シリア製古代ローマ歴史ドラマ「ゼノビア」第15話から21話

  前回の続き(第一話から第七話のあらすじはこちら。第八話から第十四話のあらすじはこちら)。 1996年シリア製作。今回は、第十五話から最後の第二十二話まで。

  戦禍、それが一因で蔓延する疫病。没落する名家。通常の古代ローマ作品だと、個別の戦場での戦闘や兵士による一般住民への略奪や 殺害は描かれても、戦後、 生き延びた人々の生活が描かれた作品は見た覚えがありません。かなり「風とともに去りぬ」のパクリがあるとはいえ、見応えのある 作品でした。


第十五話

 パルミラのマルコの家。医者に来てもらったところ、マルコの妻ナルジェスは妊娠していることがわかり、ショックを受けるタイ マ。この時点では、タイマはまだヤマンがローマ軍に壊滅させられたことは知らない。

  パルミラ貴族エラベルは、支援物資を持ってムンディル家を訪問する。武器の横流しをして不正を働くわ、裏切るは、友情を装って友 人をタイマとの結婚を諦め るように誘導するし、エラベルはかなり腹黒い人物ではあるのだが、恋愛の駆け引きにおいては手段と選ばない(つまり、やるべきこ とはちゃんとやっている) し、絶望的な状況にあるムンディル家を危険を冒してまで訪問するなど、それなりに筋の通った人物であることがわかってきて、まあ やっぱりレッドバトラーな 感じ。エラベルは廃墟となったムンディルのヴィラで、生き残ったムンディル一家に会う。支援物資を預ける。エラベルはパルミラに 戻り、タイマに家族の無事 を伝える。しかし同時に、アナヒムが犠牲となったことも伝えるのだった。悲しむタイマ。この場面はもらい泣きしてしまった。

 パルミラの城門。

 パルミラ宮廷には将軍ザバダの使者が来て、ヒムスに到着したと報告する。ザバダが、パルミラに相談に来たい、と希望している伝 令を伝えるが、ゼノビアは私が訪問します、と返す。

    ”包囲”、というテロップが出る。ローマ軍がパルミラに到着し、パルミラを包囲し攻撃を開始する。双方で火のついた石を投石 器で投げ合っている。包囲 するローマ軍の頭上にも、パルミラ市内部から雨あられのように火のついた石が投石器で投げ出されている(下左)。下中央は、火の ついた石を盾で防ぐローマ 兵士達。なかなか迫力ある映像。下右はパルミラ城壁の矢狭間。

 包囲が開始されて二週間。タイマとナルジェスは、負傷兵の手当てをしている。お嬢さん育ちのタイマも一応ちゃんと看護兵を務め ている。

  女王は、城壁はパルミラ兵1人で5人のローマ兵にあたることができる。我々の戦いは忍耐と断固とした決意の戦いです、と会議で宣 言する。アウレリアヌスの 帷幕では将軍クローディアスが、飲食品の不足は誇張ではない、と皇帝に訴えている。アスレリアヌスはこれに成功したら皇帝になれ る、といっている。失敗し たら反対派を作ってしまう、と(史実ではパルミラ親征時点で皇帝となっている。この場面以前にも皇帝と呼ばれているので、この時 点では元老院には認められ ていない、軍隊の支持で即位した皇帝、ということなのかも知れない)。下左はアウレリアヌスの軍営にあるパルミラ城壁模型と作戦 図。下右はゼノビアが使っ ている作戦模型。中央上に女王の指揮棒が見えている。

  将軍ザバイは、後2週間分も食料はありません、と女王に訴える。パルミラもローマ軍もどちらも持久戦に入っている。ローマ側では 将軍クローディアスが、エ ジプトからの補給はパルミラ軍に阻まれているとアウレリアヌスに告げる。将軍ザバダもいつの間にかパルミラに戻っている。ザバダ は決戦派で、打って出るこ とを何度も女王に進言する。輜重が底を突く前に、士気の高いうちにと決戦を提案。食料が尽きたら士気も落ちる。しかし、女王は食 料だけが懸念だ、といい、 持久戦の続行を主張する。女王の作戦は砂漠の部族とエジプト国境のパルミラ軍で挟み撃ちにすることにある。しかしザバイは最後ま で決戦を主張し、ザバダは 砂漠の部族の援軍は来ないと感じている、と述べる。理由は元老院から追放したから。女王は今は非常時だから違う、と期待を述べる が、声のトーンが少し落ち る。


