2011年10月7日作成

第一次ブルガリア王国歴史映画「黄金の世紀」(シメオン王) 第一から第四話


 1984年ブルガリア製作。一話約52分(最終回のみ60分)で全11話で約600分のテレビ シリーズ。第一次ブルガリア王国最盛期の王、シメオン一世 (在893-927年)を扱った歴史ドラマです。題名も、そのものズバリ、「黄金の世紀」。映画は兄、ヴラジミールの廃位の場面 (映画「ボリス一世」のラストで描かれ た事件)から始まり、917年のコンスタンティノープル(以下ポリス、または「都(みやこ)」と記す)に進軍するまでを描く。

  物語はシメオン即位後の893年から896年に偏っており、この部分だけで第八話までを占める。更に第十、十一話は917年の話 であり、第九話は896年 から916年の間の話ということになる。しかも、物語の主人公はシメオンだけとは言えず、ハンコ(恐らくはヤンコなのだと思う が、ハンコとしか聞こえない 為、本記事ではハンコとする)という牧畜・農民出身の兵士も主人公と言ってよい。第九話など、最後の数分までシメオンは登場せ ず、ずっとハンコの話が描か れていた。彼は最初は農民であったが、徴兵に会い、その後文字や正教の普及や、建築家となるなど、数奇な運命をたどった架空の人 物。彼の生き様を通して、 宮廷だけを描いていては見えてこない多様な社会階層を描く仕組みとなっている。このような仕掛けは歴史作品ではありがちなパター ンとはいえ、お陰で視聴者 は、当時のブルガリアの様々な断面を見ることができる。

 テレビの連続シリーズは、映画と比べ、冗長になり易い。本作にも若干そのように 感じられる部分もあるが、テレビシリーズとはそういうもの、と構えてみれば、意外に毎回多くの内容が描かれており、まさにブルガ リア最盛期を描ききった作 品と言える。本作で唯一不満だったのが、シメオンの配役。若いときのシメオンは、盗賊団の首領か悪代官にしか見えない。「ボリス 一世」でシメオンを演じた 役者さんに演じて欲しかった。まあ、「ボリス一世」と本作は同じ年の発表なので、両方に出演することは無理だったとは思うけど。


 修道院に引退した父親のボリス一世と会話している時のシメオンなんて、善良な司教をだまそうとしている悪人にしか見えません。

と はいえ、笑顔は悪人顔ではないので、決して悪い配役とも言い切れないのですが。。。これは写本室(図書室)から本を部屋に持ち帰 るシメオン。シメオンは毎 年のように戦争を行い(仕掛けられたのも含む)、武人というイメージがありますが、若い頃8年間コンスタンティノープルに人質と して預けられ、修道士とし てギリシア古典含めた教養を積んできた文人でもあるんですよね。この画像は、そんな本を大事にするシメオンの側面を著していて結 構好きなショットです。

 ただし、中年になって、白髪交じりになってきたシメオンは、ほぼイメージ通り。

 下記は冒頭に登場したときのボリス一世。軍装姿。

 以下、あらすじを画面ショットとともにご紹介します。今回は、893年から896年までを扱った、第一話から第八話までをご紹 介します。ご興味のある方は「More」をクリックしてください。

IMDbの映画紹介はこちら
中世ブルガリア歴史一覧はこちら

第一話 

  6401/893年夏。ボリスが軍を率いてプリスカにやってくる。ボリスが開門!叫ぶと門が開き、王城の奥に一人国王ヴラジミー ルがいる。ボリスはヴラジ ミールのペンダントを剣先で刎ねる。ヴラジミールは、タングラ(中央アジアのテングリ信仰の神の一つ)が良いと主張する。ボリス は、一つの国家に一つの宗 教だ!戻りたいというなら解任だ!としてシメオンを即位させ、ヴラジーミルは目をつぶされる(鉄火面をかぶり、目だけを突き刺す 道具でつぶされる)。

 国王となったシメオンは領内を検分する。ある農村で、村の人々が司祭を先頭にパンを持って、シメオンを歓迎する。聖ゲオルギの 日らしい。当時の農村の画像。珍しい。

 シメオンにパンを差し出した娘はデヴォロといい、近所の青年ハンコは彼女が好きなようである。ハンコ20歳。村では夜、宴会が 行われ、王の一行も滞在する。そして、デヴォロがシメオンに花を投げる。

