2020/Mar/08 created
今年読んだ書籍ベスト(2010-2015年)

 
2015年面白かった書籍と映画と役に立った書籍など

 毎年やっている一年間の読書・映画の紹介記事の目的は、ロングテールです。面白かったり役に立った映画や書籍 で、あまりネットでも情報のない作品を紹介することが主目的なわけです。マイナーな本や映画が誰かの目にとまって、少し でもご参考になるなり、あわよくば出版社や製作者の売上に貢献し、今後のマイナー業界維持の回転資金になれば、などとい う意図があったりしているわけです。しかし昨年はまったく不作でした。2014年を回顧した昨年の記事では、「今年は並 べてみても、あまりめぼしいものがありません。今年はこの記事をやめようかとも思ったのですが」などと書いていました が、昨年は更に不作となりました。読んだ本は20冊、観た映画は30本と、例年の半分くらいしかないこともありますが、 少ない割りに良作も多かった昨年と比べると、今年はことごとく外れ(映画の本数が減った分、漫画が増えてますが)。金曜 の夜に大規模書店でみつけてたまたま購入した新刊書が、大変面白くて興奮し、その晩ファミレスで一気読み、なんていう至 福のパターンは1度だけでした(面白そう、と購入した本はあったのですが、自宅最寄の駅につくまでにつまらないことが判 明してしまい、直帰してしまう、というパターンが多かった)。とはいえ、ご紹介したい書籍がないわけではないので、書い てみました。
 昨年は、ここ数年立て続けに出ている、ローマ帝国衰亡論関連書籍を続けて読みました。

 南川高志『新・ ローマ帝国衰亡史』(2013年)、ベルトラン・ランソン『古代末期 ローマ 世界の変容』(2013年)、ブライアン・ウォード・パーキンズ『ローマ帝国の崩 壊 文明が終わるということ』(2014年)、ジリアン・クラーク『古代末期のローマ 帝国: 多文化の織りなす世界』(2014年)、井上文則『軍人皇帝のローマ  変貌する元老院と帝国の衰亡』(2015年)。

 ローマ帝国がなぜ衰亡したのか、そもそもローマ帝国は滅亡したのか?という論争は、産業革命がなぜ起こったか、の原因 論同様長年議論されてきているテーマであるにも関わらず、100年後でも結論がでないかもしれないような壮大なテーマで す。そんなわけで、上記書籍の各者それぞれにいろいろな衰亡論を唱えていて興味深いものの、過去の200以上ある原因論 に新論が加わった程度なので、現状の衰亡論研究の両極論を端的に紹介した『ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ』 と『古代末期 ローマ世界の変容』だけ読んでおけばとりあえず十分、というのが私の感想です。『ローマ帝国の崩壊 文明 が終わるということ』は、USDでたったの13ドルであるにも関わ らず、邦訳が3800円もするのが少し受け入れられず図書館で借りて読んだのですが、結局新刊を購入しました。大変有用 です。ただし、著者自らが述べているように、この本はあくまで試論であって、ローマ帝国衰亡論に決着をつけるような論文 ではない点に留意する必要があるものと思います。本書は、昨年週末ファミレスで一気読みした数少ない本です。
 関連pdfとしては、『ローマ帝国の崩壊』の訳者南雲泰輔氏の以下の論説も有用でした。

英米学界における「古代末期」研究の展開
<書評>Gillian Clark, Late Antiquity: A Very Short Introduction. Oxford: Oxford University Press, 2011

 関連書籍として『ローマ皇帝群像4』 も読みました。あまり期待していなかったのですが、意外に面白くて毎晩一章づつするすると読み終わった書籍です。

 一気読みに近かった本がもう一冊あります。

 『ロシア原初年 代記を読む』です。これは金曜夜新宿ブックファーストで見つけたのですが、1万7000円とあまりに高額な ので、翌日国会図書館で内容を確認したときに、冒頭150ページを一気読みしてしまったというもの。そうして2週間程悩 んだ挙句、結局購入したというものです。近年ロシアで刊行された、全五巻のロシア語以外のキエフ公国に関する史料集成を 活用し、「ロシア原初年代記」を読み解く、という内容です。1000頁もある大著で、現在300頁までしか読めていない のですが、以前ご紹介した、ヤロスラフ賢公の娘、アンナ・ヤロスラヴナを扱った1978年の旧ソビエト映画『フ ランス王妃ヤロスラヴナ』(2011年の観た映画ベスト1)の元となったフランス語史料が訳出されていたり と有用です。この本、読み進めたいのですが、平日に持ち歩くのは論外な重さで、喫茶店やファミレスにもっていくのも重た いのでついつい避けてしまい、寝る前にベッドで読むにも手首が辛い重さなので、今年も多分読み終わらない予定です。

 高額書籍では、もう一冊ご紹介したい本があります。三佐川亮宏著『ドイツ史の始まり―中世ローマ帝国とドイツ人のエ トノス生成』です。12960円します。750頁もある上、基本的には、著者が訳書を出したハインツ トーマス著『中世の「ドイツ」―カール大帝からルターまで』 (2005年) と同分野の内容で、「ドイツ」という概念はいったいいつ成立したのか?という「自己認識と他者認識」「世界観や概念・歴史認識の生成」を扱った研究書で す。前者は、後者の1.5倍を越える厚さで、付録の図版が豊富なので、後者よりも前者の方が有用性は飛躍的に高そうで す。私は、後者を、出版されたわずか3ヶ月後に5000円で手に入れたことから、著者には大変申し訳ないのですが、「ド イツ史の始まり」に1万円以上は出せないなぁ、という気分になってしまっているので、ここでご紹介してどなたかが購入さ れ、そしていつか中古市場に半額くらいででてくれないものだろうか、などという下心から紹介記事を書いてみました。

 次の書籍も全部読んだわけではなく、ローマ帝国の部分の100頁程を読んだだけなのですが、有用だったのでご紹介した いと思います。アンガス・マディソン著『世界経済史概観 紀元1年〜2030年』 です。この人、ローマ帝国を構成する現在の構成国別に、ローマ時代の一人当たりのGDPを算出している(こ のxls)のですが、いったいどういう計算でそうなるのか?にずっと興味があったのですが、その手口を遂に 知ることとなり、大変有用でした(半ば予期していたものの、それ以上の内容に唖然とした、という意味で)。

 ローマ・ビザンツ関連で面白かった、或いは有用だったのは、あとはpdfと学術雑誌掲載論説で、以下のものがありま す。

・ギリシア「古典期」の創造−ローマ帝政期におけるギリシア人の歴史意識−
 (長谷川岳男 西洋史研究 2003年vol32)
・ローマ帝政前期における都市参事会員と都市政務官職−参事会の変質を巡ってー
 (新保良明 西洋史研究 2002年 Vol31)
・ローマ頌詩 (アリステイデス Ch. A. Behr, P. Aelius Aristides , TheComplete works VolII, Leiden 1981 p73-97)
・「コ ンスタンティノス一代記」(pdf)「メ トディオス一代記」(pdf)の邦訳
・コンスタンティヌス七世「帝国統治論」(のロシア地誌の部分の邦訳)
・柿沼陽平  『漢書』をめぐる読書行為と読者共同体 : 顔師古注以前を中心に
 ( 帝京史学 (29) 2014年)
・インド・イスラーム社会の歴史書における「インド史」について(pdf)
 ( 真下裕之 神戸大学文学部紀要, 38: 51-107 2011-03)

 最初のは、帝政期のギリシア人が、古典期のギリシアをどのように見ていたのか、という、上記「ドイツ史のはじまり」同 様「概念や歴史認識の生成」「世界観の形成」を追っていて、私の好きなテーマです。
 二番目は、あまり史料のないローマ帝国の地方行政の史料とその研究。やっと、ローマ帝国の地方行政の(数少ない史料か ら現在わかる限りの)詳細と、その史料を知ることができました。

 三番目のは、私のもっとも興味のある2世紀の、ローマ帝国を称えた頌詩。昔、『ローマ人の物語9巻賢帝の世紀』に掲載 されていた部分訳で知って以来、ずっと全文を読みたいと思っていたもの。後漢の王充が漢王朝300年の支配を称えた『論衡』の「宣漢論」と対をなす作品だと思っていて、いつの日か、全訳と両者の比較記事を書いて みたいと思っているものです(が、私のスキルでは修辞の効いた英文は読むのがせいいっぱいで、余程時間とやる気があ る時でないと、つまり当面は翻訳など無理そうです)。入手に関して少々思い出深いこともあり、一生記憶に残りそうで す。

 
柿沼陽平氏の論説は、「ギリシア「古典期」の創造」と似たような、過去の世界観に関わる論説。唐代以前は、「史記」 はあまり評価されず、一方、知識人の間で唐代まで巨大な影響力を持ち続けた『漢書』が、実際誰にどのように受け入れ られていたのか、について書かれています。