第十六話

 ザバイとザバダ両将軍の説得に苦慮する女王。

 一方、いつの間にか登場しなく なっていたマルコが生きていたことがわかり喜ぶムンディル一家。マルコは、12話でヤマンからパルミラに発ってから出演していな かったが、パルミラに到着 する前にローマ軍と遭遇し、姿を隠していたらしい。私はすっかり彼の事を忘れていたが、制作陣も忘れていたのではなかろうか。と もかく、この重大な局面で 3話まるまる登場しなかったことで、彼のこの番組での地位はエラベル以下となってしまった。エラベルからの支援ももらい、マルコ とも再会し、一息ついたム ンディル家を更なる災厄が襲う。奴隷頭のアトナンが嘔吐したのだ。コレラだった。普段でさえ、疫病が流行していた時代(第 2,5,6話でもムンディル家の 奴隷が疫病にかかり、カムラが伝染を防ぐために非情な隔離措置をする場面が出てくる)。しばらくしてアタナン死去。奴隷ではあっ たが、長年連れ添った友で もあったアタナンの死亡に、ムンディルはますます気落ちしてゆくのだった。

 ムンディル家の様子を見にヤマンを訪れたエラベルは、パルミ ラに帰還途中ローマ軍に捕まってしまう。捕まえた隊長に、皇帝に会わせないと後悔すると主張し、強引に皇帝に会い、2キャラバン 分の食料がある、と皇帝に 告げる。拷問を命ずる皇帝に、3日の内に戻らなかったら、隠し場所にある食料は部下が焼却する。というエラベル。エラベルは食料 と引換に釈放される。

  パルミラに帰還したエラベルは女王に言い訳。遅かれ早かれキャラバンは見つかってしまっただろう。200頭の駱駝とラバから構成 されていて、2倍の価格で 皇帝に売ってきたと金貨の小箱をゼノビアに示すエラベル。そんなものはいらないから、早く物資をもってこい、と抑えた怒りを見せ るゼノビア。あんたは10 日間をアウレリアヌスに与えたのだ。

 疲弊するパルミラ市内。貨幣が無意味になったとネルジェスの母がタイマとネルジェスに告げる。

 期待した食料補給が得られず、市民の頑張りも極限に達してきた事で、いよいよ最後の決戦を提案するザバダ。交渉を提案するゼノ ビア。

  宮廷を追放されたエラベルは、タイマを訪問する。カルタゴの女性はローマ人の攻撃に対して最後まで頑張ったの、とエラベルに問う ネルジェス。エラベルは、 マルコがあなたを選んだのがよくわかった、と答える。お嬢さん育ちの割にはこれまで負傷兵の看護によく頑張ってきたタイマだった が、いよいよ限界となり、 ある夜、夢にうなされたタイマは、心配して見に来たナルジュスと義母に向かって、ナルジェスに対しては、「身も心も与えたマルコ を盗んだ蛇女!」、義母に 対しては、「この白髪頭!」と罵ってしまう。ちょっと突然過ぎる展開ではあったが、夫と息子をタイマのせいで失った義母はついに 切れ、タイマに出てけ!と 叫ぶ。

 家を追い出されたタイマは、気がつくと勤務地である傷病兵を看護する治療場に来ている。そこで働く老婆に、「恋に落ちることは 病気だ」、と諭されるのだった。

 その頃、ヤマンのムンディル家では、ムンディルの妻カムラがついに嘔吐するのだった。



第十七話


  将軍ザバダが、エジプト国境の軍が破られたことを報告する。女王は、「ローマ人が流した嘘では?」と問うが、「将軍クラウディウ スが200人の捕虜ととも に昨日帰還した。砂漠の部族を待つつもりですか?」と告げると、女王は、「ペルシア王の支援を求める」と答えるのだった。

 アウレリアヌスからの使者が来る。降伏すれば、元老院が選んだ都市で暮らせるようにしよう。絹、馬、駱駝、財宝、金と引き換え にパルミラの政治的独立を保障する。と通告する。直ちにロンギヌスに返事を書かせる女王。

-降伏などありえない。失望と敗北を抱えてさっさと自分の土地に帰れ!

