2019/Dec/1 created

中世パルティア軍の登場する古代ローマ歴史映画『10人の剣闘士の勝利』(1964年)


1964年イタリア制作。原題『Il trionfo dei dieci gladiatori (Triumph of the Ten Gladiators)』。97分。ソードサンダル映画です。まったく期待していなかったので、そこそこ面白く見れました。久しぶりの(たぶん1年半ぶり くらい)歴史映画の記事であるため、余計な画面ショットを少したくさんとってしまったかも知れません。他のソードサンダル映 画よりすごく面白いというわけではありませんが、ダメな作品でもありません。というか、ソードサンダルとしては、かなり健闘 している良作なのではないかと思います。ネタバレしています(ちょっと意表を突かれた展開でした)。

パルティアが出ているかも知れない、という情報に遭遇し、パルティアが登場しているかどうかだけを確認したくて見ていたた め、あらすじメモを取らずに視聴していたので、若干筋にあやふやなところがあるかもしれませんが、一応ご紹介いたします。結 果から言いますと、パルティア軍登場していました。(かすっている程度とはいえ)パルティアが登場している五本目の作品とな りました(記事末尾で紹介)。

舞台はローマ帝国のシリア属州の州都アンティオキアと、シリア属州に接しているアルベラ王国が舞台です。古代 パルティアの史料として知られている『アルベラの歌』のアルベラであるところが興味を魅かれます。帝政時代の ようです。

主人公は10人の剣闘士たちなのですが、殆どモブの存在で、主役らしい主役はいません。この剣闘士たちは、一人のリーダーに 率いられたチームと、9名の剣闘士たちから構成され、チームごと興行主と契約して暮らしている、という存在。とりあえず目 立った存在は、老境に差し掛かった座長とその姪のミルタ、リーダー格のロッチャくらい。その他主要登場人物は、シリア総督 プブリウス・クィンティリウス・ルフス、ローマの百人隊長、アルベラ女王モールヤ、アルベラ王国の悪宰相ぐらいです。

以下左画像の左端が、座長、右から二人目の女性がアルベラ女王。一応鎧をまとっいて、そのデザインは確かに東方風。右下画像 が10人の剣闘士たち。中央の赤いドレスの女性が座長の姪ミルタ。座長が引退を宣言しているところ。マッチョな男どもの光沢 を放つ体がなまめかしい。これが好きな人には嬉しい作品かも。



冒頭アンティオキアでの剣闘士試合から開始。10人の剣闘士たちは圧倒的な力量で 勝利し、シリア総督の目にとまる。一方、興行主アンテイオコスとの契約を巡るトラブルで、剣闘士たちは契約を失って しまう。総督は剣闘士一座を呼び寄せ、アルベラで行われている陰謀を粉砕するため女王を誘拐してくるように仕事を提 案する。この時にローマ軍百人隊長マルクス・グラッカスが一座に加わる(これで都合11人の剣闘士となる)。一座は アルベラに乗り込む。

以下左画像がアルベラ宮廷の様子。中央が女王、右側が宰相。女王の左右背後にいる黒人奴隷がダチョウの羽かなにかの 巨大な団扇で女王に風を送っている。右画像の左は軍装した宰相。宰相も、その右の兵士の兜も、一応パルティアっぽい トンガリ帽子のデザイン。



下左は、アルベラ市街の賑わい。結構雰囲気が出ています。下右画像は、地図を用い て任務の背景を解説する総督と一座の新リーダー。羊皮紙の地図の上部に赤く塗られた部分がローマの領土。中央の水色 の部分が中立勢力のアルベラ王国。下の緑の領土がパルティア王国。二大勢力の中間地帯に女王が誕生したことから、パ ルティアが支配下に置こうと陰謀を企てているのだ、と説明するシリア総督。



と、こんな感じで、背景、地名、装束、町の様子等々、結構ちゃんとしています。

剣闘士チームは、アルベラ到着後、さっそく女王臨席の剣闘試合に出場するも、宰相とその娘?の陰謀で、相手チームの 長棒の先に剣を仕込ませる(が、座長の姪ミルタがこっそりきいていた。下左画像の左端が宰相。帽子がアラビアのター バン。アルベラ王国はアラブ人の王国という設定かもしれません。中央が女王。右端が宰相の娘(仮)。右画像は、剣闘 士試合を見る女王。中央ピンクが女王、左の緑のドレスが宰相娘(仮)。右が宰相。衣装がカラフルで見ていて楽しい。