 最後のも同様で、従来「歴史書」を持たなかったインドにおいて、イスラーム期に著された「インド史」は、いったい どのようなインド古代歴史像を持っていたか、というもの。マハーバーラタやリグ・ヴェーダなどの神話が中世イスラー ム史に直接接続している近世初期インドの歴史観を知ることができ、有用でした。

 他に面白くかつ有用だったのは、経済史関連の以下のもの。

・Ho Ping-ti ,『Studies on the Population of China, 1368-1953(何炳棣『1368-1953中国人口研究』)1959年
・澤井一彰『オスマン朝の食料危機と穀物供給』2015年(感 想
・柿沼陽平『古代中国の貨幣−お金をめぐる人びとと暮らし』2015年(感 想
・柿沼陽平「戦国時代における楚の都市と経済」
  (東洋文化研究 / 学習院大学東洋文化研究所 編 (17) 2015年3月)

 二番目の著者は、『オスマン帝国史の 諸相』掲載論文ではじめて存在を知り、その後国会図書館で読める論説は全部読んでいたのですが、既存論説を 下敷きにしているものの、倍以上の書き足しがあり有用でした。穀物供給から見た1560-1590年のオスマン朝経済史 ですが、16世紀後半の気候変動もオスマン史料から再構成していて、ブローデル『地中海』のオスマン側を描いた内容と なっています。

 柿沼陽平氏『古代中国の貨幣』は、昨年唯一金曜夜購入してファミレスで一気読みした書籍です。「貨幣からみる戦国秦漢 代の社会経済」という題名の方がふさわしい内容でした。西洋の場合、古代ギリシアというとエーゲ文明やミノア文明は入ら ないのに、「古代中国」というと通常殷周代も入ってしまうので、欧米でいうところの古典古代(ギリシア・ローマ)を一言 で示すような用語が古代中国にもあると良いのですが。。。私は10年程前から戦国楚に興味を持っていて、以前も楚の言語や文字、都の訪問記(紀南城郢城)、湖北省博物館の楚の文物の紹介記事を書いてきました。例 によって通史的興味ではなく、興味の対象は言語や文物、建築や経済などですが。。。ローマが秦に、ギリシアが三晋、楚が カルタゴ、巴蜀がガリア、燕がマケドニアに相当する、というイメージで楚に興味を持っているといえましょうか。今回楚国 の経済に関する記事を知ったので、上記「戦国時代における楚の都市と経済」を読み、これで柿沼氏の研究に興味を持ったの で『古代中国の貨幣』を読んだというわけです。今は、pdfで公開されている柿沼氏の博士論文(こちら)「中 国古代貨幣経済史の研究」を読んでみたいと思っています。取り合えずこの人の論説を、図書館に行って5本ほど複写してき たので、それらもそのうち読む予定。

 書籍と論説/pdfはこんなところです。他に新書や小説をいくつか読んではいるのですが、つまらなかったことをくどく どと書くのも面倒だし生産性がないので、本の紹介は終わります(あえてあげるなら、小説では、津村記久子『ポースケ』 が面白かった。ただし完成度が高すぎて寓話のように思えてしまったのが難点。くどくどかくと面倒といいつつ一冊あげる と、恩田陸『ブ ラック・ベルベット』は酷かった。トルコの話を書いているのに、まったくトルコの香りがしない。登場する場 所が旅行ツアーの定番ルートであることから、作者は現地観光取材をしたのだと推測されます。日本人がイスラム圏に初めて いけば、まずまちがいなくアザーンとチャドル姿の女性が印象に残らない筈はないのに、その記述がいっさいなし。『光の帝国』 は面白かったのに)。

 忘れてた、これはあげなくては。
アジア経済史 研究入門』。当初、中身を確認せずともこれは買おう!と思っていたのですが、念のためと内容をちょっと見て みてよかった。企画に無理があったのでは?本文は基本的に後半2/5を占める論文や論説一覧の紹介だけなので、本書が対 象としている各地全部の経済史に興味がある人にとっては、本文の内容があまりになさすぎ、逆に後半の文献一覧に掲載され ている論文や論説を読め、と言われても詳細すぎるでしょう。一方、各地域の個別の経済史に興味がある人にとっても、前半 の本文は内容が無さ過ぎかつ古すぎ(例えばローマ帝国2頁、ビザンツ帝国3頁しかなく、ローマ帝国の経済では、ロストフツェフ (1926)、チェンバース (1959)弓削達 (1984)ぐらいしか出てきません。「組合国家論」って、いくらなんでも古すぎるのでは?「ローマ経済の考古 学」(1991)は最低でも出てこないとおかしいのではないでしょうか。1995年刊の「西洋古代史研究入 門」にさえ登場してるのに。ビザンツでは、西村道也氏の博士論文「ビザンツ帝国の財政と金貨(8~12世 紀) : 土地税徴収法を中心に」も無かった気がします(後半の文献一覧にはあるかも)。後半も、もっとも直近の評判のよい研究書一冊買えば(各地域の経済史に興味 を持っている人なら見当がつく筈)、その参考文献一覧から辿れる程度の論文や論説の紹介なので、中途半端な気がします。 図書館には向いていると思いますが、これを個人で所有したいニーズってどれほどあるのだろうか)。多少出版年が古くて も、各地域別の研究史入門を購入し、そこに登場している経済史の最新成果物をチェックした方が断然まし、だと思います。
 
 昨年は、生まれて初めて公開講座というものを受講してきました。12月12日に池袋のオリエント博物館開催された『「古代オ リエントのコイン(1):サーサーン朝ペルシアとその境界域のコイン』です。500円の入場料で研究者の方 に質問まで出来て非常に有用でした。事前登録制とか、数回シリーズの高額セミナーだと、全部参加できるかどうか見通しが つかないこともあって、これまでこの手の講座に参加したことがなかったのですが、事前登録なしの一回講座で、こんなにコ ストパフォーマンスの良いものならば、またいつか参加してみたいと思った次第です。


 以下面白かったコミックと映画です(今回はエンタテイメントとして一括)

1.幻影博物館(冬目景)
2.マホロミ(冬目景)(感 想
3.ACONY(冬目景)
4.Yo, la peor de todas(歴史映画:感 想
5.応天の門(菅原道真がホームズ、在原業平がワトソンのクライムミステリ)
6.少女終末旅行(終末SF)
7.イエスタデイをうたって(5巻以前)(冬目景)
8.ハルロック(メイカーズムーブメントもの)
9.オリエント急行殺人事件(三谷幸喜版)
10.アメリカン・スナイパー

 ごらんの通り、昨年は冬目景ブームでした。2014年の秋に「マホロミ」を知るまで作者も作品もまったく知らなかった のですが、昨年、「黒鉄」と「Luno」以外刊行されている作品は全部読んでしまいました。原画の展示会まで行ってしま いました。それどころか、「イエスタデイをうたって」は、小田急線梅が丘あたりの雰囲気がよくでているように思えたの で、梅が丘周辺の散歩にまでいってしまいました。私は作家読みということをしないのですが、気に入った「マホロミ」が4 巻で突然終わってしまったのには哀しくなってしまい書評を読んでみたところ、この作者は本作に限らず最後の終わらせ方に 毎回議論のある方だと知りました。そこで「マホロミ4巻」をどのように評価すべきか、参考にするために結末に議論のある ものを幾つか読んでみた、というわけですが、はまってしまいました。

 「応天の門」の影響で、大学時代に読んだ土田直鎮著『王朝の貴族』 を30年ぶりに読み直しました。初版は1965年ですが、今もって有用な価値の高い名著だと改めて思った次第です。『王 朝の貴族』の主要史料として利用されている、藤原道長時代の同時代第一級史料「小右記」が、土田氏の勤めていた東京大 学史料編纂所のデータベースから読めることがわかり(原文は漢文)、知りたい事件について原文がネットで検 索することができて喜んでいたのですが、昨年10月に、現代語訳(こちら) が出てたのを見てまた驚きました。

 「ハルロック」は、現在のメイカーズムーブメントを扱った漫画ですが、私は、1990年代から2000年代の途中くら いまで、商用インターネットの黎明期とLinux、オープン・ソースの世界で、この漫画のような雰囲気の世界にいたな あ、と冬目景的ノスタルジーに浸りました。人生まだ終わったわけではないので、もうひと勝負できないか、と刺激を受けた 本。

 歴史漫画では、「ヒストリエ9巻」「乙嫁語り8巻」も相変わらず好調でした。「乙嫁語り7巻」はペルシア文化圏以外の 人々とっては題材が難しかったように思えました。しかし独特な社会のありようを漫画で描こうという作者のチャレンジャブ ルな姿勢には敬意を表します。8巻のあとがきで、念願の中央アジア旅行が実現し、水路だの天井だのを撮影しまくってしま う気持ち、凄くよくわかります。生活風景というのはあまりに自明のこと過ぎて、観光写真や学術資料にはあまり載ってな かったりするんですよね。