 返事を聞いたアウレリアヌスは鎖につないでローマに引きずっていってやる!と激怒。国境に兵を回すアウレリアヌス。

  家を放り出されたタイマは、傷病兵看護場で出会った老婆の住処(廃屋)で生活しているが、エラベルを呼びつけ、こんな暗くて息苦 しいところは出たい!とど こまでも我侭。タイマに詰め寄られて、エラベルは無理な脱出を決意。ローマ兵を買収し、なんとかうまく脱出して砂漠に出るのだっ た。ところが、休憩した場 所で追いはぎに遭遇。3人をやっつけるが、エラベルも胸を刺されてしまう。

 ヤマンでは、タイマの母カムラは伝染病で死の床にあった。そ して最期にカムラはムンディルに愛している、と告げて亡くなるのだった(これまでも度々、ムンディルは、妻とは、神判で結婚した ことから、「お前は俺を愛 しているのか?」と尋ねる場面があり(第9話など)、その度にはぐらかしてきたカムラが、最期に「愛している」と答えるこの場面 は感動ものでした。

  宮廷ではゼノビアが自らペルシアに行くと主張。アリアミ(元ヤマンの軍事訓練教官)を護衛につけるという。

第十八話

 ゼノビアは、なぜか部下にタイマと呼ばせる(タイマという言葉には意味があるらしい)。地下の秘密通路から砂漠へ出た女王は、 夜の砂漠を眺め、この砂漠が好きだ、とつぶやく。

 以前にも使者に来たマクシミリアン元老院議員(11話)がアウレリアヌウスのもとに来る。陥落後、パルミラの支配をマクシミリ アンに任せるとアウレリアヌスは約束していたらしい。

 タイマとエラベルようやくヤマンの実家に到着。妹ナジュダ、女奴隷サリダと再会する。父はカムラの死がショックで精神に不調を 障していた。タイマとエラベルもすぐにはわからず、二階の妻を呼びに階段を上がってゆくのだった。

 夜、哨戒に回るローマ兵に見つかり、ゼノビアは遂にローマ軍に捕まり、アウレリアヌスのもとに連行される。嘆く市民と幹部達。


第十九話

  女王が捕らえられたと聞き、悲嘆に暮れる高官達。俺が(護衛として)ついていかなかったばっかりに、と涙を流すザバイ将軍。女王 がカリスマ過ぎて腑抜けな 感じになってしまい過ぎな感じ。交渉にでむくや否やの議論を高官達がしている間に、城門の一つが陥落し、城門上のローマ楽隊によ るファンファーレが鳴り響 き、ローマ軍が入城してきてしまう。他の門でも激戦が続く。将軍ザバイ、ザバダも白兵戦に出撃する。

 王宮になだれ込んだローマ軍に宰相Shmisatiは頭から斬られロンギヌスは槍にたおれ、ザバイ、ザバダも混戦の最中、槍で 討たれるのだった(下。槍が命中し、崩れゆくザバダ将軍)。

  パルミラ陥落。パルミラ王座に座るアウレリアヌス。そこに捕われのゼノビラがパルミラの黄金で造られた鎖をつけられて連行されて 来る。ゼノビアに告げるア ウレリアヌス。「予告したように、パルミラの黄金を用いて作った黄金の鎖にそなたをつないでやったぞ。従属者に選択肢は無い。世 界に文明はひとつだ。それ はローマだ。一つの力と文明にひれ伏すのだ」と威圧する皇帝に、ゼノビアは、「我々はローマを必要としていない。だから従属者で はない。我らは我らの土地 と文明を持っている。お前の言う文明とな何だ?それは他の諸文明の上に構築された文明のことか?それとも廃墟と遺体の上に打ち立 てられた物のことなのか? お前の力はお前の文明だ。しかし力の文明と文明の力とは大きな違いがある」と否定する。
 皇帝は笑って、「お前の文明はお前の役に立っていないようだが」と指摘する。ゼノビアは、「それは歴史が決めることであってお 前が決めることではない」と言い放つのだった(下、黄金の鎖で縛られたゼノビア。金のアクセサリでは無いんです)。

