2017/Sep/03 created
オスマン朝歴史ドラマ『壮麗なる世紀:キョセム』(2015-17年)

 オスマン朝君主アフメト一世(1590-1617年/在1603-17年)妃キョ セム・スルタン(1589-1651年)の話です。一話約120-150分、合計60話。 2015/11-2016/6第 一シーズン30話、2016/11-2017/6月第二シーズン30話、計60話が放映され、完結しています。『壮麗なる世紀(邦 題『オスマン帝国外伝』』)の続編枠ということなので、主題曲は少し編曲しているだけで『壮麗なる世紀』と同じ曲、セッ トも同じセットに若干手を入れているので(『壮麗なる世紀』が1520年から開始し、本作が1610年から開始している ため、一応100年近い経過を感じさせるつくりになっている)、時代考証的なやる気は一応感じられます。

 本作の原題は、日本語で『壮麗なる世紀』、『華麗なる世紀』、『偉大なる世紀』、『壮大なる世紀』と色々な訳がありま す。前作『壮麗なる世紀』は、スレイマン一世(在1520-66年)を題材としていて、スレイマン帝の異名は Muhteşem Süleyman,、 英語でSuleiman the Magnificent (壮麗帝)です。この番組の原題『Muhteşem_Yüzyıl』であり、まさにスレイマンの在位中を扱っていることから、題名の訳は『壮麗なる世紀』 となるわけです。もし、異名がSuleiman the greatであれば、『偉大なる世紀』『壮大なる世紀』もありえますが、the Magnificentである以上、『壮麗なる世紀』となるわけです。しかし、本作が登場したことにより、意味合いが変わってきてしまいました。恐らく、 前作『Muhteşem_Yüzyıl』が製作された頃は、続編まで考えていなかった筈で、その頃は Muhteşem_YüzyılはスレイマンのMuhteşemだった筈ですが、キョセム編が登場したことで、 『Muhteşem_Yüzyıl』は、オスマン朝中盤の約130年を示す女人政治の時代(Kadınlar Saltanatı(カドゥンラ ル・スルタナートゥ)を意味するようになっています。『壮麗なる世紀』の「世紀」は、”女人政治の世紀”というわけで す。オスマン朝の女人政治の時代は、ヒュッレムからトゥルファンハトゥンまで約130年間、8人の女性によって担われた とされていて、Kadınlar Saltanatıのリンク先の 一覧にある8名中5名が本作に登場しています。スレイマンの「壮麗」とはあまり関係なくなっているため、邦題を『壮麗な る世紀』と訳す理由もなくなり、『華麗なる世紀』でも問題ないように思います(検索してみると、 Muhteşem_Yüzyıl』をKadınlar Saltanatıと同義として用いている記事が多数ヒットします)。
( しかし、そう思わせておいて、この秋から別の女性を主人公とした続編が始まるかも知れません。なんせ主役とヒロイン を殺して主役を入れ替えてまで番組存続の実績のあるトルコ歴史ドラマのことです。何があるかわかりません、、、)

 本作は、第1、30、31、60話を視聴しました。一部を視聴しただけで全体を語ることはできませんので、いくつかお 断りがあります。第一シーズンは、さらわれてオスマン帝国の後宮につれて来られたキョセムがアフメトの后妃となり、后妃 たちの権力闘争を勝ち抜いて息子をスルタン位につけるまでが描かれます。よってシーズン・ファイナルでは、政敵を軒並み 粛清しています。イングランドのエリザベス一世を扱ったケイト・ブランシェット主演の映 画『エリザベス』や、映画『ゴッドファーザー』のラストに似た感じです。第二シーズンのファイナルでは、ス ルタン・イブラヒムが暗殺され、最後はキョセムが、息子の嫁のトゥルファン・ハトゥンに暗殺されて終わります。よって シーズン・ファイナルだけ見ていると、血なまぐさい後宮の権力闘争だけの作品に見えてしまう可能性があります。他にも、 第一シーズンでアフメドが死没した後では、后妃たちの闘争があり、暗殺が続発した可能性があります。しかし、それ以外の 第一シーズンの第24話までと、第二シーズンの30話以外は、権謀術数はあっても粛清や暗殺などあまりない可能性があり ます。そうしてその部分で、女人政治が描かれているのかも知れません。女人政治というと、寵臣の人事に口出しするだけ で、民政や外交にまでは及ばないような印象がありますが、オスマン朝の女人政治では、欧州各国の元首と直接手紙のやりと りをしていた点に特徴があるとのことです。

