中世欧州歴史映画「VISION - ビンゲンのヒルデガルトの生活から」(フリードリヒ一世バルバロッサ時代)

  2009年ドイツ・フランス製作。中世の実在の女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲン (1098年-79年)の生涯を描く。フリードリッヒ1一世 バルバロッサが登場するということで、「神聖ローマ帝国映画」に該当するので、今回ご紹介することにしました。私としては、「バルバロッサ」や「DIE DEUTSCHEN」に 登場するバルバロッサよりも、本作のバルバロッサが一番イメージにあいました。


  「VISION(幻視)」という題名と映画ポスターから想像してしまっていたのですが、ヒルデガルドが幻視する映像そのものは登 場しません。幻視場面は多 数出てくるのですが、いずれも光の空間としてしか現れず、周囲からは、目を開いたまま硬直しているように受け取られます。この点 少し残念でもあり、一方リ アルな歴史映画から逸脱しているわけは無く、安心したりしました。

 8歳頃修道院に預けられるところから、晩年まで描かる伝記映画となっ ています。ドイツ西部のマインツ西南50km程のところにある修道女ユッタの運営する修道院に預けられる。その後成人した頃、 ユッタが死去するが、その遺 体を清めている時に、ユッタの腰部に鉄の鎖が巻かれていることがわかる。日頃から、自身に鞭打ちの就業をしていたユッタは、日常 的にも自らを痛めつける苦 行を行っていたことがわかる。

 ユッタ死去後、近所のベネディクト系サンクト・ディジボード男子修道院から、新しい院長を決めるように告 げられ、修道女(といっても10名程度)の投票でヒルデガルドが選出される(1136年頃)。このあたりから、ヒルデガルドが幻 視する場面がしばしば登場 することになります。下記は投票前に登場した部屋。ヒルデガルドの映像が無かったので乗せましたが、私としては、この部屋が赤い 色で塗られていることに興 味を覚えました。何か意味があるのでしょうか。古代ローマ建築の内装を連想してしまいました。


  サンクト・ディジボード男子修道院のフォルマール(Volmar)は、教育担当としてユッタの修道院に出入りしていたが、彼にヒ ルデガルドは幻視体験(神 から直接メッセージを受けたこと)を告白する。早速フォルマールは、ディジボード修道院に戻り、院長にこのことを告白すると、 「悪魔の使徒」なのではない かとの疑いがかかり、男子修道院の5名からなる審問官から審問を受けることになる。そして審問の場では断罪こそされなかったもの の、幻視体験の件は無かっ たことにされてしまうのだった。下記はチェロのような楽器を演奏する修道女。

 しかし、フォルマールはヒルデガルドの生涯の良き相談相手・理解者となるのだった。

  数年後(1141年)、シュターデ伯爵夫人とその娘のリヒアルディスが訪ねてくる。16歳の娘はユッタの姪にあたるようで、伯爵 家では、ユッタの代わりに 娘を神に奉仕させることにしたようである。娘はヒルデガルドに憧れているようである。ヒルデガルドは、修道院の生活は厳しく、静 かなものだと告げるが、伯 爵夫人は、「私の家では娘にも読み書きの教育をしている」と娘にラテン語を読ませる。これでリヒアルディスは修道院への加入を認 められるのだった。下記 は、男子修道院の貴賓室。ここだけ内装が比較的ちゃんとしているが、他の部屋は、壁に染みの入った、きれいとは言えない部屋が普 通。 

 シュターデ伯爵夫人。衣装が見所。

 はじめてヒルデガルドに会ったとき、尊敬の目でヒルデガルドを見るリヒアルディス。この衣装も見所なのに、全身姿が一瞬(入院 が決まって喜んでくるくる回転しているところ)しか映らなかったのが残念。

 伯爵夫人の娘リヒアルディス(1123-1151))が入院した直後くらいで、修道女達が聖歌を歌っている場面が出てくるが、 ひょっとしたらヒルデガルド作曲のものなのかも知れない。
 リヒアルディスの入院式。母親はじめ、伯爵一族も出席している。ここでも世俗人の衣装が見所。

