアイ・バヌー。帰途、アイ・バヌーは教団首領ウスマンに襲撃さ れ拉致される。町中のジャ ムシード糾弾の声が宮廷まで響く。宰相に意見を聞くウルグ・ベク。宰相はウルグ・ベクの父、ティムール朝君主シャールフ・シャー の名前を出していたので、 「この騒乱を制御できなければ、父君に知られるところをなりますぞ」とか口にしてウルグ・ベクを脅しているのかも知れない。

 一方拉致されたアイ・バヌーは、教団指導者(ウスマンではなく、もう一人の立派な白髭の老人の方。第十二話最後の画面ショット の左側の人物。相当老齢になったようで、盲目のようである)から、ジャムシードを殺すよう、短剣を与えられる。


第十九話

 盗賊首領から短剣を与えられて解放されるアイ・バヌー。しかし、途中で短剣を捨てて戻る。

  アイ・バヌーとジョルダーノの娘ビエナが宮廷に赴き、アイ・バヌーはウルグ・ベクにイタリア語を教える。ビエナは宮殿内を見て 回っているうちに馬鹿息子ア ブドゥッラティーフに付きまとわれ、襲われてしまう。宮殿からの帰り道、泣きながら歩くビエナ。心配するアイ・バヌーの前に首領 がジャムシード暗殺を催促 に現れ、言い争う合間にアイ・バヌーがウルグ・ベクから貰った首飾りを掏り取るのだった。その夜ビエナは遺書を残して自殺してし まう。激怒したジャムシー ドの息子マフムードは剣を持って出て行くが父が止めるのだった。

 ビエナの葬列。続いてマフムードが、ビエナ死去のショックで病に陥る。 ジョルダーノ一家は帰国の道につく。事情を知ったウルグ・ベクは息子を殴りつける。思わず短剣を引き抜こうとした息子の前に母親 が立ちはだかる。反ジャム シード派ということであまり良い印象は無いが、結構まともな人である。一方、マフムードは、ビエナを想い描きながら死去してしま うのだった。

  ウルグ・ベクからジャムシードへ、友人を通じて書簡が出される。ジャムシードに出頭することを命じる内容なのではないかと思われ る。ジャムシードは天文台 の設備、自分の仕事場などを感慨深げに眺め、天文台の従業員達は泣いて悲しがる。その後アイ・バヌーに見送られながら連行されて ゆく。



第二十話

 サマルカンド市内に戻り宮殿まで連行される間に、ジャムシードは民衆にもみくちゃにされる。
 
  宮廷で裁判が開かれる(異端裁判だと思われる)。二階から様子を冷やかに見下ろす王妃。この回の中盤、長々と糾弾とジャムシード 自身の弁護がかみ合わずに 続くが、子供の頃からの友人で今は聖者である元盗賊団首領が入ってきてジャムシードの論点を別な角度から整理することで、ジャム シードを無罪とすることが できた模様。ウルグ・ベクの顔もほころぶ。糾弾者は反論を続けたがるが、ウルグ・ベクが制し、ジャムシードは無罪となる。宰相タ ルハンは宮廷を走り出て托 鉢教団首領ウスマンが控えている部屋へ向かう(下は中盤で登場した宮殿の概観。ブハラの近世内城がロケで使われている。このドラマはウズベキスタンでロケをして いることがわかる)。



第二十一話

 托鉢教団首領ウスマンがアイ・バヌーから掏り取った首飾り(第十九話)をウルグ・ベクに見せる。次々とジャムシードを追い込む 作戦を繰り出してくるウスマン。

 城門の外まで元盗賊教団首領を見送るジャムシードとアイ・バヌー。

 アイ・バヌーへの嫉妬に駆られたウルグ・ベクは、ジャムシードを宮廷に呼び出し、異端的研究の打ち切りを命じたようである。二 階から見下ろす王妃は勝ち誇ったようにほくそ笑んでいる。

 図書館で学習中煮詰まって王妃にヒステリーを起こすウルグ・ベク。続いて宮廷で剣闘士の戦いを見るウルグ。勝ったのは馬鹿息子 だ。強くなった。
 
 ジャムシードは研究を続け、隊長アッバースは密かに研究を続けるジャムシードを監視していた。

  天文台。兄モヒーが地元民に呼び出される。モヒーが天文台を出たところで、宰相タルハン・隊長アッバース・ダルヴィーシュ教団首 領ウスマンと兵士達が天文 台に入ってくる。理由をつけてジャムシードの逮捕、あわよくば処刑を目論んで来たのは明白である。机の上の書類を見て、禁じられ た研究をジャムシードが続 けていることにほくそ笑む宰相。

 アイ・バムーは、泣きつくふりをしてウスマンの剣を奪い、ウスマン首を切り殺害する。ジャムシードはひ とり兵士の腕を切り落とす。アッバースは本気になり、ジャムシードとアイ・バヌーはアッバース+4人の兵士を相手に戦う。更に一 人倒したところで天文台の 奥に逃げ込むアイ・バヌーとジャムシード。隊長(下右)と戦うアイ・バヌー(下左)。

  アイ・バヌーも一人倒すが、隊長アッバースにしとめられる。ジャムシードは3人の兵士を相手に戦い続けるが、アイ・バヌーが二階 渡り廊下から転落するのを 見て、アイ・バヌーの遺体に駆け寄る。悲痛な面持ちでアイ・バヌーの前に屈みこんでいるところを討ち取られるのだった。

 エンド・クレジットが流れる中、深夜の宮殿の広間で、寝巻き姿のウルグ・ベクは、一人、亡霊でも見るように、周囲を見回しなが ら、立ち続けるのだった。 



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