 歴史ものでは、古代ローマ歴史ミステリ『剣闘士に薔薇を』(感想) は、面白くは読めましたが、期待した程ではありませんでした。

 昨年は最近の話題作のSF映画はそれなりに見ました。しかしどれも失望ばかり。トゥモローランド、PSYCHO- PASS、インターステラー、ジュピター、オール・ユー・ニード・イズ・キル、シグナル、マッドマックス4、ターミネー ター5、火星の人(予定邦題オデッセイ)、スターウォーズ7。。。。1935年ソ連製作の「人間機械 感覚の損失」の方 がまだ面白かったかも。マッド・マックス、ターミネーターのシリーズは、私にとってそれぞれ「2」が最高傑作だというこ とが再確認できた次第。スターウォーズもこの感じではEP1-3が私にとってのスターウォーズだということになりそう。 各作とも駄作というわけではないのですが(火星の人の前半はよかったし、映像だけならインターステラーも良かった、MM のバトル映像は凄かった)、二度と視ることはなさそう。

 期待した「ソロモンの偽証」もつまらなかった。「アメリカン・スナイパー」は期待通りでしたが、期待以上でもなかっ た。シリア人スナイパーとの一騎打ち場面がなければもっとよかった。あれがなければ、現実と錯覚してしまう程の印象が 残ったものと思うのですが、あれで、単なる「映画」の枠に戻ってしまった感じ。

 歴史映画で良かったのは、前々回ご紹介した「Yo, la peor de todas(ソル・ファナ・イネス)」くらい。来月公開予定のローマと漢の邂逅映画「ドラゴン・ブレイド」は悪くは無かったものの、「ローマ」はあまり重 要ではなく、西域三十六カ国とシルクロードの協和というメッセージ性が強すぎていまひとつ。パルティア女王が登場してい る、という意味では貴重な作品です。

2015/Dec/31

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2014年役に立った歴史関連書籍・論説・PDF

 昨年読んだ歴史関連の著作物は、書籍よりも雑誌論文やpdfが多いので、記事を分割してみました。昨年は基本的に数量経済 史に繋がるものばかり読んでいたようです。昨年は、ローマ帝国の人口推計とGDPの数値の根拠とロジックや、ビザンツ帝国と オスマン朝の財政額の史料などを知ることができ、有用でした。そういうわけで、数量経済史関連のものが多くなりましたが、以 下、昨年役立った書籍やPDFについて紹介したいと思います。


【1】歴史人口推計関連

1.Atlas of World Population History (Hist Atlas) Colin McEvedy著(書籍)(感想
2.ウォルター・シャイデルの古代ローマ人口推計関連論説pdf
 「Roman population size: the logic of the debate(2007年7月)」(PDF)(要約記事
 「The Roman slave supply(2007年5月)」 (PDF)(要約記事
3.プトレマイオス地理学人口推計に用いた場合の記事
4. A new perspective for the demographic study of Roman Spain. CARRERAS MONFORTC著(PDF)(要約記事
5. 「コンスタンティノープルの人口と生産機構」 米田治泰著「西南アジア研究 No21 p31-48(人口推計紹介記事
6.古代ギリシャ・ローマの飢饉と食糧供給(書籍) ピーター ガーンジィ著

 これらの書籍・PDFのお陰で古代ローマの人口推計の根拠については概ね理解することが出来ました。要約をサイトに記載す ることもでき、一応古代ローマの人口推計については、私の中ではだいたい終わった感じになりました。


【2】財政推計値関連

1.State, Land Tax and Agriculture in Iraq from the Arab Conquest to the Crisis of the Abbasid Caliphate (Seventh-Tenth Centuries) Michele Campopiano著(PDF)
2.The Third Century Internal Crisis of the Abbasids DAVID WAINES著(PDF)
3.初期イスラム期のエジプト税制  森本公誠著(書籍)
4.中国歴代戸口、田地、田賦統計 梁方仲著(書籍)
5.The Government of the Ottoman Empire in the Time of Suleiman the Magnificent(1913年) Albert Howe Lybyer著(PDF)
6.「A History of the Byzantine State and Society(1997年)」 WarrenTreadgold著(PDF)

 上記1-3は、アッバース朝のイラクとエジプトの財政額推計に関する論文です。非常に有用だったので今年中には要約を書き たいと予定しています。


【3】 GDP推計関連

1.「古代帝国における国家と市場の制度的補完性について(1)ローマ帝国」 明石 茂生著(PDF)
2.「古代帝国における国家と市場の制度的補完性について (2) 漢帝国」明石茂 生著(PDF)
3.The size of the economy and the distribution of income in the Roman Empire Walter Sheidel(PDF)
4.The standard of living in ancient societies : a comparison between the Han Empire, the Roman Empire , and Babylonia Bas van Leeuwen, Reinhard Pirngruber, and Jieli van Leeuwen-Li(PDF)

 これらは、ローマ帝国、漢王朝、パルティアのGDPや所得に関する研究です。

 数量経済史、或いは数値を用いた歴史分析は、どういう史料があって、どういうロジックでその数値が導き出されている のか、という点が重要なのであって、結果の数値は、今後の史料とロジックの変化によって、いくらでも変わる可能 性のあるものです。重要なのは史料とロジックであって、結果の数値自体にはないのですが、結果の数値が一人歩 きをしてしまう危険もまた大きいことも確かなので、この点が数量経済史が嫌われてしまう要因でもあるようです。私の本業の IT業でも、同様の問題を抱えています。IT業界では、「新規導入のサーバーの性能が2倍になるから、システム全体の性能が 2倍になる、業務効率が2倍になる」などという宣伝文句や、美しいEXCELグラフに溢れています。私の見たところ、欧米の 顧客は、数字の読み方に慣れているので、業者側が提示する数値について、どういう根拠とロジックで、業務効率がその倍率にな るのか、と徹底的に突いて来る傾向が感じられますが、日本人は、こうした点を突っ込む意識がまだまだ弱く、本番稼動直前の総 合性能試験で性能問題が発覚し、「おたくの営業やエンジニアがn倍の性能になると言った、言わない」というトラブルに発展す ることが結構あります。「どんな数字も疑う」「根拠とロジックを突き詰める」という習慣が、欧米に比べ、日本ではまだ意識が 低く、場合によっては、数字すべてを胡散臭いものだとして、拒絶してしまう、という、極端な方向にいってしまう傾向さえ感じ られることがあります。そういう極端に陥ることなく、数値が構成・加工されてくる背景や意図をじっくり追及する姿勢が、IT 業界や歴史学だけではなく、生活のあらゆる面で、より以上に必要となってきているのではないかと思うのです。

 私は、こうした観点から、数量経済史で登場する過去の帝国や王朝の人口数や、GDPや財政数値などについて調べています。 結果の数値を知りたいということよりも、どういう史料があって、どういうロジックで数値が導き出されているのか、を知りたい 為に行なっています。数年前までは、私も、近代欧米以前の地域の数値は、「百万のマルコ」的に、きりのいい数字を並べただけ で、まじめに検討するような内容では無いと考えていました。しかし一方で、帳簿の詳細なつけ方が明らかになったり、帳簿自体 が発見されたり、農地区画の遺構や、発掘された倉庫の大きさなど、多様な断片的な史料から、それなりに信頼できる数値もある のではないか、とも感じられるようになりました。


【4】 農業生産性(収穫倍率)関連

1.古代ギリシャ・ローマの飢饉と食糧供給(書籍) ピーター ガーンジィ著
2.ローマ農業の生産性 馬場典明 財団法人古代学協会『古代文化』 Vol49(1997年)
3.前六−後三世紀ガンジス川中流域の稲作法−インド古代農法の歴史的位置−三田昌彦 名古屋大学東洋史研究報告16号 1992年
4.古代インドの農業 岩本裕 (『古代史講座』学生社弟8巻「古代の土地制度」第3章)
5.古代インドの農書『クリシ・パラーシャラ』について 岩本裕 『古代文化』Vol17-1 1966年
6.世界農業史上における古代パンジャープ 早地農業の位置について 飯沼二郎 『人文学報』 20号 京都大学人文科学研 究所 1964年
7.古代シュメールにおける農業生産−ラガシュ都市を中心として− 前川和也 『オリエント』Vol9 2-3 1966
8. 収穫倍率についての覚書 森本芳樹(PDF) (中世西欧の収穫倍率)
9..日本古代における農業生産と経済成長:耕地面積、土地生産性、農業生産性の数量的分 析 高島正憲(PDF)