 村の女達が川で水浴びをしている。シメオンは、デヴォロがなんとなく気になり、途中で宴会を抜け出して散歩していると、デヴォ ロが川からあがってくる。マントをかけてあげるシメオン。抱き上げてキス。翌朝キャンプに戻ってくるシメオン。

  一方、シメオンは首都プリスカに戻り貴族の娘と結婚式を挙げる。つまり村娘とは一夜で終わったということである。兵士になったハ ンコと村の人が村道で出会 う。デヴォロの妊娠を知って悲しむハンコ。どうやらシメオンの子ができてしまったようである。デヴォロは川に身を投げようとする が、ハンコが止める。やが て子供が生まれ、デヴォロは子にミハイルと名付ける。ボリスの洗礼名と同じだ、というデヴォロの父。
 
 漆喰をこねる建築現場。新都プレスラフの教会堂の図面を建築士と検討・提案するシメオン。番組後半程まだ書籍が充実していない が、当時のプリスカの文化度の一面がわかる映像。


 コンスタンティノ−プルでは、ローマのバシレオス・レオン6世(在886-912年)が食事中(「バシレフサ(バシレウス=皇 帝)」と発音されていた)。

 有能だった筈のレオン6世だが、あまり有能そうに見えない。無能にも見えないけど。レオンの宮廷にしてはいまいち狭くて豪華不 足だけど、最盛期ビザンツの宮廷が見れて感激。

 どこかの山の麓の城塞の攻城戦が行われており、シメオン問題が議論されている。


第二話

ボリスとシメオンが会話している。正式な国王はシメオンだとはいえ、まだまだボリスの指導を受けている段階。ビザンツのミカエル 3世(在842-867年)とボリス(在852-889年)は30年和約を結んでいる、とのこと。

 下記はシメオンの執務室。机が用意され、シメオンは何かずっと書いている。これだけでもそれまでの王とは違う。日常の執務で机 に座るようになったはじめてのブルガリア王ではないのだろうか。

 執務室に奥さんが上がってくる。「何してるの?」「仕事があるんだよ」と、写本室に逃げ出すシメオン。写本室で、口述筆記させ るシメオン。

 夜、王城から騎士が出陣する。

 ハンコの家。父は死の床にある。赤い血を額につける(そういう儀式のようだ)。父死す。その時、村人が板を叩いて人を集め、戦 争だ!、と村の集まった人々に知らせる。
 

  ルメイテ(ローマ(当時ビザンツのこと)との戦争だとのこと。そこに、ハンコと妻が父の死を集会に知らせに来る。葬式が行われる が、葬式が終わらないうち にハンコは戦争に去ってゆく。ある貴族の部隊が林で休んでいるところで、ハンコが合流する。30歩離れた剣の柄を弓で射るハン コ。どうやら入隊試験だった ようだ。合格し、その後ハンコは一人で砦に向かうが、不審者として後ろ手に縛られて、天幕に連れて行かれる。そこにはシメオンが いた。火のあるところに連 れて行かれ手枷を解かれる。パンももらうが、その後またつながれてしまい、毛皮をかけてもらって眠る。翌朝。しょげている兵士 (全員後ろ手に縛られてい る)と手を縛られたままのハンコたちのもとにシメオンがやってくる。一時的に地下牢に入れられるものの、結局馬を返却され、解放 される。なにしに来たん だ、ハンコ。

 写本室に本をとりに来るシメオン。そこでカラーチという建築家と会う。暖炉の前で、ヴィーノ(ワイン)を召使にもってこさ せる。訪問した理由を言いよどむガラーチ。その部屋の壁に彫られた棚には、どうみてもエジプトのイシス神としか思えない神像が置 かれている。この像はこの 後も度々登場する。時にはシメオンが手にもっていたりする。なんなのか、最後までわからなかった。