 入所式後の歓談会の席で突然幻視してしまい、倒れてしまうヒルデガルド。この頃になるとヒルデガルドは少し老けてきている。

1150年、修道院が手狭になったので、ヒルデガルドは男子修道院に新修道院の建設を申請するが、なかなか認められない。二度目 の申請の後、廊下で突然幻 視に襲われたヒルデガルドは、目を見開いたまま、仰向けで硬直状態に陥り、そこを修道女達に発見される。今回は長くなり、硬直し たまま、修道院全体で、今 後の措置を検討することになる。男子修道院では、ヒルデガルドの幻視を単なる芝居だと考えていたようである。そして、ヒルデガル ドの今後の措置を決める時 に、マインツ大司教の手紙を携えた使者が来て、「マインツの大司教ハインリッヒは、私たちの修道院(男性修道院)を離れて、あな たの考えで、あなたとあな たの姉妹のための修道院建設の許可を与える」と告げるのだった。このあたりで前半終わり。

 下記は、 シュターデ伯爵夫人やその他修道院関係者が連れ立って(遠足のような感じ)、新修道院建設の場所に向かう場面。これ はリヒアルディスの兄のHarwig。この装束も興味深い。

 当時の馬車。

 伯爵夫人。馬車や輿ではなく、馬なんですねぇ。この装束も見所。

 女子修道院建設が開始されるが、修道女達も、石灰を溶かしたり、材料を運んだりと、建設作業を手伝うことになるが、中には、 「神に祈ることが仕事であって、こんなのわれわれの仕事じゃない」と不満を抱く者も。
 こちらが完成したルペルツベルク(Rupertsberg:マインツ西25km程のところ。ライン川から数キロメートル)の修 道院。山の上にある。

 女子修道院として独立してからも、男子修道院からは認められないのだった。ヒルデガルドはマインツ大司教に会うことになり、マ インツに向かう。下記がマインツの大司教座。お供はリヒアルディス

 これがマインツ大司教。改めて建設の許可の確認をいただくのだった。

  修道院で宗教劇をする修道女。男性はフォルマール一人だけ。フォルマールは縛られ受難にあうので、イエス役なのかも知れない。観 客がいるわけでは無いか ら、学習と娯楽を兼ねたものなのだろう。映像的に特に見るべきものは無いが、修道院の生活の一端という意味で興味深いものがあっ た。

 ところで、修道院内(男子修道院含めて)、薄いフレスコ画が壁面に描かれていた。ビザンツ教会のように、壁面すべてを埋め尽く しているわけではなく、部屋の中央に目立たない感じで描かれていたのも興味を惹かれました。
 
 ヒルデガルドの「道を知れ」を執筆していると思われる場面。 フォルマールが、蝋版に記載する前に、筆を火であぶり、蝋が溶け やすいようにしている場面。

  ある日、シュターデ伯爵夫人がやってくる。ヒルデガルドは、債権者に関する礼を述べているので、恐らく建設費に関わる支援を伯爵 家が行ってくれたのではな いかと推測される。しかし、夫人はその見返りといわんばかりに、娘をこの修道院から出すように要望する。兄のブレーメン司教であ るHerwig(ハート ヴィヒ)が、Bossumの女子修道院院長に、リヒアルディスを就けようとしているとのこと。ここで、伯爵家の目論見は、一族の 人間を教会に送り込んで勢 力拡大をすることにあったことがわかる。リヒアルディスを手放せ無くなっていたヒルデガルドは、珍しく感情が高ぶり、夫人に強い 口調で、それはハートヴィ ヒの野望だ、と罵ってしまう。そこにリヒアルディスが連れて来られ、ヒルデガルドは、「修道院を離れることはないと誓って」と強 く引きとめてしまう。リヒ アルディスは部屋を飛び出してしまうが、ヒルデガルドはそれを追いかけてまで「私とここに残ると言って」と説得しようとする。遂 にリヒアルディスとも強い 口調になってしまう。リヒアルディスは、「私のあなたへの愛はいつも純粋だ。あなたも私を愛しているなら、私の幸せを考えて欲し い」と告げるが、ヒルデガ ルドは「私があなたを幸せにすることができる」と返す。リヒアルディスは「そうね。 嬉しく思います」という言葉を残して去ってゆく。このあたりは、殆ど親娘の喧嘩に見える。これは推測だが、リヒアルディスは、そもそも出て行きたかったど うか、その真意は不明である。しかし、尊敬していたヒルデガルドが感情的で強引な言動を取るのを見て、困惑・混乱し、このような 事態にならなかったら出て 行けたのに、ヒルデガルドの言動を見て、出て行けなくなってしまったように思える。傍目からみていると親子喧嘩に見えてしまうの だった。いつの間にか娘に 依存しすぎるようになっていた母親が、娘の旅立ちにショックを受けている構図。娘は娘で、母親の強い意志に驚き、戸惑い、自分の 意思を引っ込めざるを得な い様子である。