 これらの論説を読んでいてわかったことは、各時代や地域の農業生産性を比較する場合、@一定の区画における播種量を考慮せ ず適当にまいた土地の生産性と、A土地の範囲も既定せず、種の量も特に規定・限定せず、播いた種に対する収穫生産性と、B一 定の区画において、一定の種を播いた場合の生産性、C優良地の生産性 Dある地方全域の平均生産性 の5つが混同されている ことが多い、ということでした。例えば、古代シュメールの76倍という生産性は、BとCに該当し、中世西欧の4-5倍という 倍率はAとDに該当する、ということなどです。西欧でCの条件の土地(ベルギーなど)であれば、20倍の倍率であることもあ るが、西欧全体の平均では4-5倍になる、古代ローマにおいて、イタリア半島の優良地であれば、10倍、平均すると4倍、区 画を既定せず、とにかく生産性の高い土地に播けば76倍を記録することもある、というようなことです。これらの内容の要約に ついては、次回掲載したいと思います。


【5】 その他

1.Hamza al-Isfahani and Sasanid Historica Geography(PDF)
2.エウトロピウス『首都創建以来の歴史』(PDF)
3.プロコピオス『秘史』(PDF)
4.ケウカメウス『ストラテギコン』(PDF)

1と2は、パルティア・サーサーン朝の史料として論文などによく出てくるもので、かねがね読みたいと思っていたものです。僅 かな情報ですが、この史料にしか書かれていない内容が多く、大変貴重です。読むことができて幸運です。

3は、あまりにも有名な作品なので説明は省きますが、高校生くらいの頃、ビザンツ帝国に興味を持ち出した頃に、肯定的な興味 を持っていたユスティニアヌスとテオドラのイメージが、思い切り悪くなりました。著者の偏見が思い切り入っているとはいえ、 これでもか、と胸の悪くなるような記載が続くので、肯定的に解釈しろと言われても無理があります。

4は、11世紀のビザンツ帝国マケドニア朝の貴族ケウカメノスが息子に残した家訓です。井上浩一氏は、1986年に(上) (中)と訳したのに、(下)はいまだに公開されていないのが残念です。これも結構暗澹とした世相と世界観が描かれているので すが、当事のビザンツ人の意識を知ることができ、非常に有用でした。現在の日本でを世知辛い世の中だと考えている方にとって は、共感できるところの多い処世訓だと思います。

2015/Jan/08


2014年、面白かった書籍と映画


  最近の大手書店の人文学系書籍・ビジネス本売り場はピケティ一色という感じですね。グローバリゼーションか、反グローバ リゼーションか(世界経済のトリレンマ論も含め)、と混迷を極めていた欧米日論壇を土台から揺さぶり、方向性を変えてしまい そうなくらいインパクトがありそうな印象を受けます。中国でも翻訳が出そうな気がしますが、イスラム圏ではどうなのでしょう か。議論や研究が深まり、データが精査され、世界的に新たな方向性が見えてくると嬉しいですね。

 さて、今年の回顧です。今年は映画を殆ど見ませんでした。全部合わせても20本程度でしょうか。サウジ・アラビアのドラマ 『ウマル』や『インドの発見』は1本45分くらいの連続ドラマなので、これらドラマを2本で映画一本分と換算すれば、映画 30本分くらいにはなるので、合計すれば50本相当と、一応のところ、例年とあまり変わらない数にはなりますが、今年は並べ てみても、あまりめぼしいものがありません。今年はこの記事をやめようかとも思ったのですが、取り合えずここ数年の習慣でも あるので作成してみました。

【映画】

1.ゼロ・グラビティ
2.アルゴ
3.英国王のスピーチ
4.終戦のエンペラー
5.ローマン・ミステリーズ(紹介は、こちら@AB
6・(愛と哀しみのボレロ)
7.(イントレランス)

※ ( )のものは、再視聴したもの

 今年力を入れて紹介した作品としては、『ウマル』や『インドの発見』などがあるのですが、ベストにあげたい程の内容では (私にとっては)ありませんでした。今年の海外歴史ドラマの話題といえば、オスマン朝のスレイマン大帝の治世を描いたトルコ のドラマ『壮麗なる世紀』が完結したことでしょうか。スレイマンの死をもってドラマが終わるので、このドラマの第一話から最 終話まで生き延びて登場し続けた登場人物は、側室のマヒデブランと宦官のスンブル・アーだけという、登場人物の熾烈な生存競 争が繰り広げられたドラマでした。第四シーズン(104-139話)については、取り合えず最終回の139話だけ視聴しまし た。第三シーズンまでは、1年平均五話がかりで進んでいたのですが、最終回では1561-66年の間が、回想場面として進む など、なんとなく、製作陣側では第五シーズン以降も見込んでいたものの(恐らく、視聴率が悪いか何かで第四シーズンで終了と なってしまったので)、最終回に詰め込んだ、という印象を受けました(その最終回は、なんと2時間37分もあります)。同じ くオスマン朝を扱ったポーランド映画『神聖ローマ、運命の日』は、私にとってはイマイチでした。

 「愛と哀しみのボレロ」は、高校生の頃、「イントレランス」は大学生の時に、それぞれ映画館で視聴した作品です。ほぼ30 年ぶりに視聴しました。当時、特に「愛と哀しみのボレロ」には感動し、当時はロードショーであっても、入場入れ替えは無かっ たので、180分もの長尺作品であるのにも関わらず、映画館で2度続けて見るほど感動した作品だったのですが、今回の再視聴 は、dvdだったこともあるのかも知れませんが、当時ほどの感動は得られませんでした。どうしてなのか、いろいろと考えてい るところです。理由が明確になったときには、そのうち記事に書くかもしれません。ただ、ジョルジュ・ドンの踊るラストのボレ ロの場面は、当時受けた感動そのまま、素晴らしかった。文芸作品がお好きな方は、是非一度はご覧になることをお奨めいたしま す。

 他に印象に残った作品としては、『カビリア』、『白ゆき姫殺人事件』、『リダクテッド 真実の価値』などがあります。「リ ダクテッド」は、ドキュメンタリーで十分な内容でもあるので、今更米国の恥部を映画で見るのも、ということで興行収入があが らなかったものと思われますが、それにしても5億円の制作費に対して、興収がWWで僅か7千百万円程度とは残念です。期待し ていたスペイン映画『ブランカニエベス』は後味の悪さが残念な作品でした。期待して観た『ハンナ・アーレント』も期待が大き すぎたからか、いまひとつでした。逆に気晴らしに観た韓国映画『ザ・タワー 超高層ビル大火災』は楽しめました。ドラマでは、大島弓子原作宮沢りえ主演の『グーグーだって猫である』がよかった。

 視聴した作品数が少なくても、ベストに入るのは粒そろいだったりすると嬉しいのですが、今年は全体的に低調でした。今年の ベストに入れたとずっと覚えていそうなのはゼロ・グラビティとアルゴくらいかも。人生50年近くも生きているからなのか、実 際の事件や近い歴史をネタにした作品の場合、どうしても現実の方が先行してしまっている印象がぬぐえず、あまり手応えが感じ られない、というところがあります。その点、『アルゴ』は、仮に、実話ではなかったとしても十分『映画』として楽しめました と思えましたし、『ゼロ・グラビティ』は、今後ありそうな話として楽しめました。



【書籍】

 読んだ書籍は少ないのですが、充実した感触があります。世界文学関連書籍が三冊入っていますが、これは、「世界文学史」と いうものが今の時代成り立つのか、成り立つとすれば、どのように成り立つのか、などの疑問を解消したくて読んだものです。こ れらについては、来年まとめた記事を書く予定です。

1.世界文学とは何か
2.イスラーム書物の歴史(感想
3.歴史学の未来へ
4.古代ギリシャ・ローマの飢饉と食糧供給
5.なつめやし(感想
6.世界文学史はいかにして可能か
7.声の文化、文字の文化
8.ホスローと小姓紹介記事
9.プトレマオイス地理学(感想
10.(エリュトラー海案内記)(感想
11.初期イスラム時代 エジプト税制史の研究
12.言語都市
13.中華料理の文化史
14.最古の料理 ジャンポテロ著(書籍)
15.枯草熱(スタニスワフ・レム)

 『中国料理の文化史』で、漸く、漢代の食事に関する詳しい記載を知ることができました。古代のどういう文献に漢代の料理や 食事習慣が書かれているのか、がわかり、有用でした。

 『最古の料理』は、前16世紀メソポタミアの料理書の翻訳と解説です。現在のイラク料理と、前16世紀の料理に似たものが あれば、その中間のパルティア・サーサーン朝の料理も、そうは違わないだろう、という点で参考になりそうなので読みました。 『なつめやし』、『ホスローと小姓』もサーサーン朝の料理を知る為に読んだものです。また、中世に書かれた歳時記として、以 下の書物も参考になりました。歳時と農作業の関係などが記載されていて、古代イランの農業事情の参考になりました。
ノウルーズの書(PDF)


 今年読んだ書籍は少ないのですが、歴史学関連の雑誌論文や論説、pdfは結構読みました。今年は、数量経済史関連中心に読 んだので、これらについては、書籍とは分けて次回別途役に立った論文・pdfを並べてみたいと思います。


