近世スペイン歴史映画「Teresa, el cuerpo de Cristo(テレサ−キリストの体)」(フェリペ二世時代の聖女アビラのテレサ)

 スペインの聖者アビラのテレサ(1515-82年)を描いた作品です。

  IMDb掲載の映画ポスターを見て、アダルト系尼僧映画かとの先入観があり、数年前本作の存在を知って以来、見たいと思わなかっ たのですが、最近アビラの テレサが実在の人物であることを知り、映画もネットに見つかったので見てみました。血脇肉踊るようなドラマは全くなく、異端審問 にあっているのにジャン ヌ・ダルクのような悲惨さも無く、「薔薇の名前」に登場したベルナール・ギーの ような特高警察のような審問官も登場せず、たんたんと進む本作は、退屈です。映画だから当然ですが、史実をベースにしているもの の、映画はあくまでも自分 のペースで悠々と進みます。でも、最後の方は感動してしまいました。昨年できたばかりのスペインアマゾンで買い物をしてみたかっ たというものありますが (スペイン語がわからないので、歴史アトラスか、英語字幕付き映画くらいしか購買対象が無いので欲しい作品が出てくるのを待ち構 えていたのです)、結局 dvd(英語字幕付)を購入してしまいました。評価が高くないからか、商品が届いてみると、アマゾン表示額より更に10%Off 価格。誰かにおすすめでき る作品ではないのですが、関心を持つ方もいるかも知れないので、簡単にご紹介したいと思います。

 筋は非常に簡単です。カルメル会修 道院に入ったテレサは、過度に体を傷つける苦行を行い、とうとう仮死状態に陥ってしまう。周囲の人々は死亡したと誤解して葬儀を 出すが、父親が納棺を拒ん だおかげで、蘇生する。その後、キリストの幻覚を頻繁に見るようになる。当時、修道院は腐敗し、修道女を集めて猥褻行為を行い、 その見返りに免罪符(のよ うなもの)を渡す修道院がいくつも存在し、異端審問官が摘発して回っていた。幻視を口にしていたテレサは、巡回してきた審問官に より悪魔・異端とされてし まう。修道院で迫害(というより邪険にされているというか、いじめにあっているような印象を与えるが)されるようになったテレサ は、日々貧しい病気の人々 の世話などをして過ごす。

 ある日、半ば埋もれた古い教会の鐘を見つける。それがきっかけで、女子修道院を創設することを決意したテレサ は、古い教会の廃墟を利用して建設運動を開始する。テレサの数少ない有力者の中の後援者であるDoña Guiomar de Ulloa(ドナ・ ギオマール)や、数人の修道女・民衆の支持を背景に、最後はローマ法皇の裁定に持込み、修道院設立が許可される。

 特に迫害や弾圧を受け るわけでは無いのだけれど、周囲の無理解の中、勝手に教会建設を着々と進めるテレサは、付近の街の市民や有力者達から見ると、 「あー、あの困った人」とい う感じなのかもしれないが、ドナ・ ギオマールなどと一緒に、届いた十字架を馬車から下ろして教会に運び込む場面では感動してしまった。音楽がいいというのもあるのかも。JPアマゾンでも、 dvdは無いのに、音楽はMP3で販売されているので、案外楽曲の方で知られた作品なのかもしれません。

 最後まで修道院建設に反対していたイエズス会総長フランシスコ・ボルハ(ボ ルジア家の人)も遂に翻意し、テレサは、教会建設のきっかけとなった鐘を教会の正面壁に取り付けて鐘を鳴らす(下、教会の入口の 右方向角に見える棒のよう な小さい影が鐘の紐を引くテレサ。その上の影が鐘)。雨上がりに雲の裂け目から西日が差し込むような、そんな爽やかな印象を与え る映像と音楽。

 鐘の音は街の人々の元にも届き、人々は遂に、修道院が完成したことを知るのだった。

 似たような作品に「女教皇ヨハンナ(こ れはフィクション)」や、 「VISION - ビンゲンのヒルデガルトの生活から(11 世紀ドイツ実在の修道院長でテレサと同じく幻視者)」などがあるのですが、波瀾万丈の人生を描いた「ヨハンナ」や、登場人物達の 感情が強く描かれた「ヒル デガルト」と比べると、本作は本当に地味。でも、面白いけど疲れてしまう「ヨハンナ」などと比べると、たんたんと柔らかな映像と ゆったりした音楽が続く本 作は、ある意味癒し系作品と言えるのかも。面白いけどなかなか見直すことのない作品というものがありますが、一方で、大して面白 いわけではないけど、なん となく、(環境ビデオのような感じで)何度も流しておく映画というのも在るのだと思うのですが、本作は私にとってはそんな作品の ようです。

 近年のスペイン歴史映画は、衣装に凝った作品が多く、本作も、しっかりしています。これも本作を気に入った理由のひとつかも知 れません。


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