試合中に、相手方の長棒の先に短剣が仕込まれていることに気づいた剣闘士たちは、 勝利した試合後、全員女王に向けて槍を投げつける。ここがかっこよかった!!!微動だにせず顔色も変えず無言で立ち 尽くす女王の前に、剣闘士たちから次々と放たれた槍がつきたてたれてゆく。





下左は女王の宮殿の中庭。右はアルベラの市街の酒場。剣闘士たちが根城にしていま す。作戦会議をしているところ。



この酒場の構造が気になりました。酒場は一階にあるのですが、一口が中二階にある 構造です。下左画像にあるように、酒場の入り口は階段を10段くらい上がったところにあり、内部は、下右画像右上に 扉があり、入ってくる兵士が映っているのですが、中に入った後、中央にある階段で降りてくる構造となっています。こ の場面は、アルベラ王国の兵士たちが酒場に入ってきたところ(剣闘士たちを逮捕しにきた)。この酒場の、入口が中二 階にある構造は、何か理由があるのか気になりました。



兵士たちを叩きのめした剣闘士たちは、イシス神殿の巫女でもある女王が神殿を訪れ た時に誘拐しようと神殿に乗り込むが、内部に押し入ったところ、女王の姿はなかった。下左は、神殿を訪問する女王の 行列。数名の巫女たちが花びらを巻きながら女王の前を歩き、女王の後ろからは二人の黒人奴隷が団扇をもって続き、更 に巫女と黒人奴隷の前後に兵士が二人づつつく、という、(本当の理由は低予算だが)小国の経済規模に見合った行列と なっている。下右は、行列が神殿正面の泰道に入ったところ。中央奥に神殿が見えている。道の両側に彫像がたってい て、雰囲気が出ています。



宰相は、剣闘士たちのたくらみに気づいていて、神殿に入ったところを宰相配下の兵 士たちに急襲されるが、地下に通じる秘密の通路を発見して脱出する。しかしミルタだけ捕まってしまう。

一方、突然場面が変わって地下の洞窟で酷使されている奴隷たちが叛乱を起こす。唐突なのでよくわからないが、しばら く見ていると、計画的な叛乱であったことが判明する。悪宰相の悪統治に嫌気がさしたレジスタンスが組織されていて、 王国への反乱が計画されていたのだ。

剣闘士たちが地下通路を抜けると、そこは都市遺跡(オスティア遺跡で ロケしている)だった。遺跡の陰から数百名の反乱民が姿をあらわし、たちまちに囲まれる剣闘士たち。ところがなん と、叛乱組織のリーダーが仮面を取ると、それは女王だった!!!



王国は既に宰相に乗っ取られているも同然で、実質女王は傀儡状態だったわけだが、 宰相は更に女王と結婚して支配の正統性を得ようとしていた。女王は、支配体制自体を転覆させるよりほかないと、自ら レジスタンスを組織していた、というわけなのでした。

宰相は、アルベラを支配下に置くべくパルティア軍を呼び寄せ、それを探知したシリア総督側もアルベラに軍団を派遣す る。レジスタンスは、都市遺跡(オスティア遺跡)で抵抗軍を組織し訓練し、アルベラ市に攻め込むクーデターを準備す る。下左はアルベラ市民に、ローマ軍の接近を布告する場面だったかな。。。。市内広場は結構ちゃんとしたセット(書 き割りかもしれないが)です。右下はオスティア遺跡でのレジスタンスの様子。



アルベラ郊外の原野でのローマ正規軍二個軍団VSパルティア軍の決戦が行われる。 左下ローマ軍。右下パルティアの将軍の戦車。



下左、パルティア軍将軍。なんか盗賊の首領みたいで残念。下右はアルベラ軍の将 軍。メソポタミア風(古代バビロニア映画に登場する装束という感じ(『アッシリアの七つの雷』とか)