【コミック】

1.蒼のマハラジャ(神坂智子)
2.(南京路に花吹雪)(森川久美)(感想
3.マホロミ 時空建築幻視譚(冬目景)
4.−乙嫁語り(六巻)−(森薫)
5.夢はるか楼蘭王国(神坂智子)(感想


 「蒼のマハラジャ」は、1990年代前半に連載していた古い作品ですが、かねてよりあちこちで評判を耳にしていたので、た めしに1巻だけでも、と思って読み始めてみたところ、ぐんぐん引き込まれた作品です。ラジャスターンのマハラジャの話なん て、日本語情報が殆どないのだから、表層的な内容にしかならないのではないか、との先入観があったのですが、英語文献も読み 込んでいるのではないかと思える程の完成度合いを感じました。その後、マルコポーロの東方旅行を扱った『カラモランの大空』 を読み、後書きのユーラシア各国旅行の記事を読み、関心が出たので、同作者の旅行記本『ちょっと危ない世界旅』 、『エジプシャン・バクシーシ』、『夢はるか楼蘭王国』まで一気に読みました。旅行先の多くが私の訪問先と重なっ ているので、興味深く読めました。

 「南京路に花吹雪」は、蒼のマハラジャを読んでいて思い出して読み直した歴史作品です。1980年代から90年代初頭は、 少女漫画雑誌にハードな大型作品が多数連載されていた時代です(「スケバン刑事」とか「ブルーソネット」とか)。日中戦争開 戦前夜という難しい時期を、魔都と呼ばれ、各種勢力の入り乱れた、これまた複雑な情勢にあった上海を舞台に描いていて、この 難しく複雑な内容を、たったの4巻に収めた作者の力量に唸らされます。

 『乙嫁語り』は、2010年のベスト10に入れていて、これまでは、この年末のベスト10で一度ご紹介した作品は、それ以 降は入れないことにしていたのですが、今回から、継続作品も入れることにしました。相変わらずレベルの高さが継続している作 品です。

 『マホロミ』は、古い建築を扱っているという点でも私のツボにはまりました。

-2014./31/Dec

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2013年昨年読んだ書籍と観た映画ベスト10

 昨年見た映画と読んだ書籍のベスト10です。

【書籍】

1.Sassanian Pars(感想
2.Decline of Iranshahr(感想)
3.比較経済発展論、中国経済史(感想
4.ニーティサーラ(感想
5.ペルシア王スレイマーンの戴冠(感想
6.タックスヘイブンの闇
7.聖書考古学
8.イタリア語の歴史(感想)、アラビア語の歴史古代文字の解読
9.ガラスが語る古代東アジア(感想
10.ジハードの町タルスース(感想
11.漢代物質文化資料図説中国古代建筑史 (第1卷):原始社会、夏、商、周、秦、漢建筑、中国墓室壁 画全集1:漢魏晋南北朝(紹介記事
12.ハリウッド100年のアラブ―魔法のランプからテロリストまで、冒険商人シャ ルダン(感想

11.の漢代書籍は、資料集なので、読んだわけではありませんが、非常に役に立った書籍なので挙げました。古代ローマの建築 や日常雑貨などは日本でも様々な書籍が出ていますが、古代ローマの文物本に匹敵するような詳細な漢代文物の書籍を求めていた ので、この三冊、特に「漢代物質文化資料図説」は役に立ちました。写真が無く、すべて遺物のイラストなので価格が安く抑えら れています。出典が記載されているので、写真はネットで検索すればよく、お買い得です。


【映画】

1.ロペ (16世紀スペイン:日本未 公開)
2.タンロンの歌姫 (18世 紀ベトナム:福岡映画祭にて公開)
3.ヤズダギルドの死(7 世紀イラン:日本未公開)
4.オルダ(14世紀ロシア)

5.blue bird(近未来SF)
6.監禁探偵(感想
7.聖アウグスティヌス(3-4 世紀ローマ:日本未公開)
8.ザ・パージ(近未来SF:日本未公開)
9.スリーキングス
10.O.E.D. 証明終了(NHKのテレビドラマ)

 最後の「O.E.D.証明終了」は、漫画原作との比較という点から辛い評価が多いようですが、私は原作漫画を読んだことが 無かったので、楽しめました。昔のNHKの少年ドラマシリーズの雰囲気を出そうと意図した演出・脚本となっていたように思 え、レトロ感が良かった。「スリーキングス」は随分前の作品ですが、コメディだと思い込んでいて、見始めた時もコメディだと 思ってみ初めたので、ちょっと驚きました。

 歴史映画は、他にフィンランド映画「サウナ」(未公開)、ポルトガル映画「ミステリーズ 運命のリスボン」、デンマーク映画「ロイヤル・アファイア」が印象に残っています。ただ、ミステリーズは歴史映画というよりも、南米の幻想文学の舞台を 19世紀ポルトガルに持ってきただけという感じで、監督のラウル・ルイスはチリ出身ということで納得できました。本作は、公 開時見にいきたいと考えたものの、4時間27分という長さに尻込みしてし行かずに終わったものです。レンタルで見て正解だっ たかも。映画館なら寝ていたかも。18世紀末のデンマーク王室を描いた「ロイヤル・アファイア」は、あまり知らない地域・時 代なので、興味深く、美しい映像・リアルな衣装、俳優達の演技も良かったのですが、肖像画では美男の筈の宰相イメージとワイ ルドな感じの俳優さんのイメージが違いすぎてあまり入り込めませんでした。あまり期待してはいなかったものの、がっかりした のが、項羽と劉邦を題材とした「鴻門宴 (2011)」と「王の盛宴(The last supper:邦題(予):項羽と劉邦 鴻門の会:2012)」。どういうわけか中国で二年連続同じ題材の映画が。ひととおりメジャーな題材の映像化が終わってしまうと、同じ題材で調理方法を変 える方向にいってしまうのは仕方がありませんが、まだまだ中国史上における映画になる題材は多いと思うので、もう少し正攻法 の違った時代の映画を期待したいところです。今年は19世紀スペインに舞台をとった「ブランカニエベス」を観る予定。

 昨年は近年のSF映画を結構見た気がします。「オブリビオン(感 想)」、「ワールドウォーZ」、「ロックアウト」、「パシフィックリム」、「ニーチェの馬」、少し古いですが 「遊星からの物体X ファーストコンタクト」、「ハード・リベンジ・ミリー」、かなり古いですが「クローン・オブ・エイダ」 が良かった。勢い余って「アトランティック・リム」まで見てしまいました。「ワールドウォーZ」を見て、諸星大二郎の手塚賞 受賞作「生物都市」の実写映画化をしてみても面白いのでは、と思いました。一方、映画館に行こうと思っていて逃してレンタル で見た「カレ・ブラン」は思い切り期待外れ。「タイム」も期待外れでした。同監督の「ガタカ」と比べてあまりの退行ぶりに、 「ガタカ」と製作年が逆なのでは?と思ってしまった程。

 「blue bird」は静かに訪れる人類の終末を描いている小品。結構気に入りました。「人類の終末」という設定には、何故か海辺が似合うというイメージがありま す。「渚にて」やバラードの小説「終着の浜辺」などにイメージを植えつけられたのかも知れませんが、「blue bird」もラストは浜辺となっています。

 「パシフィック・リム」を見ていて気づいたことがいくつかあります。ゴジラ映画って東京タワーとか、都庁や幕張メッセな ど、日本の新建築物ができるたびに破壊してきたけど、今東京スカイツリーをゴジラに壊させる映画を作ったら問題になるだろう なあ。ブルジュ・ハリファや広州塔などを破壊する映画は作れないかも。と思っていたらゴジラ映画は既に上海テレビ塔を壊して いたとは知りませんでした。もうひとつ気づいたことには、私はゴジラ映画(関連怪獣映画含めて)を一本も観たことが無い、と いうことも知ったのでした。

 SF関連では、数年前の出版ですが、SF漫画の石黒正数の「外天楼」、戸田 誠二「スキエンティア」が印象に残っています。

 その他の映画では、「ブレーキ」、「おとなのけんか」(感想)、「さよなら、ドビュッシー」などが楽しめました。

今年はWeb上の記事も挙げてみました。

1.バハラム様のサイト「空の旅」のファールス州東部のササン朝遺跡調査旅行記(「空の旅」->イラン->2013)
2.政策研究大学院大学林玲子氏の2007年博士論文「世界歴史人口推計の評価と都市人口を用いた推計方法に関する研究」 
3.古代・中世ホラズム遺跡サイト「The Karakalpaks

特に1と3は、世界中で、ネット上に詳細な写真を掲載しているサイトはここしかないといえる内容で、情報量も半端なしに多い だけではなく、クオリティも非常に高い内容です。どちらも古代イランに興味のある人は必見です。