 夜、玉座で祝杯を上げながら、アウレリアヌスはつぶやく。「予がローマに帰還する時、市民は黄金の鎖で繋がれた女王が従うのを 見るであろう。人々はそのことを言い伝え、歴史も伝えてゆくことになるだろう」
 皇帝は、翌朝、軍隊を率いてローマに出発することを命じ、パルミラには、カッシウス(アナヒムを捕まえた下士官。今や出世して いる)の一隊が残され、ローマ人元老院議員マクシミリアンがパルミラ長官として残されるのだった。

  ヤマンのムンディル家。次の季節には食べるものが無い。私は働くなんてイヤ!と文句が煩い末娘ナジュダ。タイマは落ち着いてい て、働くしかないでしょ。早 く寝ないと体力の無駄使いよ。と意外にたくましさを発揮している。ナジュダは、「そうだわ。エラベルさんが食料をきっと持ってき てくれるわ」と空想にすが るが、タイマは、「彼にはもうなんのメリットも無いのよ。煩わしいだけよ。あたし、彼にさんざん連れないことをしてきたし。きっ と来ないわ」と、現実的 (といより諦め気味)。来季の食料が無く、タイマは荒廃した農地を耕しはじめる。

 翌朝。25日以内に100金貨払えとタイマの家にローマ兵がやってくる。タイマが無理よ、と反論すると15日以内に変更されて しまう。払えなければ土地を明け渡して奴隷にでもなるんだな!と言い捨てて去る。
 ある日、タイマが農作業をしていると、Zaedaという若い解放剣闘士が仕事を探してやってくる。一緒に働いて収穫を共有する ことで合意。このあたりのノリは正に「風とともに去りぬ」のスカーレット。

  ゼノビアは、黄金の鎖に繋がれたままローマ軍とともに護送される。ゼノビアの監視兵は、絶食して何も食べないゼノビアを心配して 声をかける。ゼノビアにマ ダム、女王と呼びかけると、女王は、「私は捕虜であってあなたの女王では無いわよ」と答える。兵士は、他の兵が聞いていないこと を確かめ、「私はパルミラ 人の父とローマ人の母の子でローマで育った。いつもはアムリーシャスと、ローマ名でしか呼ばれませんがパルミラ名をアムリーシャ (Amresha)といま す」と告げる。ゼノビアは、「その名前は使わない方がいいわ。あなたの地位が危なくてよ」と、アムリーシャスと呼びかけるのだっ た。そこにローマ軍の隊長 が入ってくる。「まだ食べないのか」「私の戦争はまだ終わってないのよ」「その根性がローマにつく迄もつかな」といい置いて隊長 は去る。

  元は一介の隊長に過ぎなかったが、今やパルミラ治安維持軍司令官となったカッシウスの元にエラベルがやってくる。エラベルは、以 前カッシウスの隊に捕らえ られ、パルミラの補給物資を売却してパルミラ降伏の一因を作った間柄。エラベルは、「私はハーランの息子だ。私はパルミラ内外に 多くの手づるを持ってい る。私が役に立つ男であることはあんたも知ってるだろう。どうだい。親睦を深めようじゃないか。利益を分け合おう」とカッシウス に金を渡し、「取り敢えず あんたの兵士に、私の家に近づくのはやめるよう、命じてくれないか」と取り入るのだった。

 パルミラの地下の某所。砂漠の部族長アミー ル・クサーイ(第十一話息子のワエルが女王毒殺容疑者として審問された)が、重臣アブソスに、エラベルを介して武器と資金を調達 することを提案している。 アブソスは、エラベルは信用ならん裏切り者だ、武器と金よりも、今必要なのは信頼でき、解放の為に戦う兵士だ、と取り合わない。 そこに伝令がやってきて、 「アウレリアヌスは今朝アンティオキアを出発した。女王は今もハンガーストライキ中だ」との情報をもたらす。

 ナジュレスは家で病に臥せっていた。一時タイマと暮らしていた老婆は薬剤師でもあるようで(魔女や占い師といった容貌だけ ど)、ナジュレスを診にくるが、母親に、「もう手の施しようが無い」と伝えるのだった。