 臣下を集めて指令。その後夫人の建物を訪問し、最後にボリスのいる修道院を訪ねる。


第三話

  しかしボリスとは会えずに終わる。ボリスはひたすら祈り続けている。そろそろ父親に相談せず、自分でやれ、ということなのかも知 れない。6402年 (894年)、シメオンは南に軍を進めた。軍の中にハンコもいる。騎兵である。というか、軍は全部騎兵である。しかも急いで進 軍。休憩。川で馬を洗うハン コの所属する部隊。部隊が野原で整列したとろで、ハンコはシメオンに呼び出され、その時、ハンコは、シメオンのマントの縁取り が、デヴォロが赤子を包んで いたマントと同じであることに気づく。シメオンはハンコに出身村の名前を聞き、(ツェロセネ村。ネッセベール近郊らしい)、この マントの娘を知らないか? と尋ねる。恐らくあらかじめ出身村の名前を聞いていて、ハンコを呼び出して質問したと思われる。知らないと答えるハンコ。


 シメ オンが全軍の前で演説し、進軍する。一方ポリスの寝台の皇帝レオのもとには、北の国境にシメオンが来ているとの報告が入る。靴を はかしてもらい、マントと 冠をつけてもらう、自分で何もしない皇帝。。。イヴァン雷帝(映画「ツァール(2009年製作)にも出てきていたが。。。。皇 帝って自分で服を着ないの か。

 服を着せてもらった後、玉座に座るレオン。

 ずるそうな目つきで臣下に命ずる。レオン6世らしいイメージになって来ました。

  漸く戦闘場面。ブルガリア騎兵は要塞に突入するが、城内で挟み撃ちにされ、家屋に篭城することになる。その中にハンコもいた。篭 城部隊の小隊隊長は余裕で 酒なんか飲んでるいる。で、裏口から出撃。包囲していてもやっぱり弱いビザンツ軍。難なく城門に達し、門をあけ、再度ブルガリア 軍を城内に入れる。ハンコ 隊、ギリシア教会に乱入するが、僧侶はギリシア語で全然話が通じない。リアルな感じ。奥さんを襲おうとしていた同僚をハンコが止 める。言葉の通じる男をつ れてきて、隊長が占領方針を説明する。

 アドリアノープルを遠望できるところに来るシメオン本体。郊外にはビザンツ側のテントが見える(下記右側)。

 夜、ビザンツの将軍が交渉に来るが、特に進展はない。ビザンツ側の陣営に夜襲をかける。ハンコも参加している。



第四話

  昼、野外の会戦となる。シメオンも前線にでて戦う。ハンコ隊の隊長は討ち死にするが、ハンコが、隊長を倒したビザンツ騎士をやっ つける。それは司令官だっ た。ブルガリア軍の勝利。ハンコはシメオンの天幕に出頭する。シメオンのマントのふち飾りが気になって仕方がないハンコ。シメオ ンに何か望みはあるか?ど ういう作戦をとったのか教えてくれないか。と問われ、なにやら答えて(聞き取れなかった)、回りの家臣たちとシメオンが思わず笑 う。シメオンは言う「これ は哲学的戦争だ」。ハンコは戦争を無くすこと、とでも答えたのだろうか。他に望みのものは?首をふるハンコ。シメオンは、ハンコ が指輪を見ているものと思 い、指輪を下賜する。疲れたように、無口でうつろな感じになっっているハンコ。徒歩で陣営を後にする。
 
 戦傷した重臣を訪ね、剣を与え るシメオン。アドリアノープルに使者が赴く。しかし交渉は決裂し、交渉人の護衛が殺され、交渉人も、馬で引きずられ、野原に放置 され、犬に食われる。ブル ガリア側は報復として城壁の外で捕虜の斬首刑を続ける。下記アドリアノープルは、絵と実物の合成のようである。川にかかる橋を、 交渉役の騎士が渡っている ところが映っていた。

  夜の帷幕での会食をしながら重臣会議。意見が割れて思い雰囲気。自然を皆歌を歌いだす。少し空気が明るくなる。伝令が来てシメオ ンが書簡を読みに行く。激 怒したシメオン、書面を投げる。焚き火をけ飛ばして消す。それは、北方のマジャール人の侵入を伝える内容だった。帷幕で重臣会 議。マジャールを叩いてから アドリアノープルに戻ることが決定される。894年のアドリアノープル包囲は、陥落させることができずに終わる(結構史実通りの 展開が続く)。

 以下第五話へ。
BACK