2013/Dec/31


2012年今年読んだ書籍と観た映画ベスト10
 今回はジャンル別に並べて見ました。

1,オスマン帝国史の諸相(感想)、イスラーム都市研究(感想)、エジプトイスラーム都市アル・フスタート
2.サンスクリット(感想)、インドの曙 ヴェーダとウパニシャッド(感想
3.パフラヴィー語の文法と文学、ペルシア語の話(感想)、ペルシア文芸思潮(感想
4.中国語の歴史
5.インドの文学(感想)、サンスクリット文学史(感 想)、フランス語の誕生(感想
6.中国建築史の研究トルコ・イスラム建築、Islamic Art and Architecture: From Isfahan to the Taj Mahal(感想
7.宰相ラークシャサの印章(感想
8.グローバル・ヒストリーの挑戦、グローバル・ヒストリーとは何か(感想)、経済史への招待
9.ローマ期エジプトにおける地方名望家 ― 2世紀アルシノイテス州のパトロン家の事例から

 今年は図説ふくろうの本、山川リブレット、ユーラシアリブレット、新書ばかり読んでる気がしましたが、それ以外の本は手応 えのある書籍がおおく、例年だと役立った本(専門書などは興味のある部分だけしか読まないので、半分くらいしか読まない本が 多い)が多数あるのですが、今年はそういう本が僅かしか無く、専門的な書籍は、数が少ないものの、上記にあげた本は全部読了 しています。

 それにしても図説ふくろうの本、ここ2,3年狂ったようにたくさんでているように思えるのは気のせいでしょうか。河出書房 新社のHPをみると、確かに2010年くらいから出版点数が急増しているような印象があるのですが、絶版となった書籍がHP に全て掲載されているのかどうか定かでは無いので、なんとも言えないのですが、印象ではここ数年の出版点数が激増している気 がします。かつて中央公論社の「物語 世界の歴史」シリーズが結構好評だったことがあったかと思うのですが、「物語シリー ズ」が頭打ちとなってきてしまい、読者の関心が「物語シリーズ」で描かれた地域への、視覚的段階へと向かったニーズを、図説 ふくろうの本がうまく救い上げた、という気がします。ただふくろうの図説も、世界史については基本欧米なので、欧米以外の地 域の図説シリーズも期待したいところです。

 冒頭に並べた書籍を見直してみると、大体、「語学史・文学史、建築史・遺跡、経済史、史料」本が殆ど全部です。自身の歴史 への興味の対象が、「語学史・文学史、建築史・遺跡、経済史・金融史、史料・映画」が中心であることを改めて認識した次第で す。なぜこういうことになっているのかを考えてみるに、旅行に行った場合、その国に入国して最初に必要なものは、貨幣、簡単 な言葉(挨拶、購買、など)の2つであり、入国して遭遇するものは、その国の視覚的な物体(建築物、風景)であるということ が、「語学・文学」「建築・遺跡」「経済・金融」に対応しているように思えます。更に言えば、これらは、主観的な世界認識の あり方(言語・文学、風景(建築・遺跡)、映画、叙述的な世界認識)と、客観的な世界認識のあり方(経済・統計・データな ど)に行き着き、多様な世界認識のあり方を知ることで、自身の先入観や価値観を耐えず相対化して視野を広げてゆき、現代世界 とその行く末についての考えを深めることにあるのだと思った次第です。結局のところ、私の旅行や歴史への興味の大元には、現 在世界とその未来へ思いを馳せる手段のなのだ、と思ったわけなのでした。

 今年は、言語・文学史本として、「韓国語の歴史」「朝鮮文学史」、「ベトナムの詩と歴史」も図書館で参照しました。分厚いのと出版が古すぎる (いずれも1975年以前)こともあり、一部を読んだだけですが、言語・文学史料・作品にどのようなものがあるのか概要を知 ることができて参考になりました。「アラビア文学史」、オランダ語とオランダ文学史本の「オランダ語誌」、ゲルマン語の概説史(他書との差別化の為にゴート語や北欧 語史の分量が多い)本である「ゲルマン語入門」は購入しただけで読んではいないのですが、来年読みたいと 思っています。ふくろうの本でも、図説ベトナム史やタイ史をそろそろ出して欲しいと思う次第です。

9行目にあげている「ローマ期エジプトにおける地方名望家 ― 2世紀アルシノイテス州のパトロン家の事例から」は、書籍ではなく、45頁のpdfですが、こういう情報をずっと読みたいと思って探していたので、まさに 念願の内容が読めて感激しています。 古代ローマ時代の「長期的平和な時代の地方の中堅層」の主観的意識や客観的なあり方 (訴訟や経済活動など)について、私にとってど真ん中の論考及び史料翻訳でした。皇帝の主観的記述であれば、マルクス・アウ レリウスの「自省録」があり、県知事クラスの役人の主観的記述であれば、「プリニウス書簡集」が邦訳でも出ていています(キ ケロやカエサルも著作を残していますが、特殊な時代の特殊な人々であり、更に世界史上でも図抜けた人々なので、彼らに比べれ ばもっと平凡で平和な時代を生きた人々の主観世界に興味があるわけです)。しかし、プリニウスクラスよりも更に下の階層は、 そもそも後世に残るような著作を残したりしない階層なので、史料がより少なく、なかなか意識を知ることができないのですが、 本pdfでは、古代ローマの地方の、しかもローマとかアレキサンドリアなどの特殊な大都市ではなく、エジプトの地方都市の郊 外で荘園を経営している一族の手紙の翻訳(p21以降45頁までが翻訳)が掲載されています。当時の一般の人々は、皇帝を実 際には何と呼んでいたのだろう。日々のカレンダーはどのような言葉で認識していたのだろう、など日常生活の意識や認識に関す る記載が色々登場しています。

 また、本論考の前半は、史料の分析を行っており、納税リスト(当時の地主層のランキングがわかる)や、文書の残る特定の年 のある地主一家の収支決算、小作人との貸借関係や、州長官との距離感、アレキサンドリアのような総督所在大都市との関係、物 価、農村部の貨幣経済、(ローマ政界に打って出るような人物を出すような特殊な家柄ではなく、あくまで地方で終わった一族の 系譜の復元)など、社会史、数量経済史、地方行政史等かねがね知りたいと思っていた情報がふんだんに掲載されていて、この論 考の存在を知ったのは午前零時を回り、寝る直前だったのですが、翌朝いつもより早めに出勤しなくてはいけなかったのにも関わ らず、午前2時までかかって一気に全部読んでしまったのでした。ローマ時代は都市は遺跡がふんだんに残っているので景観はわ かりやすいのですが、農村の景観はいまひとつイメージし難いものがあります。本論考は、ローマ時代の農村部の景観についても 多くの情報を与えてくれました。自分の中では、ローマ時代への興味はこれで一区切りついてしまったようにさえ思える貴重な論 考でした。こういう史料が帝政期のローマ全土について残っていてくれると嬉しいんですけれど。



 今年は映画はあまり見ませんでした(といっても50本くらいは見ているので、平年並に戻ったということです。昨年が異常で した)。一位の「カティンの森」は、昨年であれば、11位というところでしょうか。

1.カティンの森(1940年のカティンの森事件)
2.緑の火(3世紀から現在までの イラン)
3.「壮麗なる世紀」(16世紀トルコ)第63話の最後の4分半
4.テレサ-キリストの体(16 世紀スペイン)
5.ゼノビア(3世紀ローマ)
6.プリンセス・エーボリ(16 世紀スペイン)
7.神弓(17世紀朝 鮮)
8.「フード・インク」と「いのちの食べ方 Our Daily Bread」(グローバリゼーション批判)

 最後の2本は、同じような傾向の作品なので同じ順位に並べました。聞き知ってはいたものの、食肉の製造がここまで機械化さ れ、テニスボールのように鶏が製造されてゆく映像は衝撃でした。






(この後、雛は壁一面の棚の「引き出し」に入れられるのだった)

 考えてみれば、子供の頃、実家の近所に養鶏場があり、孵った雛の雌雄をえり分けて、バスケットにポンポン放り込んでゆく作 業や身動きできない棚に詰め込まれた成鶏を思い出すに、それが機械になっただけで、あまり変わらないわけですが、しかしまあ 改めて、食事前に食肉・魚に限らず、野菜・果物含め、感謝する習慣が戻ってきました。キリスト教徒なわけではありませんが、 日々の食事が他の生命の上に成り立っていることを忘れずにいたいと思います。

 ところで、ベスト10に入れたい程ではありませんが、今年他に印象に残った作品には以下のものがあります。

・プロメテウス
 エイリアン(1979年)のパクリ映像がよかった。前半「エイリアン」と同じようなカメラワークが何度も登場し、「最後ま でこれでいくのか、さんざんパクリ映像を入れておいて、どこかの時点でオリジナルに向かい、予想を裏切ってくれるのか」とい うような、ホラー映画(お約束と裏切りをうまく入れるのがミソ)を観るノリで楽しめました。

・トータル・リコール
 未来都市の映像に期待しましたが、期待外れ過ぎて反って印象に残ってしまいました。CGCGし過ぎで、80年代以前の未来 都市絵画をそのまま映像化しただけな感じ。未来都市映像としては、「フィフス・エレメント」や「マイノリティ・レポート」と 比べても新しさを感じなかったのが残念。