パルティア軍が登場した映画では、1964年の『ローマ帝国の滅亡』があります が、この作品でのパルティア軍は、実はパルティアだと明確に説明がなく、ローマ軍が対戦するのはアルメニア王国軍で あって、パルティア軍はアルメニア軍と一緒に登場しているだけです。実のところ、パルティア騎兵の装甲からパルティ ア騎兵だとわかるだけで、司令官もアルメニア人しか登場していません(すくなくとも台詞がある人物としては。しかし もしかすると記憶違いかも知れないので、そのうち見返して確認したいと思います)。

また、『ドラゴンブレイド』では、漢王朝の西方領土にパルティア女王が軍勢を率いて登場する場面がありますが、パル ティアに女王はいなかったし、漢王朝領土深くにパルティア軍がやってきた史実もありません。この作品に登場するパル ティアは、フィクション度が高いのです。

これらの作品と比べると、アルベラあたりがパルティアとローマで争われたのは史実だし、アルベラ近郊で合戦があった こともあった筈なので、たった二つの台詞(「完璧だ!ローマ軍はひとりも生きては返さぬぞよ!」)しかないとはい え、真正パルティア人の政府高官(将軍)が登場した(私としては)初めての作品です。

以下激突するローマ軍(左)とパルティア軍(右)



ローマ軍(左)とパルティア軍(右)が激突した瞬間。ローマ軍勝利。この間に、剣 闘士たちとレジスタンス軍はアルベラ市内に侵入、王宮を制圧し、悪宰相を倒し、町を解放する。



勝利したローマ軍はアルベラ市内に凱旋する。下左は、アルベラ市内広場を埋め尽く す群衆たちと、歓呼で迎えられるローマ軍。王宮のセットも比較的ちゃんとしていて、大きな建造物もでてきました。 ソードサンダル映画全盛期のイタリアでは、ローマの町のセットが恒常的に設置されていたのでしょうね。下右は、前半 で登場したイシス神殿と比べると、巨大な神殿。首都ローマが登場したのかと一瞬思ってしまったくらいしっかりした セットで驚きました。



というわけで、どうせ低予算でしょ、と、まったく期待せずに見ていたら、意外に小 技のピリリと効いたセットがうまく用いられ、楽しめました。

書き忘れましたが、一応ロマンスもあって、百人隊長とミルタがくっつき、ロッチャと女王はお互いに惹かれあう(でも 女王は自分の立場があるのでつっくかない)、というもの。

最後に、パルティアが登場する作品についておさらいしておきたいと思います(『ド ラゴンブレイド』の記述の使いまわしですが、、、)。

パルティアが登場する映画

4 人目の賢者』 (1987年米)(キリスト誕生時に訪れた東方三博士には、実は集合に遅れた4人目がいた、という話。その4人目のアルタバ ヌスという名前以外パルティアらしいところはない。主役は『地獄の黙示録』のマーチン・シーン)

『ローマ帝国の滅亡』(1964年米)(戦争場面でパルティア騎兵軍団が登場する)

緑 の炎』(2008年イラン)(パル ティアの属国であるケルマーン女王とその王宮が登場 する)

ド ラゴン・ブレイド』(中国/香港、2015年)。架空のパルティア女王が登場して いる。


長年パルティアが登場する映画を探索してきました。

『ローマ帝国の滅亡』を視聴したのは1999年頃(騎兵の姿のみ)、
『4人目の賢者』を視聴したのは2000年頃(主人公は一応アルタバヌスという名前の「パルティア人」というだけ で、中東のどの民族でもいいような登場ぶり)、
『緑の炎』を視聴したのは2012年頃(パルティアの属国のケルマーン王国で、ケルマーン王族はパルティア人 の可能性があり、パルティア装束っぽいものが登場していたが、パルティア本国ではない)、
『ドラゴン・ブレイド』は2015年(パルティア本国が登場したものの、架空の女王

という具合に、段階的にパルティアに近づいてきて、ようやく、パルティア本国人 が台詞付きで登場する作品に出合うことができました。しかし台詞は二つだけ。じわじわとした接近ぶりは かわりません。

いつか将来、どまんなかでパルティアが登場する作品が登場することを願っています。

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