二十話

 女王のハンストに手を焼く皇帝。ねじ込んででも食べさせろ!といらつきを隠さない。いつの間にか女王に忠誠を誓うようになって いたアムリーシャは、逃亡を提案するが、女王は、殺して欲しいと求める。女王は髪が乱れ、絶食と疲労の為、表情が険しくなってき ている。

 パルミラの街路にはローマ軍に家を追われた市民が寝泊まり、エラベルは、税金が払えない為にローマ軍に家を追い出されたナジュ レス親子を探しだし、自分の家に連れて行く。単純な悪役ではないエラベルである。

  ローマ軍に通告された税金についてタイマは父親に相談するが、父は「母に相談しなさい。家計は母が管理しているから」と、もう空 想の世界の住人となってし まっている。ある日、ローマ兵が、土地を買いたい人がいる、と交渉に来る。「我々にも慈悲はある。税金を払えないなら、土地を売 却してはどうだ」との提案 だが、タイマは売るもんですか!とはねつける。そうはいってもお金は無いし、父も頼りにならないので、タイマは女奴隷のサイダに 相談。お金なんか盗まれ ちゃえば終わり、土地が必要というタイマ。とうとう、土地を買いたいという男が訪ねてくる。会うだけあってみましょうよ、という サイダに説得され、あって みると、その男はかつてのムンディル家の管財人、マルコスだった。マルコスを見て正気に戻り、激怒した父は憤激のあまり二階のバ ルコニーから落ちて墜落死 してしまう。埋葬しつつ決心したタイマは、マルコスと契約するふりしておびきよせ、刺し殺すのだった。首尾よくマルコスから金も 奪う。ローマ兵士が税金を 取り立てに来た時、マルコスから奪った金で税金を払おうとするが、案の定金の出所と、マルコスがタイマ家へ向かってから消息を 絶っていることを追求され る。あわや、というところで、エラベルがローマ軍の隊長ととともにやってきて、タイマの犯罪をもみ消させるのだった。タイマはエ ラベルに深く感謝し、「離 れていてあなたが大事だということがわかったわ」と告白。遂にエラベルの努力が実を結ぶ時が来たのかも。と思ったら、そうはいか ないのでした。

  パルミラの神殿では、祭司長が、ローマ人に「今日からローマ皇帝の為に祈るのだ」といわれ、実にあっさり「わかりました」と頭を 下げていた。下左が神像。 バール神だろうか。手前は拝火壇のようにみえる。右は祭司長。両眉がつながっている。ペルシア人の肖像遺物にも、両眉がつながっ ている像があった気がする (どうやらその後のローマ人の会話から、「女王は宗教に寛容」「火を崇拝している」「彼らはパルミラでは少数派だが強力だ」とい うセリフが出てくるので、 これは拝火教のようである)。


  タイマの妹ナジュダと、雇った元剣闘士ザエバ(Zaeba)がいつの間にか恋に落ちていることに気づいたタイマは、ザエバの過去 を問う。彼はアラブ人で、 剣闘士を長く務めた後解放されてヤマンに来たのだった。どこにでもいけたのに、何故ヤマンを選んだの?と問うタイマに、「同僚の マルコ、ズバイダの息子の マルコから聞いた」と聞いて驚愕するタイマ。この瞬間エラベルのことはタイマの頭から吹き飛んでしまうのだった。しかし。。。マ ルコそういばまたも登場し なくなっていた。12話で一度消え、16話で再登場したと思ったらいつの間にかまた消えていて、今の今まで忘れていた。本来なら 主役級の筈なのに、これで 完全に脇役となってしまったマルコ。そしてタイマは元のわがまま娘に戻ってしまう。マルコのこととなると、理性も辛抱も吹っ飛ぶ らしい。「一刻も早くパル ミラにいかなければ」と取り乱すタイマに、大人なエラベルは鎮痛な表情で受け入れ、妹ナジュダは、「どうかしてる!」と泣いて止 める。