 とはいえ、この二本は、「エイリアン」「ブレードランナー」「トータル・リコール旧版」を見ていない若い世代にとっては、 この三本を公開時に観た世代が公開当時に受けたのと同じようなインパクトを受けるかも知れません。

・Fetih 1453
 1453年オスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落を扱った、恐らくトルコ今年最大のヒット作。
 予告編映像で予想したよりは良かったものの、やはりゲーム映像に見える部分も多く、CGで再現した末期コンスタンティノー プルの宮殿が大きすぎ・きれい過ぎなど、感想を書いてて自分がわがまますぎるとは思うものの、もう少しリアリズムを追求した 作品が将来的に登場して欲しいと思う次第です。



2011年、役に立った書籍・面白かった書籍ベスト12、映画ベスト50


 今年は映画ばかり見ていたので、本はあまり読めませんでした。

1.通貨経済学入門(感想
2.Autobiography of Emperor Charles IV: And His Legend of St. Wencesias (Central European Medieval Texts)(感想
3.王権と貴族(感想
4.ビザンティンの聖堂美術(感想
5.最新 世界情勢地図 パスカル・ボニファス著(感想
6.ギリシア危機の真実(感想
7.欧州激震(感想
8.ソブリン・クライシス(感想
9.民主主義がアフリカ経済を殺す
10.終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (感想
11.欧州連鎖危機(感想
12.インド建築案内


 2のカレル四世自伝は、半分ラテン語なので読めず、実質100頁。3は実質180頁しかなく、論文が底本とはいえ、写 真や地図も掲載されており、文章も平易なので、3時間程度で読み終わってしまう内容。4は1/3が写真と図。これも3時 間程度で読める書籍。5は事実上地図帳、12は写真集に近いので、読んだというより、眺めた本。

  9と10は、年頭の「アラブの春」に触発されて震災前に読んだもの。 1,6-8、11は、10月初のベルギーのデ クシア破綻をきっかけに再燃した欧州債務危機をきっかけに読んだもの。

 というわけで、今年読んだ書籍で多少重たい本は、「民主主義がアフリカ経済を殺す」と「欧州激震」くらい。来年は、今 年買い込んだだけで終わった重たいポーランド史の書籍、「匿名のガリー年代記」や恒文社「ポーランド史」、「EUにおけ るポーランド経済」などを読みたいと思っています。

 大して読めなかった書籍に対して映画は異常に沢山見れました。全部で124本。うち109本が歴史映画です。、1年間 でこんなに見たのは学生時代以来のことです。

 以下、今年見た映画のベスト50です。大作映画ばかりげっぷが出る程見たためか、小品が結構上位に来ました。


1.フランス王妃ヤロスラヴナ(11世紀ロシア) 
2.Into Eternity 100000万年後の安全(ドキュメンタリー)
3.カー ディシーヤ(7世紀サーサーン朝)
4.偉大なるムガル帝国(16世紀インド)
5.ク ニャーザット(13世紀ブルガリア)
6.王妃 ボナ(16世紀ポーランド)
7.ハ ン・アスパルフ(7世紀ブルガリア)
8.クライシュ族の鷹(8世紀スペイン)
9.こ の私、クラウディウス(1世紀ローマ) 
10.王家の夢(15世紀ポーランド)
11.黄 金の世紀(10世紀ブルガリア)


11.ミ ハイ勇敢公(16世紀ルーマニア)
12.BBC The rise and fall of Empire 第三話 ティベリウス・グラックス(前2世紀ローマ)
13.戦 車を駆る女王テオドラ(6世紀ビザンツ)
14.女 教皇ヨハンナ(9世紀ドイツ・イタリア) 
15.クル ム汗(9世紀ブルガリア)
16.秘密兵器(14世紀ブルガリア)
17.マンガル・パンデイ(19世紀インド)
18.ニーベルンゲンの歌(1924年版:ドイツ)
19.聖 ヴァーツラフ(10世紀チェコ)
20.異教の女王(8世紀チェコ)

21.荊の城(19世紀英国)
22.シンデレラの醜い姉の告白(17世紀オランダ)
23.バー バラ・ラジウヴナのための墓碑銘(16世紀ポーランド)
24. ポンペイ最後の日(1984年版:1世紀ローマ) 
25.王 の代官(13世紀チェコ)
26.ブレインデット(スプラッターコメディ)
27.Clash of Empires(アレキサンダーの剣)(2世紀ローマ・漢) 
28.キョセム・スルターン(17世紀オスマン 朝)
29.ヨアン・アセンの結婚(13世紀ブルガリア)
30.アル・クアッカー・ビン・アムル・アル・タミーミー(7世紀正統カリフ時 代)

31.アレキサンドリア(5世紀アレクサンドリア)
32.バートリー(17世紀ハンガリー)
33.カラムラト 海賊編(15世紀オスマン朝)
34.ヴ ラド・ツェペシュ(15世紀ルーマニア)
35.カジミェシュ大王(14世紀ポーランド)
36.黒死病(1348年英国)
37.ハンナ(スパイもの)
38.ミ ルチャ公(14世紀ルーマニア)
39.ツァール(16世紀ロシア) 
40.七人の眠り男(2-5世紀ローマ)


41.エジプト製ドラマ・クレオパトラ(前1世紀エジプト・ローマ)
42.ロー マのヒーロー(前5世紀ローマ)
43.勇者ヨシヒコと魔王の城(ギャグ)
44. 鷹の眼(1218年デンマーク)
45.アナスタシア・スルツカヤ(15世紀頃ベラルーシ)
46. グッバイ!レーニン(1989-90年東ベルリン)
47.パイレーツ・オブ・バルト(14世紀デンマーク)
48.サンタ・サングレ(サイコスリラー)
49.アンダーグラウンド(1939-1992年のセルビア)
50.ソロモン王(前10世紀イスラエル)

 リンクのあるものは、感想を記載したものです。ドイツ歴史教育番組「DIE DEUCHEN」は教育番組なので一覧からは外しましたが、これも良い作品でした。

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2010年面白かった本・役に立った本ベスト10


 殆どこのブログでご紹介してきた書籍ですが、本好き・歴史好きな方のご参考になれば、とちょっとまとめてみました。今年は 調べものが多く、参照した書籍は例年よりも多いのですが、読んだ本は少ないので、ベスト10もぎりぎり10冊用意できた感じ です。

1)面白かった本ベスト10

1.アレクサンドロス変相
2.クリスティ・ハイテンション
3.ガヴァネス
4.ピラミッド以前の古代エジプト文明
5.レイモンド・デ・ローヴァー「為替手形発達史―14世 紀から18世紀―」
6.イタリア病の教訓
7.イスラーム世界の創造
8.ドイツ病に学べ
9.QUO VADIS~クオ・ヴァディス
10.乙嫁語り

 コミックが3本も入ってます。。。。これ以外に読んだのは、岩明均「ヒストリエ」の第6巻だけだから、結構コミック率が高 くなりました。それにしても今年はコミックを読まなくなりました。中国駐在中でさえ、出張帰国時に、まんが喫茶で、「医龍」 「クロサギ」「ラストイニング」の3本をまとめて読んでいたのに、帰国後はまんが喫茶にもいかなくなり、これら3作も途中で 興味が途切れてしまった感じ。中島梓(栗源薫)が1989年のエッセイ「マンガ青春記」で、「我々は死ぬまでマンガ を読み続ける最初の世代」と記載していましたが、どうやら私は脱落しそうな感じ)。

 また、今年は、1988年の創刊以来20年に渡って毎年購入し続けた「このミステリーがすごい!」を買わなかった、 という点でも、読書傾向が変わった年といえるかも。

「クリスティ・ハイテンション」は、アマゾンのリコメンド機能で知った作品。今年の夏頃経済について調べていて、下記「役 立った本」にも出てくる「経済政策の課題」の中で、19世紀末英国の大不況と長期デフレについて知り、大不況期の英国経済に ついて様々な文献を渉猟しているうちに、アマゾンのリコメンド機能で上位にあがってきたもの。「クリスティ・ハイテンショ ン」5冊中3冊はブックオフで購入したのですが、2冊をアマゾン中古を購入したところ、新谷かおるの著作が上位に来るように なってしまい、「エリア88」「砂の薔薇」などを「持ってます」とやったところ、今度は「QUO VADIS~クオ・ヴァディス」がリコメンドの上位に来るようになってしまいました。ブックオフかなにかで内容を確認しないことには、「興味がありませ ん」ともできないので、3ヶ月間リコメンドの上位を占め続けられ結構邪魔だったのですが12月下旬に第1巻が送料含めて 251円に下落したので、試しに一冊購入してみたところ、まあまあ面白く、その2,3日後にブックオフで、2,5,6巻が 100円、3,4巻が350円で出ていたので、とりあえず6巻まで読んだところ。たまたま読んだ直後なので、ベスト10に入 れてしまいましたが、読み返す程の作品ではないかも。だいたい年末にベストなどを考えると、年の後半の作品に偏るものです が、今年は、1月から6月中旬まで殆ど本を読めずに終わったので、後半
に偏らざるを得ないのでした。それにしても、「クオ・ヴァディス」は6巻まで1251円かけてますから、新宿まんが喫茶の5 時間コース分。まんが喫茶に行ってもよかったかも。引っ張るストーリーは面白いのですが、完結した後は古書屋行きになりそう な予感。

