中世欧州歴史映画「女教皇ヨハンナ」(9世紀)

  2009年ドイツ・イタリア・スペイン・英国共同制作「女教皇ヨハンナ」。本作、1972年 にも映画化されています(英語字幕版dvdが出ています)。更に本作で重要な役割の一つとなる、「聖カテ リーナ」も映画化されるようです(2014年完成しました。感想・紹介はこちら)。 聖カテリーナと 「アレキサンドリア」の主人公ヒュパティアは、キリスト教と非キリスト教という立場なのに、共通するものがあ り、これら三作が、3,4年の間で相次いで製作されているのには興味深いものがあります。

  本作は、ストーリにも感動しましたが、やはり9世紀西欧を上手く映像化している、といういう点でも、非常に良くできた作品かと思 います。あまりに気に入っ たので、少々画面ショットを取りすぎた気もするのですが、これが少しでも宣伝となって、日本語字幕版が出る後押しになれば、と思 い、とっただけの画面 ショットを掲載します。画面ショトトに説明をつけるだけで、多少あらすじに近くはなってしまうのですが、あらすじについては日 本語で小説が出ているの で、そちらに譲ります。映像的には、映画「薔薇の名前」など、リアルな中世画像を気に入った人にはお奨めと言えそう。内容的に は、「ガラスの仮面」など、 ひたむきに困難に立ち向かう話がお好きな方にもお奨めと言えそうです。

 ところで、なんで「女教皇」なんでしょうね。「女」と呼び捨てに するようなニュアンスに違和感があります。とはいえ、「女性教皇」では言葉にしまりが無いし、「女皇」では女帝と勘違いしそうだ し、伝説含めても女性の教皇はヨアンナだけなので仕方が無いか。

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 冒頭。867年。ローマで修道士がヨアンナの伝記を書いている場面から始まる。この部分は原作とは異なっているが、最後にわか る正体は、原作に近い。下記はその、9世紀末のローマ。

  更に、伝記の中身、814年、ヨアンナ誕生の冬に場面が移るが、原作ではこの場面から開始となっている。原作との相違は若干あっ て、映画では、「キリスト が誕生してから814年目、シャルルマーニュが没した年として人々に記憶されている年に、彼女は生まれた」と修道士の語りが始ま るのですが、この部分は原 作ではカバーのうち扉の導入部の解説部分に記載されており、ここについては、映画の方が気に入っています。

 下記は、ヨアンナの村。ドイツのインゲルハイム(現在のマインツ近郊)。

 ヨアンナの兄、マシューが蠟版で文字の練習をしているところ。古代ローマ時代と同じ。

 824年。ヨアンナの能力を発見し、特にギリシア古典への世界を紹介し、知識を求めるヨアンナを後押ししてくれるアスクレピオ スが村を訪問し、ヨアンナに初めて会うところ。

 兄マシューに文字を習うヨアンナ。

 ヨアンアの家。父親が村の司祭を勤める割には、他の家とあまり変わらない。

 原作62ページに相当するところ。映画では少し変えてあって、アスクレピオスと父親の会話を、屋根裏?のような場所から覗き見 る場面。うまく画面ショットを取れなかったが、目が爛々と輝いている演技が良かった。

 次男のヨアネスとともに、アスクレピオスの教えを受けるヨアンナ。

 原作のp104で、母親が「男の子です」と言う場面。この演技もよかった。

 ヨアンナとヨアネスが、正式に修道院で学ぶ為に向かった、現オランダにあるドレスタットの城館。地元の有力者達が宴会をしてい る場面。ある程度の照明を得るためには、かなりの量の松明が必要だったことがわかる。リアルな映像。

 ドレスタットの修道院。少年達が学んでいる。

 しかし、女性はヨアンナ一人なので、彼女一人座席が別で、しかも他の生徒と対面となり、たまに目があったりして困るヨアンナ (前回ご紹介した映画「カール大帝」に登場した修道院学校は、もっと幼少だったが、少女もいた)

 休みの日に、ドレスタットの町の市場を見て歩く場面。下記は歯医者(歯を抜いたところ)。

 市場に並ぶ食事店。ハエがたかりまくりなのがリアル。

 市場にある本屋さん。

 まだ原作を全部確認できたわけではないのですが、下記は原作に無い部分かも知れない。厄介になっている小領主・騎士のゲロルト と、水力式自動ドアのミニチュアの製作に成功し、ヨアンナが「やったぁ!」とバンザイする場面。

 司教がヨアンナの文章を、他の生徒に見せ、褒める場面。最初は叱るのかと思った。

 原作のp196に相当する場面。水力式自動ドアの現物をゲロルトが作る場面。

 ヨアンナの結婚式。ゲロルト夫人の陰謀(という程大げさなものではないが)で、ゲロルトが戦争に出ているうちに、結婚させられ てしまう。ヨアンナ。

 しかし、式の途中でノルマン人の襲撃を受け、ゲロルト夫人と子供含め、殆どの人が戦死してしまう。この時兄のヨアネスも戦死。 ヨアネスの書類を持ち出し、兄に成りすますことを決心するヨアンナ。