 第一シーズンは、24話まではまともな統治者であるアフメド一世治下で安定していて、祖母のサ フィエ・スルタンが権力を握っていた時代です。もしかしたら、サフィエ・スルタンが国政や外交に能力を発揮 している場面が描かれているかも知れません。第二シーズンは、キョセム統治時代といえる時期ですから、キョセムが民政や 外交に手腕を発揮している場面が描かれているかも知れません。
 当初は、各シーズンの初めと終わりだけ見て、ドラマ全体の大枠を把握すれば十分だと思っていたのですが、『壮麗なる世 紀』が、オスマン朝の女人政治を扱った大河ドラマだということがわかって俄然興味がわいてきました。ヌー ル・バーヌー・スルタンはその若き日が『壮麗なる世紀』の第四シーズンに登場していることもわかり、『壮麗 なる世紀』と『壮麗なる世紀:キョセム』で女人政治の8名全員が登場していることになることも今回知りました。全部見て いる時間はありませんが、機会を見つけて残りも少し視聴してみようと思うにいたりました。
 
    
 キョセムは年齢ごとに三人の女優さんが演じていて、右側が若い頃を演じるAnastasia Tsilimpiou(1997年生)という方。演じた当時は17、8歳なので、このまま30歳ぐらいまでを演じてもいいように思えるのですが、ギリシア 人なので、トルコ語で演じ続けるのは難しいということなのかも知れません。キョセムは、実名はアナスタシアです。女優さ んもアナスタシア。ちょっと紛らわしい。途中で左のBeren Saat(ベレン・サート1984年生)に交代。アナスタシアの写真は、あまり美人に見えなくて申し訳ないのですが、第一話ではこういう表情をしているこ とが多いし、特徴が良く出ているように思え、この画像を掲載することにしました。ベレン・サートは、ロシアのエカテリー ナ大帝の若き日を扱ったドラマ『若き日のカザリン』(こ ちら)の女優さんに似ている感じです。




第二シーズンでは下右のNurgül Yeşilçay(ヌルギュル・ イェ シルチャイ/1976年生)がキョセムを演じています。下左は、キョセム暗殺の首謀者、スルタン・イブラヒム(1615-48年/在 1640-48年)妃トゥルハン・ハトゥン。ベレン・サート以降のキョセム、トゥルハンとも貫禄十分。どれもゴッド マザーという感じです。下の2人は第二シーズンの登場です。



 第一シーズンは、1603年、アフメトの父メフメト三世死去の前後から開始し、若干 幼少時代も描かれますが、第一話開始後20分くらいで1610年に移ります。1610-1651年の40年間を60話で 描いているので、一話約8ヶ月の ペースです。おおよその年代は以下の通り。

第一シーズン
 第一話 1610年から開始
 第24話 アフメト死去(1617年)
 第30話 ムスタファ即位(オスマン二世絞殺、ディルルバ・ハトゥン刺殺、ハリメ・スルタン毒殺、宰相ダウド・パシャ 絞殺)
第二シーズン 
 第31話 ムラトが青年役になっているので、1630年頃からの開始と思われる(年号確定次第追記する予定)
 第60話 1648年イブラヒム暗殺、1651年キョセム暗殺(トゥルハン・ハトゥンの勝利)

各スルタン、母后、后妃の関係は以下の通り。スルタン位をめぐる皇子の争い=そのまま母后と后妃達の争いという図式で す。アフメド没後サフィエ・スルタンはハンダン・スルタンに暗殺されているそうですし(ドラマでは未確認)、ハンダンや マフフィルゼも暗殺されているかも知れません。

アフメト一世(在1603-17年)、祖母サフィエ・スルタン、母ハンダン・ハトゥン、最初の后マフフィルゼ・スルタ ン、
ムスタファ一世最初の即位(在1617-18年) アフメトの弟、父メフメト三世、母ハリ メ・スルタン
オスマン二世(在1618-22年)、父アフメト一世、母マフフィルゼ・スルタン、后アキレ・ハ ニム
ムスタファ一世復位(在1622-23年)、
ムラト四世(在1623-40年)、父アフメト一世、母キョセム
イブラヒム(在1640-48年)、父アフメト一世、母キョセム
メフメト四世(在1648-1687年)、父イブラヒム、母トゥ ルハン・ハトゥン