 更に追い討ちをかけるように、マインツ大司教からも、速やかにリヒアルディスを送り出すように、という手紙が来る。それを読み 上げたフォルマールにも、諭されてしまう。このあたりは、娘を手放したくない母をたしなめる父親のようである。

 結局リヒアルディスはBossumに赴任するのであるが、どうやら直ぐに病気か何かで死去してしまう。臨終の床にあった。恐ら くそのまま死去したものと思われる。

 次は、バルバロッサ(フリードリヒ一世)の宮殿をヒルデガルドが訪問する場面となる。

 バルバロッサが、ヒルデガルドの幻視の話を聞きつけ、ヒルデガルドを招いたとのこと。

  出典の記載が無いので事実かどうか確認ができないが、菊池良生氏の「神聖ローマ帝国(講談社現代新書)」p87には、「ある伝記 作者」の記載として、「物 静かな表情で、どんな激しい感情の動きの中でも傍から見ると微笑んでいるように見えた」という記載が出てきますが、本作に登場す るバルバロッサは、あたり が柔らかで、他の映画(「バルバロッサ」や「DIE DEUSCHEN」)に登場するフリードリヒよりも、上記の印象に一番近いように思えました。

   ヒルデガルドはバルバロッサが、「ローマに行く」というと、「そこにあなたが望むものがある」と答える。王は「帝国の王冠 か?」と問い、ヒルデガルドは 「あなたは、あなた自身の手でそれを得る」と答える。王は、「教皇本人が私に帝冠を与えるのか?」と念を押す。ヒルデガルドはそ うだ、と答える。王は満足 したようで、ヒルデガルドに、薬学に詳しいようだが、と尋ね、もしよければ、ヨーロッパで最も偉大な学者の多くがいる私の宮廷で 紹介しよう、と告げ、更 に、チェスに誘うのだった。

  ヒルデガルドが修道院に戻り、蔵書の整理をしながら、「コルドバのカリフの学術図書館には40万冊の本があるんですって」という 話をしていると、ブレーメ ンの司教、リヒアルディスの兄のハートヴィッヒが突然訪問してくる。そして、リヒアルディスの訃報を伝えるのだった。ハート ヴィッヒはヒルデガルドに告げ るのだった。
 過大な負担を負わせてしまったことに気づかなかったこと、そして、死の直前、ヒルデガルドの修道院に戻りたがったと。

  6年後(1157年頃のことだと思われる)、ヒルデガルドの幻視は既に行事のように修道院内で行われている。特別な寝台が用意さ れ、修道女達が回りを囲ん で、フォルマールがお払いのようなことをしているのだった。フォルマールもヒルデガルドも白髪が多くなり、大分老けている。フォ ルマールにヒルデガルド は、治癒力についての本を書き、病気の原因と治療法を説教して回る計画を打ち明ける。恐らく当時としては、女性がそのようなこと をするのは、かつてなかっ たことで、フォルマールは、スキャンダルだ!と驚く。そして、ヒルデガルドが説教旅行に出る場面で(結局フォルマールはついて 行っているようである)映画 は終わるのだった。

〜DAS ENDE〜 

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