 一方パルミラでは、モッキーモがアブソスに活動資金を渡す。

  女王を救おうとしていた護衛兵アムリーシャは、女王の意思をどうにも覆すことはできず、ついに女王の指示に従うことを決意する。 女王は、毒草を持ってくる ように指示するのだった。「あなたは私を殺すのではなく、救うのですよ。パルミラ人はあなたを称えはすれ、非難することなど無 い」と気遣う女王が痛々し い。


二十一話

 タイマは、妹ナジュダと解放奴隷ザエバの結婚を認め、二人に地所を任してマルコを探してエラベルとともにパルミラへ出発する。

 パルミラの地下では反乱軍を前に演説するアブソス。

  ローマへ凱旋する軍にとらわれの女王は、アムリーシャに毒草を持ってこさせて食べる。そしてアウレリアヌス帝を呼びつけ、その前 で、「私は自由に私の意思 で死ぬ。私は自由にお前の元から去ることができるのだ」と息絶え絶えに最期の言葉を残して死ぬのだった。自分の生死を最期まで自 分で制御しえたことで、ア ウレリアヌスの支配に服しているわけではないことを女王なりに証明したのだった。皇帝は人払いをし、「何故だ?何故戦争など始め たのだ?ローマの勝利を認 めるのがそんなに嫌だったのか?」と遺体を前に嘆くのだった。

 女王の死がパルミラの地下抵抗組織にももたらされ、アブソス、モッキーモ達は大きく肩を落とすのだった。

 エラベルとタイマは、パルミラの奴隷商人の元へゆきマルコを買収し、釈放させることに成功する。マルコは妻と義母がエラベルの 元で暮らしているなど、状況の激変に戸惑うばかり。

 マルコ、夜な夜なローマ兵を暗殺してまわる。これはアブソスの地下抵抗組織にとってはローマ軍の監視強化となり、ローマ軍に協 力することで富と身分を保証されているエラベルにとっても迷惑なことなのだった。

  これは本当に権威主義体制のシリアで製作されたドラマなのだろうか。中国のドラマもそうだが、歴史ドラマでありながら、共産党独 裁を揶揄する作品は結構あ る。本作が製作された、1996年は、ソ連崩壊後の米国による世界一極支配全盛期に製作されているとうことで、当初は、ローマ= 米国 or ロシア 、ゼノビア・パルミラ=シリア という図式で受け止めていたのだが、ひょっとしたら、ローマ=シリア政府 という側面もあるのかも知れない。略奪 し、搾取するだけが目的の支配者ではなく、それなりに安定と秩序を目指す支配者もいる。本作のアウレリアヌスは、”ローマの支 配”を普遍的秩序、普遍的文 明と見なし、求めているのはパルミラの服属であり、破壊や奴隷化ではない。「支配を受け入れれば平和を与える」というアウレリア ヌスには、何故ゼノビアが 戦争を起こし、自殺してまで抵抗したのか、どうしても理解できないのだった。この”支配者側の価値観、世界観”と、”それをどう にも受け入れられないゼノ ビアの自由の意思”は、お互いに理解することはできない。これはもう価値観の戦いと言える。

 パルミラ側に好意的に描かれているものの、 「暴力・支配・抑圧・収奪・隷属の象徴としてのローマ」という単純な図式ともなっておらず、よくよく考えると女王の戦争の大義 も、ローマと同程度のもので あることに気付かされる。悲惨なのは、パルミラとローマの間で右往左往するヤマンのような存在であるとはいえ、女王の戦争は、市 場を広め、貿易センター立 国となる期待をヤマンに抱かせ、同時にそれまで必要のなかった軍隊の創設が戦争を招き寄せる。ムンディルの妻、カムラは、第三話 で「家庭を壊してまで軍を 建設してなんになる」と夫に愚痴り、恐らく妻に相談したら、反対されたであろう、新規事業に手を出し、(結果的に騙された形と なったとはいえ)失敗する。 一見妻カムラの保守的で堅実な姿勢が正しいようにも思える演出だが、これも日常生活と秩序を預かる立場の価値観であり、新たな チャンスが既存秩序を脅かす という夫ムンディルに象徴される価値観と対立するものの、どちらが正しいという話ではなく、ヤマンが一方的に大国に翻弄されるだ けの100%被害者として 描かれているわけでもない。様々な価値観と利害、欲望を持つ人々がせめぎ合うよくできた作品であるように思えます。

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