 登場人物は膨大で、以下が主要登場人物の全てではありませんが、今回視聴した範囲内で取得した画面ショットを掲載しま す。

 右がキョセムの夫(になる)アフメト一世。左がオーストリア人で、鍛冶屋の息子イスケンデル。イスタンブルの職に応募 したのか、デウシルメなのか不明ですが、イスタンブルへ向かう途中で海賊に誘拐されたアナスタシアと出会う、という展開 (途中から髭ずらになるらしい)。二枚目俳優を取り揃えた感じ。前回の『壮麗なる世紀』と比べてハーレクイン度が増した ような気がしな くもありません。アフメトは、宮廷にあるアナスタシアの肖像画を見て一目ぼれしてしまい(この肖像画がアナスタシア本人のものかどうかは不明)、勝手に気 をまわした家臣が、肖像画の複製を作り、海賊を雇って肖像画の少女を探し出し、さらって宮廷に送り込み、宮廷から逃亡し ようとしたアナスタシアが庭でアフメトと出会う、という展開です。二人が出会う場面はまさにハーレクインでした(読んだ ことないけど)。イスケンデルは、アナスタシアと恋に落ちる設定のようで、アフメト含めた三角関係になる展開のようで す。


 左から、オスマン二世の正妻アキレ・ハニム(追放されるが、子供を奪われる(子供は多分殺されたと思われる)、その右 は、多分アフメトの側室ギュルハバル・スルタン(アキレ・ハニムの義母にあたり、アキレ・ハニムと仲が良い)、その右は ハリメ・ハトゥン(ムスタファの母、キョセムに毒殺される)、右端は、アフメトの妹ディルルバ・ハトゥン。ムスタファ一 世の姉であることから、ムスタファとその母ハリメの味方(ずっとそうだったのかはともかく30話ではそうだった)。キョ セ ム配下の侍女に刺殺される。




 ムラト四世。実際は有能だったらしいが、馬鹿な振る舞いが目立つ。しかし以 下のように、正装で眉をひそめて苦悩する表情はかっこいい。思わず二枚も画面ショットをとってしまいました。



 オスマン二世が絞殺された七塔の砦。CGによる再現映像ですが何かの役に立 つかも知れないので画面ショットを取ってみました。



 本作の特徴は、木造建築が目立つところです。前作では、レンガと石造建築が 目立っていた印象があるのですが、本作は前作と比べると飛躍的に木造建築が増えています。以下右は、CGで はなく、実際の建物です。木造です(建物本体はレンガかも知れない)。セットか実在の史跡かは不明ですが、こう いう建築物は前作ではなかったうように思います。もっとも、前作の第四シーズンは139話だけしか視聴していな いので、前作の後半ではこのよう な建築が登場していた可能性はあります。下左はイスタンブル(CG)。手前に宮殿があり、奥に金閣湾、右手奥 にはガラタ塔が見えています。マケドニア朝の最盛期ビザンツについてもこういう再現映像を見てみたいと思いま す。



 これも木造(CG)。宮殿前に兵士が集まり、木造のバルコニーか らスルタンが演説しているところ(確か)。18世紀初頭のチューリップ時代を描いた『オスマン帝国の復活』というドラマでは、ほぼ現在に残るオ スマン朝建築が登場していて(セットか史跡かは不明ですが)、本作に登場する建築物や内装は、『オスマン帝国の 復活』と前作『壮麗なる世紀』のちょうど中間という印象を受けます。一応製作陣もこのあたりをちゃんと考えてい るような印象を受けました。



 以下はイェニチェリの隊長。前作より派手な気がしますが、気のせいかも知れ ません。かっこよかったので撮ってみました。





 これはギリシアのケファロニア島のアナスタシアの家の付近の港。いくつか参考になるところがあります。まず、集落の周 囲に城壁がある点、更に集落の中心部には監視塔があり、集落は市街という程の規模ではなく、港のための小規模集落である 点。アナスタシアの家は農園の中にあるヴィラとなっています。また、埠頭には風車が三連建っています。


 このドラマの前半は、サファヴィー朝アッバース大帝(在1587-1629年)、サ フィー一世(在1629-42年)、アッバース二世(在1642-66年)の時代に相当しており、何度もサファヴィーVSオス マン朝の戦いが展開されているので、サファヴィー朝が登場するならこの場面を見たいところですが、配役俵を見る限り、サ ファヴィー朝の間者は登場していても、サファヴィー朝そのものは登場していないようなのが残念です。あとは第二シーズン は、発明家のヘ ザルフェン・アフメト・チェレビが登場しており、多彩な人物を登場させて工夫が感じられます。

キョセム・スルタンの話は映画もあります。感想・紹介はこちら(今読むと、まだ言葉のわからない歴史映画を解 読するコツをつかんでいない時期の記事で、まともな紹 介になっておらず恥ずかしい内容ですが、、、、)

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Wikipedia の紹介はこちら

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