  ドイツ中部のフルダ修道院(カロリング期の史料で有名。映画「カー ル大帝」でもザクセン人に焼き討ちされた焼け跡が登場した)に 入ったヨアンナ。結婚式の 虐殺から3年が経っていた。女性のカッパ頭(トンスラ)はさすがに痛々しい。なので、殆どの場面が、ヨアンナを若干下から見上げ るショットとなっていて、 頭のてっぺんはうまくスクリーンから外れている。たまに映る場合は、一瞬か、遠方だったりする。

 841年6月25日にフォンテンヌロー(フォントノワ)行われたロタール一世と他の2人兄弟、ルートヴィッヒとシャルルとの戦 い。

 女であることがばれそうになり、休暇ということでフルダを出るヨアンナ。川で船に乗り一晩過ごす場面。ここも美しい映像だっ た。

  しかしそのまま船の中で発熱してしまい、フルダから50kmのキャンプ Riculfsa(リクルサ)まで流されてしまう。意識 を失い、目を開けてみる と、ある家にいた。そこは、昔フルダでらい病患者施設に入れられそうになるところを、ヨアンナが医療知識を生かして治癒に協力し てあげた母親の子供が、青 年になって家庭を築いていた家だった。下記は、食事の場面。当時の少し余裕のある生活をしている家庭の再現映像として参考にな る。

 (確か)その家の娘に算数を教えているところ。アレキサンドリアのカトリーヌについても教える。

 巡礼の為、ヨアンナはローマに行くことにする。そのローマの市場。

 教皇の護衛と司教。

 病気の教皇セルギウス。

 教皇庁の宮殿。古代ローマが残っているとしか思えない豪華さ。これと比べると、「カール大帝」に登場したカールの城館は、本作 の前半に登場する修道院付の学校や宴会で登場した城館と変わらない。

 教皇庁にロタール軍が近づいてきているとの報に、地図を見る教皇

 ロタール一世。

 ローマに近づくロタール軍

 教皇にあうロタール。軍事力を背景に居丈高。

 神の前にひざまずけ、という教皇。神だけを尊敬する、といって馬から下りるロタール。

 ところが、自動的に教皇の背後の大扉が閉まった。
  教皇「ロタールよ、もし神を敬い、力を認めれば、ローマは汝を歓迎する。もしそうでなければ、神の怒りを買うであろう、汝だけで はなく汝の兵士も」 ひれ 伏す配下の兵士たち。呆然とするロタール。くず折れてひれふすロタール。当時ロタール軍にいたゲロルトが、この仕掛けを、ヨアン ナの仕業だと気がつき、ヨ アンナがローマにいることに思い当たる場面でもある。

 これは、ローマの城壁。城壁の外は直ぐに荒野となっている。古代ローマ時代からあまり変わっていない模様。

 ヨアンナの提案で、古代の水道の修理を行っているところ。

 教皇庁でのヨアンナ

 第一大司教(教皇不在の場合、事実上教皇庁の最高権力者)に迎えられるヨアンナ。

 第一大司教としてローマ市民の前に出る場面。

 ヨアンナの護衛隊長に任命されたゲロルト。

 教皇としての政務を行うヨアンナ。847年。

 冒頭で登場したのとは別の、ローマの鳥瞰ショット。

 848年。輿に乗り、ローマの民衆の中を行くヨアンナ

 ローマ市内の様子。



 最後の場面は、どうにも画面ショットを撮る気にはなれませんでした。可哀想で見ていられない場面です。後、原作も映画も、最後 にちょっとしたどんでん返しがあります。映画と原作では少し違います。私は原作の方のラストが気に入りました。

 ということで、紹介は終わります。少しでも本作にご興味を持つ方が増えて、日本語字幕版が販売されることを祈る次第です。


 ところで、ヨアンナと同じような境遇にあった、17世紀メキシコの実在の人物、Juana Inés de la Cruz(1648-1695 年:日本語表記はソル・ファナまたは、ファナ・イネス)の映画、「Yo, la peor de todas(英題I, The Worst of All )」も見ました。下記は、修道院の蔵書と天文学の研究をするファナ(一般的で多い名前とはいえ、ヨアンナと同じ名前なのがなにか不思議に感じられます)。


 修道院では、司教と会う時は、ブルカのように、顔をベールで隠さなくてはならない。

 男性の知識人相手に詩を読むファナ。ここでも、男性の間には敷居があり、まるで刑務所の面会所のようである。

 字幕無しのスペイン語版を見たのですが、是非とももっと良く内容を知りたいと思い、dvd(英語字幕あり)を注文しました。この映画については、いづれ17世紀のと ころでご紹介したいと思います(2015/12 感想・あらすじ を掲載しました)。
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