 「クリスティ・ハイテンション」は、シャーロック・ホームズの姪が登場する推理物。アマゾンのレビューを読んで、「いくら なんでも子供とホームズの取り合わせは。。。。」と最初は興味が無かったのですが、結構好きな「砂の薔薇」のキャラが登場し ているということで購入してみたところ、何度も読み返すようになってしまい、ドイルの原作も再び読みたくなってしまったので すが、原作を読んでみたところ、なんと、おじさんばかりしか登場しない味気ない作品に思えるようになってしまいました。「ク リスティ」と原作とでは、カラーとモノクロ写真くらいの違いを感じるようになってしまい、原作を読めなくする程の影響力が あった作品ということで、「クリスティ」が上位に来てしまいました。まあやはり、女性が登場する方が華があっていいというこ となのかも。また、10歳の主人公が全面的に活躍するわけではなく、経験・知識も豊富なホームズが、結局は原作通りに解決す る話も多く、クリスティは寧ろワトソン役であったりすることもあることから、ホームズの存在感を損なうことなくバランスのと れたストーリ展開となっている点も、うまく料理した作品、という印象です。

 「ガヴァネス」は、図書館でたまたま見つけ、題名を見ただけでは中身がわからない歴史本などまず無い、と思っている程の歴 史オタクを自負しているのに、わからなかったのが悔しかった作品。中身を見たところ、ヴィクトリア朝の話だとわかり、読んで みた次第。要するに10冊のうち、7冊は、夏の参議院選挙以降経済政策についていろいろ調べているうちに出くわした本関連と いうことなのでした。ちなみに「カヴァネス」の次はレビューで評判の良い中公新書の「ヴィクトリア女王―大英帝国の“戦う女王”」を 借りてきて、2,3興味のある箇所を読んでみたのですが、大英帝国の頂点を築いた偉大な女王というイメージに期待していたせ いか、武帝の祖母竇太后や元帝夫人王政君など、老年になって子供や孫の皇帝に口出すばあさん、というイメージになってしまい ました(女王の場合、子と孫の帝に相当するのは首相と議会)。まあ19世紀の歴史に如何に自分がこれまで知識も興味も無かっ たのかがよくわかりました。それにしても女王の死の床にヴィルヘルム2世(孫)がいたとは。この様子を見るに、ヴィルヘルム にしても、世界大戦があんな悲惨な長期戦となるとは思っても見なかった、という話は本当なんでしょうね。。。。
(ちなみに19世紀英独経済本のみならず、ビスマルクの伝記まで読んでしまいました。ぜ んぜんベストに入ってませんが、結構この時代についての読書率のポーションは高かったんですよね)。

 最後の「乙嫁語り」は、近所の本屋に「ヒストリエ」6巻を買いに行った時に、平積みになっている扉絵を見て購入したもの。 同じ作家の他の著作を読んだことも、絵すら見たことも無く、読者評も読んだこともなく、そもそも聞いたことも無い作家の本 を、扉絵だけで購入したのは、恐らく人生初めてのことです。それだけ、扉絵の民族衣装にただならぬ作者の造詣と熱意を感じた ためです。そしてそれはあたりました。「古代世界の午後」のサイトの方ではまったく紹介しておりませんが、実は私は民族衣装 も好きで、旅先の民族衣装の写真はかなりあります。「乙嫁語り」は、いづれこの辺の経緯を含めてブログ記事でもわたしなりの ご紹介してみたいと思っている作品です。それにしても、作者が「あとがき」で書いている心情。。。。ものすごくよくわかりま す。



2) 役に立った本ベスト10

1.アレクサンドロス変相
2.レイモンド・デ・ローヴァー「為替手形発達史―14世 紀から18世紀―」
3.Exploring an Islamic Empire: Fatimid History and Its Source (I.B.Tauris in Association With the Institute of Ismaili Studies)
4.「The Sasanian Era (The Idea of Iran)
5.経済政策の課題―経済改革からデフレ出口戦略まで
6.新しい国際金融
7.インド厄介な経済大国
8.記録と表象 史料が語るイスラーム世界 (イスラーム地域研究叢書)
9.Introduction to the Sources of European Economic History: Vol.1: Western Europe, 1500-1800
10.「清朝支配と貨幣政策」
11.古代エジプト都市文明の誕生
12.「嘘と貪欲
13.Assar氏のパルティア関連論文
14.「中国歴史研究入門」

 これらの本は、資料や次のステップへの道を開いてくれた、という意味で、全部読んだ本は殆ど無いのですが、一冊を例外とし て、基本的に半分程度読んだ本を目安に入れてみました。「Introduction to the Sources of European Economic History」なのですが、これはデータ集という側面が強く、読破するようなものでも無いので、例外扱い。残りの「アレクサンドロス変相」は3/4、 「The Sasanian Era」と「記録と表象 史料が語るイスラーム世界」は7割くらい、今丁度読んでいる「Fatimid History and Its Source」が6割、「経済政策の課題―経済改革からデフレ出口戦略まで」と「新しい国際金融」に至っては3から4割程度(ただし今後も参照するのでい づれは7,8割はカヴァーすると思われる内容)。全部読んだのは、「為替手形発達史―14世紀から18世紀―」(翻訳が出て いる部分だけだけど)「インド厄介な経済大国」「古代エジプト都市文明の誕生」くらい。最後のエジプト本は、「なんでこんな 感じの古代イラン本が出ないんだ!」という見本として役立った、という意味で入れました。

 ところで、「Fatimid History and Its Source」を購入したのはもちろん、「アジア歴史研究入門 第4巻」の前期アラブ の史料案内の最後の行で、

 「なお、ファーティマ朝に関する文献については紙数も尽きたので割愛する」(p554) 

と書かれてあった為で、わざわざ購入せにゃならんかったものです。それにしても題名通り、理想的な書籍でした(欠点もいろい ろあるけど)。序章で全体の概観を行い、前半で歴史、後半で、史料(コイン、碑文、建築物、同時代史料(文書、伝記)、後世 の歴史書(アユーブ朝やマムルーク朝に書かれたもの)、文学、現代の研究状況)など、あまり知られていない国の入門書とし て、歴史と史料を半々で扱い、しかも現在の研究状況が記載されている点、理想的な書籍です。後ウマイヤ朝、マムルーク朝、グ ルジア史などについても、こんなスタイルの書籍が出て欲しいものです。本書については来年本ブログでも紹介するつもりです が、昨年年末から今年年初に読んだ「アレクサンドロス変相」、1年間、ブログで紹介しようと思いつつ、遂にできないまま終 わってしまったかと思うと、ファーティマ朝本や「乙嫁物り」もどうなることやら。
 
 それにしても、今年はめっきり新刊を買わなくなりました。今年購入した新刊は、「ヒストリエ6」「乙嫁物語1-2」(メア リー・ボイスの)「ゾロアスター教」「素晴らしき新世界」ドイツ経済―統一後の10年」「朝鮮貨幣金融史」「中世末南ネーデルラント経済の軌跡」だけ。し かも後半の4書は、Amazonに出ている中古よりも書店の新刊の方が安かったからという理由。

 最近は都立図書館に行っても、館内のインターネット用PCでアマゾンを検索し、1枚25円のコピーをとるか、アマゾンで購 入した方が安いかどうか判断、書店に行っても(私はiPhoneなどを持っていないので)、価格と題名をメモして帰って、自 宅でAmazonはじめネット古書店で金額を確認、最後に近所のブックオフで確認し、最安値のものを購入、という習慣が根付 いてきてしまいました。
 新刊が出ないと出版社と作家が追い詰められてしまうし、そもそも本ブログや、私がアマゾンレビューを書いてる目的は、マイ ナー本の流通を図って、良書の流通を図ることと同時に、例え10冊数万円程度でも著者と出版社の資金に寄与できれば、と思っ てやっている筈なのですが、ひどい矛盾を感じています。
 ただ、もともと出版社志望だった私がIT業界に入った理由が、情報の流通の促進と、既存メディアからの自由化であることを 考えれば、出版社や作家さんにも、より付加価値の高い情報とは何か、電子出版を通じて絶版書で収益を上げる、著作権切れの書 で採算割れなものは、青空文庫や図書館に全面的に任す、海外在住日本人向け流通コストを下げる、図書館との競合を考え直す、 など、様々な可能性があるものと思う次第です。

2010/Dec/30





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